第52話:乱入の戦士


「貴様、横殴りとはふざけているのか!?」

 

 戦闘が終わり数秒後、敵が完全に消えた所でナユタのファンクラブの会員改め、イサムさんが現れた男にそう言った。


「横殴り? いや、助けただけだろ」

「常識が無いのか?」

「――あの状況を見るにあんたらあのままだと死んでたぞ? いいのか死んで」

「まだ私達には余裕があった。それを考えずに倒すのはどうなのだ?」


 ――ちょっと思ったが、この話は平行線だ。

 多分イサムさんはプレイヤー目線で話しているが、この現れたばかりの男は今の所名前が表示されていないのだ。

 この世界の法則の一つにNPCは名乗らない限り名前が表示されないというのがある。一般のプレイヤーは常に頭の上に名前が出ているが、NPCに限ってはそうではないから。


「割り込んで悪いが、ありがとな助かった」

「おう! それにしてもよく怨骸の本体まで出せたな――流石旅人達って感じか?」


 ビンゴである。

 この言い方って事はこいつはNPCだろう。

 それにしてもこの世界は最終ゲージが一番多い筈なのによく削れたなこいつ、さっきの言葉的に御霊も持っている様だし、かなり特別な奴なのかもしれない。


「でだ、あんたは誰なんだ?」

「俺か? 俺はセタンタ、一応エルフで……あとなんだ?」

「俺に聞くなよ……」

「はははそれもそうだな! まぁなんだ、よろしくなあんた等!」


 こんな陰気な場所で凄い元気だな。

 ニカっと笑いながら握手を求めてくるその男、断る理由もないので応えればめっちゃ嬉しそうにしてくれた。


「でだそこの死にかけのあんたは大丈夫なのか? 相当生命力が減ってるが、しかも呪いの類いだろそれ」

「あ、忘れてた――禍津解除だ」

『む、忘れていた悪いな主様』


 セタンタに言われて装備を解除してないことに気付いた俺は禍津を外しステータスが下がる感覚に襲われる。戻ったって言った方がいいが、常に数倍のステで動いている身からするとやっぱり違和感があるのだ。


「まじかすっごい御霊だな、俺と似たような奴なんて初めて見たぞ? なぁクリード挨拶しろよ!」


 クリードというのは彼の持っている蛇腹状の槍だろうか? さっきまで魚だった事を考えると同じタイプの御霊には見えないんだが。

 

「やだよ糞野郎、これに比べたらオレ様の方がマシだぞまじで」


 だけど次の瞬間、その槍が紅い髪をした少女に変わったのだ。

 鎖に巻かれた銀の衣服を纏ったその少女は刺々しい雰囲気を持っていて、見るからにこっちを威嚇している。


「俺から見るとどっちも同じだぞ?」

「はぁーこれだから馬鹿は困る。マジで殺してぇ」

「御霊……なんだよな?」

「そうだぞ! な、クリード」

「悔しいがそうだよ……マジで不服だけどな」


 どういう関係なのだろうか?

 今まで出会ったこの世界の住人の御霊はハクトとアステールぐらいだが、こんなに険悪なのは見たことない。


「それにしてもお前――本当に厄介なのに好かれてんな」


 急に態度を変えたクリードという少女が俺を見上げながら目を合わせそんな事を言ってくる。魂の底を覗かれるような感覚、中身を全部見られるような気持ち悪いそれ、変な不快感に襲われ言葉を詰まらせてしまう。


「――しかも上質すぎる魂ときた。なぁお前この糞野郎が死んだらどうだ? ちゃんと絞り殺してやるからよ」


 なんか無駄に好感度高くないか?

 セタンタに比べて対応が違うというか、その変わりようがかなり気味が悪い。


『そこまでにしろよ異国の海魚、妾の主に何するつもりだ?』

「唾つけるだけだっつーの、それともぽっと出の奴に取られるほどにお前等は浅いのか?」

『――主様、こいつ嫌いだ!』

「はいはい落ち着け禍津」


 ちょっと雑にあしらいながらも俺は俺で思考を巡らせる。

 ……という前に今回の目的を達成しないといけない事に気付いた。


「ナユタ、呪いって解けたのか?」

「うん、この人が倒したからなくなったと思う。詳しくは見ないとダメだけど、痕跡は感じないかな?」

「あ、そうだ。あんた等雄鹿を助ける為に来たんだろ? 経緯は知らんが、終わったし早く戻ってやれよ。あんた等の仲間であろう奴ら頑張ってたぞ?」

「……何?」


 聞いてみればどうやらセタンタはファンクラブの残った2人に言われてここに来たらしいようだ。


「それに疲れてるだろうし、よかったら帰りの護衛するぞ?」

「それは助かるな、色々聞きたいこともあるし護衛頼んでもいいか?」

「おう、この近くは完全に覚えてるからな道案内ついでに話そうぜ!」


【NPCがパーティに参加します】

【セタンタが一時加入しました】


 そういう事になったのでセタンタが一時的に仲間になった。

 墓地を抜け森を進んでいる間に好奇心がてらに彼のステータスを見てみればそこには異常な文字列が。


――セタンタ

LV:150

JOB(職業):クーフーリン


 見れたのはこれだけ。

 だけどこれだけで異常って事を理解出来た。

 理由は二つ、まず最初にレベルがカンストしてること、そしてもう一つがJOBが人名となっている事だ。

 前に旅した仲間である久遠のレベルも高かったが、こいつはカンストしている。 

 しかもJOBが人名って事はユニークユニークジョブって事になる。

 完全にゲーム知識だがクーフーリンというのは確か外国の英雄だった気がするし、これはどういうことなのだろうか?

 そもそもユニークジョブをこの世界の住民が取れるのかという疑問が出てくるし、マジでこいつ分からない事が多すぎる。

 聞くに聞けないし、どうするべきか悩みながら歩いていれば何の問題も無く俺達は元の鹿が居る場所に辿り着くことが出来た。


【ランダムクエスト:森の聖獣をクリアしました。旅人に報酬が支払われます】


 辿り着き合流すれば流れてくるアナウンス。

 貰った物の中には見慣れないアイテムが沢山あり、どれもがレアリティが高そうだった。そしてその中に気になった物が一つある。


「……えっと汚染された枝葉?」

「私にもある……なんだろこれ」

「こちらにはないぞ2人とも、なんだそのアイテムは?」


 あったアイテムはどれも良い雰囲気を漂わせるような名前とテキストだったのに、これだけが変だった。なんというか取り出してみても禍々しいし、何より枯れてないのに弱々しいというか……言葉に表せない。


「浄化できそうだけど……どうしよセツラ?」

「テキストも見えないし異質、ちょっと放置だな」

「ん、分かった」

「あんたらどうしたんだ? ――待て、ちょっとそれ見せてくれるか?」

「いいけど、どうした?」


 セタンタの奴が俺が持っている枝葉を確認し、なにやら考え込み始める。

 

「なぁセツラとナユタだっけ? よかったらで良いんだが、エルフの里に寄って欲しい頼めるか?」

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