第51話:限界ジリ貧戦闘


「あぁーもう、まじでこいつ嫌だ」


 迫る巨大な腕を雷斬りを使いながら放たない状態で保ち、なんとかパリィをする。

 ――こいつは生物的に魔法生物という扱いなのか、魔法に関する攻撃しか効かないしなんなら攻撃が刀貫通してすり抜けてくる。 

 最初それを知らないうち普通にパリィしようとして、刀をすり抜けられて死にかけた。ナユタのスキルが無ければ普通に死んでただろうし、初撃で終わっていた可能性すらある。

 雷を纏っている状態なら防げると分かったが、気付くまで本当に大変だった。


「……今十五分、何回攻撃当てれたっけ?」

「俺は数発、多分雷斬りで5~7」

「私が聖属性纏って沢山殴ってⅠゲージ……銀珠のおかげでⅡゲージ目に入ってるけどかなりキツいね」

「普通にジリ貧だよなぁ俺が火力に貢献できねぇ」


 今のレイド戦の人数は3人と一匹。

 魔法判定ある攻撃を持っている銀珠のおかげでなんとか今まで戦えているが……さっき言ったとおり十五分以上戦ってまだⅡゲージなのだ。

 Ⅰゲージの体力は少ないが、こいつはゲージが多くその上――。


「ッナユタドラウグ処理するぞ!」

「流石にそっち優先、守護頼むね」

「任された! ――流石に早く頼むぞ自分の集中力も限界だ!」


 洞窟ではなく墓場から湧いているドラウグ。

 それを目にした瞬間に俺達は標的を変えてそいつの処理を選んだ。

 SPを惜しみなく使い一撃でドラウグを倒す――本来ならレイド戦でボスより優先してSPを使うのは止めた方がいいのは分かるが、この怨骸のドラウグに関してはマジで雑魚を優先しなければいけないのだ。


「……これで暫くは大丈夫だろ」

「だと……思いたい」

「スキルが切れた――タゲがそっち向かうぞ!」


 その瞬間発動する危機感値、体力が1だからこそ発動したそれだがナユタの反応が僅かに遅く、このままだと彼女は確実に被弾するだろう。

 咄嗟の判断で俺は彼女を抱えてその場から離脱すれば、直後その場所には腕が振り下ろされ地面に大きな穴が空いた。


「ありがとセツラ、でも私の体力的に庇わなくても――」

「大人しく感謝してろお前、流石に幼馴染みが潰されるのは見たくないぞ」

「……ん、分かった」


 ――仕切り直して振り向き直し、俺が刀を構えればそこにはこっちを見て嗤う骸骨頭が見える。

 どう見てもこっちを見て楽しんでいるこの敵は、俺等に決定打が無いのを分かっているのだろう。


「銀珠のMPも足りないし、俺も攻撃手段が雷斬りのみ――パリィに使うからそれもあんま使えなくてで……こいつまじで面倒くさいな!」


 物理攻撃は効かず、物理をすり抜け攻撃を当ててくるという特性を持っている。

 今まで戦った鵺やハーデスのように強いや巧いじゃなくて、分類としてはまじで面倒くさい敵だ。


「ナユタ怯ませるからダメが入る技頼む」

「チャージ時間かかるよ?」

「そこはまぁ回避タンクとして動くわ、パリィは雷斬り纏ってなんとかするから安心してくれ」

「――分かった信じるね」


 作戦を決め俺は再びドラウグに向かい、タゲがこっちに向いたのを確認してスキルを使い一撃入れ、完全にこっちに注視したのを確認出来た。


「俺が相手するからナユタ守ってくれ!」


 回避タンクに徹するな一対一の方がいい。

 それにタンクには魔法攻撃を防げるスキルがあるのは確認できたので、何かあったときの保険でもある。

 ナユタのファンというのなら完全に彼女を守ってくれるだろうし、そこに関しては信頼できから。


「……さぁここからが正念場、ゲージ残り二本を削るためにも頑張ろうか」


 ――そして始まるのは回避戦。

 避けて雷を纏いながら弾くを繰り返し、何度も同じ動きを繰り返す。

 相手は珍しくワンパターンな敵……というより体的に出来る攻撃が限られるのだ。大振りの薙ぎ払いや叩き潰し、そして頭からの魔法攻撃と言ったものしかなく一度覚えてしまえば避ける道は見つけやすい。

 だけど、問題点が一つ。

 ナユタがチャージし俺が回避タンクに徹していると起こる事が……それは。


「やべドラウグの処理間に合わねぇ!」


 湧いたばかりのドラウグを見逃してしまうと言うことだ。

 何故俺達が頑なにドラウグを処理してたのか、その理由は単純で――この怨骸のドラウグは、自分で倒したモンスターのHP分回復してしまうから。


「ッ雷斬り使うか? ――いや、それだとパリィできなくなるし」


 口に出し思考を形にする。

 ここで俺が取れる選択肢は二つであり無理にでも雷斬りを使って体力を減らすか、このまま回避タンクに徹しつつづけてもっかいチャージ攻撃をして貰うか……最悪なのが相打ち覚悟で八十の太刀+雷斬りを使うという選択だが、それはナユタが選ばせてくれないだろう。


「セツラチャージ終わり合わせて」

「了解――【雷斬り】!」

「【龍魔の一刀】」


 俺が相手に雷斬りを叩き込む。

 怯ませるように使ったその一撃は相手から莫大な隙を奪い、その直後に魔法判定であろうモノを纏った刀の一撃が相手を切り裂く。

 その一撃は、相手の頭蓋を破壊して――完全に一本のゲージを削りきった。


「まだ残ってる?」


 ゲージは削れた。 

 だけど、まだ残っているのだ真新しい一本のゲージがそして骸骨の中から本体であろう化物が姿を現した。


「ナユタもっかいチャージ頼む!」

「了解。あれ、待って何か来る?」

 

 ナユタの声に釣られて耳を澄ませば、確かに何か……いや誰かが走ってくるような音が聞こえてくる。

 それは徐々に近付いてきて、この墓場に何者かが現れた。


「ッし間に合った! ――行くぞクリード!」


 現れたのは紅い髪をした獣を思わせる風貌の男。

 少し見えた耳の長さ的にエルフだろうその男が、周りに浮かぶ魚らしき生き物に声をかければその魚が蛇腹状の槍となる。


「――御霊解放【ゲイ・ボルク】!」


 御霊を使っただろうその攻撃、それは神速と言っていい程の投擲であり、現れた本体を完全に貫いた。

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