第49話:【非公式】ナユタ様ファンクラブ

「……で、離れたしちゃんと話してくれ」

 

 後ろに銀珠を待機させ、とりあえず話を聞くことに。

 尾行してきた理由はまじで検討つかないが、ナユタに関係してることは分かる。


「まず先に言おう、自分達はナユタ様のファンクラブの会員だ」

「え、そんなんあんの?」


 至極当然であろう疑問。彼女がトッププレイヤーであり有名なのは知っているがそんなものまで出来てるなんて驚きだ。

 ……え、つまりこれどういう状況?


「――尾行してきた理由は?」


 一応最後まで理由聞かない限りは判断できないしという事で、俺はこいつらに質問する。これで危ない理由だったら銀珠に振り回して貰うことまでは考えて……。


「クエスト関連でナユタ様の力を借りたいのだ」


 詳しく聞けば、この新エリアで見つけたクエストの一つに巫女関連のJOBでなければ達成できない物があったらしくて、ファンクラブの会員であるこいつらはナユタならばと思い探して後をつけていたようだ。


「それなら別にナユタに話せば手伝ってくれると思うぞ」

「いや緊張するであろう?」


 このパーティーのリーダー格であろう男が喋れば、同意するように後ろの二人が首を縦に振った。尾行してる時点で……とも思ったが、憧れてる? 人に話しかけるのは緊張するので分かるから。


「おーけー、じゃあナユタに頼みに行くか」

「よいのか?」

「いや、断る理由無いだろ」


 そうゆう訳でナユタの元に戻り、ファンクラブの話を除いて事の顛末を話せばナユタは手伝ってくれると言ってくれた。


「凄いね貴方達、新エリアでもうクエスト見つけるなんて」

「……偶然ではあるがな、とりあえず案内しよう」


 そんなわけで案内され辿り着いた先にいたのは巨大な鹿。

 弱っているのか地面に体を伏せていて、完全に衰弱しきっている。

 見るからに瀕死のそいつには紫色のナニカが纏わり付いており、どう見ても普通の状態ではない。


「アイコン的に呪いだね、それも結構強力なやつ」

「……やはりか、ナユタ様解呪出来るだろうか?」

「一時的にはいける……でも、これ根本がある系だと思うからそこ絶たないと無理」


 前にナユタに聞いたが、巫女には呪いなどの状態異常の詳細を見ることが出来るパッシブがあるらしい。レベルが上がるごとに強化されるらしく、150レベルのナユタであれば殆どの状態異常の事が分かるらしい。


「何処で受けたのこれ、多分心当たりあるよね? 貴方達にも少し痕跡あるし」

「……そこまで分かるのかナユタ様は」


 図星だったのかそれから何があったのかを男達は話始める。

 聞けば新エリアを探索中にとある墓場を見つけ、そこでドラウグというゾンビの亜種のような魔物に遭遇したらしい。

 最初は善戦していたものの数が多く、ほぼ無限に湧いてくるそいつらに押された所をこの鹿に助けられたようだ。


「助けられた恩がある――ナユタ様、どうか力を貸してくれないか」

「別にいいよセツラは?」

「いいぞ、今の所目的ないしな」


 即答するナユタにそう聞かれたので俺もそう答える。

 見ず知らずであろうプレイヤーを助けるような優しい鹿を見捨てる訳にはいかないし、それを放置するような精神は持ってないからだ。


「じゃあ決まり、その墓場まで案内して」

「――ッ恩に着る」


 鹿が間違って倒されないようにリーダー以外の二人には鹿を守って貰う事になり、俺達は男に着いていく。

 進んで行くと徐々に暗くなっていく森。

 おどろおどろしさを感じさせるこの場所には昼なのにも関わらず鴉の鳴き声が聞こえてくる。


「雰囲気あるし結構怖いね」

「……斬れるならなんでもいい」

「セツラ、まだホラーダメなの?」


 俺は一応配信者であり色々なゲームを配信してきた。

 だけど、その中で苦手なジャンルがあるのだ――それはホラー。和風洋風関係なく、俺はめっちゃホラーが苦手なのだ。狐とか鬼とか化物と戦うアクション系のホラーなら全然良いが、一方的に襲われるのは完全NG。

 冥界の亡者は倒せたから問題無かったし、地獄とは思えないほどに整ってたから大丈夫だったが……今回の様な雰囲気の場所は苦手なのだ。

 

「いや……倒せればいけるから」

「ふーん、じゃあ今度持ってくね」

「やめて? いや、マジで」


 こいつの持ってくるホラーは99割和風ホラー。

 つまりは死、多分逃げる系だしVRだしで命がなくなる。


「そういえばナユタ様とセツラ? はどういう関係なのだ?」

「幼馴染み」

「腐れ縁」


 二人して即答する。

 最初にナユタがそう言い、俺が続けてそう言ったのだが直後に彼女に睨まれた。怒ってる感じじゃないが、呆れが混じった様な視線。

 

「幼馴染み……でしょ」

「あ、すまん」

「紹介するときいつもそれだけどなんで?」

「……なんとなく」

「へぇ……」


 なんか含みがある言い方で言われ、小っ恥ずかしくなったのでとりあえず少し足を速めて墓地がある場所へと歩を進めた。


「――うわぁ、めっちゃパンデミック」

「その感想はどうかと思う、分かるけど」


 墓地に広がっていたのは、ゾンビというかドラウグが溢れる光景。

 冥界の亡者はまだ人間していたが、これは完全にゾンビというか怪物。骨そのものの奴もいれば少し肉が残っているグロテスクな奴もいた。


「増えているな。ナユタ様、根本……もしくは呪いの発生源はどこか分かりますか?」

「奥の方――多分親玉がいるね」

「了解、じゃあ禍津は――今回は休みで」

『何故だ主様!?』


 いつものように禍津を装備しようとして、ある事に気付いた俺がそう言えば禍津が心底驚いた様な顔でツッコんできた。


「いや、呪い系だとスリップダメージあるかもしれないから相性悪いだろ」

『当たらなければ問題無いと思うぞ主様』

「……それもそうだな」


 いつもその理論でやってるのでそう言われればお終いだが、今回は普通に素のステで試しときたいし、呪いなどを持ってる敵の対処法を学びたい。


『そうだぞ。だから主様、妾を使うのだ』

「いや今回はマジで温存、一回素のステで何処まで出来るか試しときたい」

『……それなら仕方ない、だが今度絶対妾を装備するのだぞ』

「あいよ、約束だ」


 それからは普通に戦闘することになったので気付かれる前に数を減らすため、俺は居合いを構え雷斬りを同時に使う。


「狼煙はこれで充分、やるぞナユタ!」

「了解、最速ルートでやるね」

 

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