第47話:アップデート1.6
イベントから三日ほど経過したある日の事、俺は久しぶりに別ゲーの配信をした後家でゴロゴロ休んでいた。
「最初に課題を頑張ったせいで永遠に配信とかゲーム出来るのは良いんだけどさ……暇だマジで暇。いまなら暇売って大金持ちになるくらいには暇」
理由としては一つ。
今Eternity Fantasiaがアップデート中でログインできないから。
アプデの内容としてはエタニティ大陸の新エリア開放と第三陣のプレイヤー用のサーバー拡張が主らしい。
「前は半年かかったのに、もう来るなんてマジで驚いたよな」
第二陣の利用権が販売されてからたった数週間。こんな速く増設されるってことはそれだけ待っているプレイヤーがいるということだし、エタファンがそれだけ人気になってるということなのだろう。
「あぁー銀珠に会いてぇ」
最近完全に癒やしになっている俺の第弐の御霊。
イレギュラーで仲間になったあの子は見てて癒やされるし、何よりめっちゃ可愛い。いつも着いてきてくれるし、なんでも喜ぶし撫でると尻尾振るし。
「……レンの気持ちが分かりたくないが分かって気がするんだよな」
一生分からないと思っていた悪友の気持ちを理解してちょっと複雑な気分だが、銀珠がマジで可愛いので仕方ない。
「……あの時はオルフェウスの奥さんのおかげで感覚麻痺ってたからいいけどさ、冷静になったレイナに銀珠見せたらやばかったしあんまり会わせられないんだよなぁ」
イベントが終わった翌日に銀珠を見せた反応とかヤバかった。
語彙力を完全に失い銀珠を撫でる機械と化した悪友に恐怖すら覚えたことは記憶に新しく、慎重に会わせようと俺は誓ったのだ。
「アプデ終了まで後二時間、それまで暇だけど我慢するか」
「……ならゲームしよ大和」
「それもいいな、何するんだ?」
ぬっと、とても自然に話しかけてくる何者か。
まるで最初からそこに居たように当然の様にゲームを用意していた誰かに俺は言葉を返したんだが……。
「――え、いつからいたんだよ雪?」
いる筈のない幼馴染みの存在に気づき絶句した後そう聞いた。
この幼馴染みはそれを聞き首を傾げ、それどころかマジで俺が何言ってるんだろうと言いたげな顔をしている。
「暇の所から?」
「それ最初からじゃないか? 配信終わって十分後ぐらいだぞ?」
「終わったの確認してからご飯作りに来た。今日からおばさん達旅行でしょ?」
「……いやなんで知ってるんだよ。そもそもどうやって入ったんだ?」
確かに父さん達は今日から四日程旅行でいないが、なんでこいつが知ってるんだよ。え、まさか前みたいにこいつに俺のこと任せたのか?
「そもそも雪って料理出来たっけ?」
「え、無理だけど?」
「いやそんな誇らしげに言われても困る」
それならまじで何しに来たんだよ……と心の底からツッコミを入れたくなったが、こいつが思ってることは大体分かるので俺は部屋から出てキッチンに向かった。
「何食べたい?」
「そうめんがいい」
「あいよ……そもそもどうやって入ったんだ?」
「合鍵貰った」
「……そっかぁ」
他愛ない会話を交わしながら俺は料理を用意して、そのまま二人で食べることにした。暫く無言で食べ続けていると雪が唐突に口を開く。
「美味しいありがとね」
「ん……あ、そうだ前から聞きたかったんだけどさなんでお前狐狂いって呼ばれてるんだ?」
トッププレイヤーと呼ばれる雪の二つ名は『狐狂い』。
他の人達の由来もいまいち分からないけど、雪のは特に分からない。
ただ狐が好きだからって訳じゃないだろうしその由来は聞いてみたかったのだ。
「銀嶺にソロで挑み続けてるからだと思う」
「……お前も銀嶺狙ってるのかよ」
「うん、どうしても倒さなきゃダメなの」
「理由は? お前が何か拘るなんて珍しいだろ?」
こいつの拘りは自分が巫女ってぐらいでそれ以外には殆ど関心がない。
いやないというは語弊があるが、そこまで他の物に熱を向けるってことがあまりないのだ。勉強も運動も俺とレンと遊ぶときは多少の感情を見せるが、それ以外では殆ど無関心。そんなこいつがそこまでのモノを向けるのは何かある気がする。
「……大事な約束があるから?」
「そっか、なら競争しようぜ雪。俺も銀嶺倒したいしどっちが倒せるか勝負だ」
俺のエタファンのモチベーションも銀嶺を倒すことだし、そういうことならライバルだ。共闘するのもありかもしれないが、俺はどうしてもあいつに自分の力で勝ちたい。
「うん、そうしよ?」
「あぁ、早い者勝ちだ」
そこで会話は一区切り。
それ以外は普通に近状を報告したりで喋ったりしてアプデが終わるまでの時間を潰すことになった。
そしてそれから二時間後。
「……雪もやるよな」
「うん、それが本命」
「お前らしいよ……じゃあログインするか」
早速ログインすることになり、俺はウェントスの宿屋で目を覚ます。
隣には銀珠と禍津が寝ており端から見ると危ないかも知れない光景が広がっていた。
「……ほら起きろ二人とも」
『む? ……やっと来たのか主様、待ちくたびれたぞ?』
「わぁセツラおはよ!」
人型の御霊であるこいつらは獣型などと違って自由に過ごせるのか、毎回起きるとこんな状況が続いてる。慣れてきた……とは言い難いが、起きた瞬間美少女と幼女に囲まれてるのは正直やばいと思う。
『今日は何をするのだ主様?』
「ナユタと合流して新エリアに向かう感じだな。二人はやりたいことあるか?」
「ぼくは二人と一緒にいれればいい」
『妾も特にないな、広がったこの世界も見たいと思うのだ』
なら今日の目的はそれでいいな。
目的も決まったので俺達は宿屋を出てから広がったマップを確認しようとした――んだが、そんなのを確認する前にヤバイものを目にしてしまった。
「なんだあれ、でっかぁ」
ここからでも見える大樹。
あまりも大きすぎて空に突き刺さっていると感じる程にその木は大きく、明らかにあれが追加されたモノってのが一目で分かった。
気になったので近くに居たNPCに話を聞いて見れば、あれは世界樹というモノらしく、今までは霧に隠れていたという話のようだ。
「つまりあの周囲が新エリアか……」
呟いて感じるワクワク。
あの場所にはなにがあるんだろうか?
……どんな冒険が出来るんだろうかと考えるだけで胸が躍る。
「じゃあ二人とも、世界樹に向かうぞ!」
『応なのだ!』
「おー!」
元気よく返事する禍津と楽しそうに腕を上げる銀珠。
そんな二人と共に俺は次の冒険に夢を馳せた。
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