第45話:星を彩る銀の竪琴
「さぁさぁみなさーん! あと数分でイベントの終了だよ! ――長いようで短かった一週間。泣いても笑ってもあと数分で一位が決まるぞー!」
空に浮かんだステージで踊りながら告知をするティファレト。
……そんな彼女の姿を飯屋のテーブル席に座りながら見る俺等はかなり落ち着いていた。
「レイナ、イベントはいいのか?」
「いや――やべぇ美少女のせいで今オレは満足してるからいい」
「まぁ確かにオルフェウスの奥さんは美人だったが……」
「あいつの名前を出すなよ、ムカついてくるから」
「おーいレイナ嬢? 僕目の前に居るよね? ――え、なに? もしかして見えてないの?」
「滅べ」
「あ、凄い辛辣ゥ!」
冥界から帰ってきた後、休息を取るために俺達はウェントスのとある飯屋で集まっていた。ムラマサも誘ったんだが、インスピレーションが湧いたとかなんかで工房に籠もっているらしい。
「ハーデス曰く、イベントが終わったら祭りがあるんだろ?」
「まぁね、今回は僕達の事情に沢山の旅人を巻き込んだわけだし対価は払わないと」
「大丈夫か? お前がうるさすぎて暴動起こるかもだぞ?」
「君も酷いねセツラ、でもまぁ――決めるときは僕は決めるから」
今回のイベントの詳細、それは一人で冥界にいったエウリュディケーが自身の命を天秤に乗せ冥府の宝をばら撒いたらしい。
ハーデスは彼女の覚悟を買って了承し、旅人達が一定数の宝を集めれば竪琴を返すという契約だったようだ。そんなんだからメダル集めが開催されたって感じ。
他にも裏話としてもう少し聞けたが、本来ならオルフェウスは天界というとこに招かれ冥府に絶対に辿り着けないようになる予定だったらしい。
「……いやぁ、そういえば妻に天界に帰ってろって言われてたけど普通に忘れてたんだよねー」
「おまえ、本当にそういう所だぞ」
「まぁいいじゃないか、それで僕達は出会えたんだしね!」
「いつか殴るわ」
「君に殴られたら死ぬよ!?」
そんな軽口を叩きながらも俺は視線をずらして対面の席を見た。
そこには新たに御霊となった銀珠と彼女に構う禍津が見える。
『銀珠、これが焼いた肉の味だ! 美味いだろう!』
「美味しいね、禍津」
『あぁ、オルフェウスが奢ってくれるそうだからな――どんどん食べるぞ!』
「僕の財布がーかるーくなーる――ははっ」
「迷惑料だ大人しく奢れ」
「ばいばい、来月のお小遣い」
小遣い制なんだ。
……と、夫と妻の上下関係を垣間見た俺は少し同情しながらも追加で届いた料理を食べる。
「……さてそろそろお祭りの時間だ。名残惜しいけど僕はステージに向かうよ」
急に立ち上がったオルフェウス。
彼は取り戻した銀の竪琴を手に音を奏でて空を飛んだ。
暫く彼を見送って、俺達はそれから空を見上げる――暫くすれば星の下ステージが形作られ、そこにいるのは友人であるオルフェウスだ。
「さぁさぁ、旅人諸君! 僕がオルフェウスさ! 皆のおかげで妻と仲直り出来たからね――お礼に至上の歌と音色を聞かせてあげるよ!」
歌が始まる。
あいつが竪琴を奏でる度に星が瞬く。
花火みたいに星が……天体が移動して数多くの星座を形作った。
現代ではもう殆ど見ることが出来ない、星の数々――教科書でしか見たことないそれらの光景は、あまりにも幻想的で、記憶に焼き付くほどに綺麗だった。
「すごい、セツラ! 星、綺麗!」
「そうだな――本当に綺麗だ」
『音楽に関しては流石だなあの男は』
「これだけは認めるしかねぇなウザ男」
各々で感想を呟きながらも大陸中に響く銀の音色に耳を傾ける。
「さぁ……そろそろ僕の演奏も終わりだよ! セトリ的にはもっと壮大な音楽を奏でた方がいいんだけど……僕はそれを無視するぜ!」
何言ってんのあいつ?
運営が用意したセトリぐらい守れ?
思わずツッコもうとしてしまったが、彼の言葉に止められた。
「最終演目だよ――これは、初めての友人達に送る僕の歌――僕が作った銀色の音色だよ……【銀命の調べ――邂逅の歌、冥界下りの物語】」
歌とは言えないその名。
だけど、それは優しくて慌ただしくて俺等の冒険を表しているかのようだった。
色々あった。森で会い、尾行され、修羅場を煽られ……飯奢り? 河を渡って巨人に追われて? 穴に落ちて神との戦闘。
あれ、碌な思い出がない気がしてきたぞ? ――でも、この短い間あいつと過ごした時間は――生きていたと思える程に楽しかった。
長い旅がこれで終わる。時間にしては短いが――この濃い経験は忘れない。
「ありがとう皆! また今度お祭りがあったらよろしくね! そして、親愛なる友人達へ――また一緒に冒険をしよう!」
【第三章:星を彩る銀の竪琴 完】
[あとがき]
というわけで三章終了!
十五日間お付き合いいただきありがとうございました!
この章を書いている間に、月刊一位になったりと色々ありましたが、これも全部読んでくれた皆様のおかげです。
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