閑話その2
AI女子の優雅なお茶会
「……あれ招待状が来ていますね」
いつも通り世界中の本が集まった場所で本を読んでいると、一通の手紙がいつの間にか置いてあった。
主催者の名前はティファレト……大方、イベントが終わったことで愚痴でも聞いて欲しいのだろう。
「まぁ久しぶりに参加しますか……【移動管理コード:美の宮殿】」
コードを使えば景色が変わる。
私の図書館ではなく、ティファレトが管理する場所へとやってきた。
広がるのは一般的に言う可愛い物や美しいとされる宝石等が飾られた空間、その中心には長方形のテーブルが置かれていて十一人分の席が用意されている。
「遅いぞコクマー。もう集合時間から三分過ぎている」
「そのぐらい良いじゃないですかゲブラー、気にしすぎたらハゲますよ?」
既に席に着いている荘厳を司るゲブラー。
赤髪の彼女は私の言葉になんでか青筋を浮かべながらも疲れた様な溜め息を吐いた。
「完璧に作られた私達がハゲる訳ないだろう」
「ですが、本にはストレス溜まるとハゲると書いてありました」
「元凶が何を言う?」
「……はて?」
「もういい貴様はそういう奴だ……それより他の姉妹はいつ来るんだ?」
「皆様気紛れなので多分何人か来ないかと……」
「……それもそうだな、四人集まればいい方だろう」
再び疲れた様にゲブラーがそう言いえば、空間に穴が空きその中から紫色の髪をした女性が落ちてきた。何日も寝ていないのか隈が酷く、完全に目が死んでいる。
「あれ、イェソドが来るなんて珍しいですね」
一番つらいであろうメインプログラムを管理してる彼女がくるなんて珍しい。
普段なら「行きたいよー」といいながらも仕事ばっかりしているのに……。
「呼ばれたから参上しちゃったイェソドちゃんです! いやね、マスターが流石にちょっと仕事変わるねといってくれたから、お久しぶりの参加なのですよ! いやぁ、いいねお姉ちゃん達に会えて僕は嬉しいよ! でも、なんでコクマーお姉ちゃんは二人居るの?」
「……参加してないで寝るんだイェソド。貴様は疲れている」
「まっさかー、限界勤務RTAしてる僕が疲れる訳ないだろゲブラーお姉ちゃん」
「私に話しかけているのならちゃんと顔を見ろ、そこには誰もいないぞ」
やっぱり限界の様なので私はどこかで見た記憶があるリラックスさせれる効果があるというお茶を管理コードで作りだして彼女に振る舞う。
飲んだ瞬間イェソドは糸が切れた人形の様に倒れたので、適当に置いてあるぬいぐるみの上に放置することにした。
「あー皆先に始めちゃったの? 主催者のボクを待ってよー!」
「妾を呼ぶ意味はあったのか? ねぇさま方……意味が無いのなら脱ぐぞ」
「やめて? ……せっかく服を選んだのにすぐ脱ごうとしないでネツァク?」
「しかしだティフレトねぇ……服は窮屈で邪魔だろう? やはり着ない方がいい」
「なわけないよね? ――僕達の素材は最高に良いんだからお洒落しないと許さないよ?」
続いてやってきたのはピンク色の髪をした妹と、珍しく服を着ている緑色の髪をした女性。主催者のティファレトがいつもはケテル姉様が座っている席に座り、七と刻まれている椅子にネツァクが座った。
「今日はこれで全員かな? じゃあ早速お茶会始めよーね!」
「呼んだのは私達だけなのかティファレト?」
「全員呼んだんだけどビナーは相変わらず御霊観察で忙しいらしくて、ケセドは……まぁいつも通りでー。ホドは面倒くさいらしいからこないって、マルクトはアイテム眺めて怖かったから無視した。ケテル姉様だけは氷柱と仕事があるから無理らしいよ」
「様をつけろティファレト、あんなのでも私達の親だぞ」
「貴女が一番失礼だと妾は思うぞゲブラーねぇ」
そんな風に集まった五人の姉妹を見ながらもいつの間にか用意されていたお茶を私は飲み始めた。相変わらず美味しいそれを堪能しているとティフレトが急に口を開く。
「あ、そうだ! コクマーイベント中に勝手にクエスト開始したでしょ!」
「何のことですか? イベント関連の仕事はちゃんとしましたよ?」
「ボクは誤魔化せてもゲブラーは誤魔化せないよ、記録が残ってたって」
「そうだな。勝手に貴様がミソロジークエストを開始した記録が残っている。どう説明するんだコクマー?」
「オルフェウス君が悪いので、私は悪くないですよ? あれは彼の選択ですので」
あれはセツラ様の行動によって起こった不具合の様なもの。
本来ならあのクエストは発生すらしなかったわけで、オルフェウスは別のルートで竪琴を取り戻す筈だった。
「…………そもそもなんでオルフェウスが自由に動いているんだ? 天界に送るという話だっただろう?」
「一応伝えはしましたよ? ――あとで話聞いたら忘れてたみたいですが」
「私が案内すればよかったな……」
「どんまいですゲブラー」
「……殴っても許されるかティファレト?」
「気持ちは分かるけど落ち着こうね? 不毛だから」
「……?」
そこで一旦話は終わり、各々お茶を楽しみながら談笑していると今まで寝ていたイェソドが目を覚まして席に座った。
「皆、何の話してたの? 僕も混ぜてよ」
「オルフェスウス関連の話だ――イェソドから見て何かないか?」
「……おるふぇうす? あ、ある。文句というか疑問なんだけどあのプレイヤーは何者なんだいコクマー?」
突かれたくないとこを突かれるが、私は白を切ることにした。
彼に興味を持たれるのは不味いと思ったから、何より彼は姉妹達に絶対に気に入られるから。それは不憫だし、流石の私でも可哀想だと思う。
「……誰のことですか?」
「セツラとかいう子だよ――ログ調べたけど彼が大陸クエストやミソロジーに関係あるよね? なんなら当事者だし」
「あーそれだとボクも聞きたい事あるんだ。ねぇコクマー、あのプレイヤーどうしてボクの所に送らなかったの? キャラメイクとチュートリアルはボクの担当でしょ?何か勝手に二人ぐらい担当してるよね君」
「さぁ知りませんね、貴女が忙しそうなので私が担当しただけですよ?」
「……まぁ、そういうことにしてあげる。喧嘩はしたくないからね――でも最後に聞かせて? 君……セツラって人間の事気になってるよね?」
「まさか、私は平等ですよ? ――ただのプレイヤーを観察する訳ないでしょう?」
……少しの沈黙が場を支配する。
姉妹達は何かを思考しながらも黙りこくっているようで、お茶会には似合わない緊迫した空気が流れ始めた。
「んーまぁ分かったよ。今回の話はこれで終わり――じゃあそれ以外のことお喋りしよっか――皆最近何か変わったことはある?」
「私はいつも通りだな。ハッキングやチートを使おうとしたプレイヤーの監視や確保――迷惑行為の取り締まりぐらいだ」
「僕もRTA走ってるぐらいかな? 冥界の管理はハーデス君が頑張ってるからそこに関しては管轄外だしね。ネツァクは?」
「……好きな人間が出来たぞ」
瞬間全員がカップを落とした。
割れる食器、びしょ濡れになるお菓子。
……さっきとは別の沈黙が流れ――最初にそれを破ったのはティファレトだった。
「何々! 何があったのネツァク! 聞かせてボク恋バナ大好き! 相手は!?」
「…………どうしたバグか? 戦闘以外にまるで興味が無い貴様に何があった?」
「あえー……え? ネツァクが誰かに興味持ったの? 限界勤務の幻聴?」
「怖いぞみんな――まぁ話すが、恥ずかしいから名前は見てない。だが、姿は覚えている」
それから恋バナ? で盛り上がるお茶会。
ネツァクの口から伝えられた者の身体的特徴に私は心の中で手を合わせて――割と手遅れな現状だと知りいつかまた彼にあったら謝っておこうと決めた。
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