第39話:詩人の物語
「セツラ君、君は僕について知ってるんだよね?」
「まぁ……大体は」
「どのぐらいだい?」
ケルベロスの上でそう聞かれたので、俺はレイナに聞いた話を最後の部分以外伝えることにした。俺が知ってる話では妻を失っている訳だし、一緒に居られてる彼に伝えることではないと思ったからだ。
「……まぁ、大体そんな感じだね。僕はハーデスとの約束を守り妻と地上に戻ることが出来た――まではよかったんだけど、僕さ妻を取り戻すときに竪琴を捧げたんだ」
「捧げたって、ハーデスって奴にか?」
「うん、そうだね。死者の魂を呼び戻すなら、それと同価値の物を捧げろって言われたからさ――まぁ、迷い無く捧げたよね。だって妻の方が大事だし」
「お前ならそうだろうな」
こいつが持っている竪琴というのはレイナの話通りなら神からの授け物。
価値などは半端じゃないだろうし、なんなら色んな力が宿っていても不思議じゃない。俺はオルフェウスとしか接してないし、奥さんについては一切分からないんだが……。
「それで、喧嘩した理由は?」
理由を知らなければ何も言えないしとりあえずちゃんと話を聞く。
「えっとぉ、竪琴を対価に捧げたのバレて大喧嘩って感じだよ。僕は妻の方が大事なのに妻はなんで自分なんかの為に捧げたのってなったんだ……妻の言いたいことは分かるんだけどね、どうしても譲れなくて」
「……面倒くさいなそれ」
「酷くないかい!?」
「いや――だってさ、どっちもお互いが大切なだけだろこの話」
この情報で分かること、それはオルフェウスの奴が本気で奥さんのことが好きで、奥さんもこいつの事が大事だから起こった喧嘩。憶測でしかないが、きっと奥さんはオルフェウスの歌や音楽も好きだったんだろう。
それを自分が奪ってしまったと考えるとしたら彼女の気持ちは分かる。
で、オルフェウスにとっては言った通り奥さんの方が大事だろうし、神から貰ったからといえ天秤にすら乗らないって話なんだろう。
「なぁオルフェウス、俺も昔似たような理由で喧嘩したことがあるんだよ」
「……急にどうしたんだい?」
「まぁ聞けって……そいつはさめっちゃ嫌味な奴で煽ってくるし何なら毎度毎度俺を馬鹿にしてくる糞馬鹿なんだけど……」
「情報的に凄いやばい子な気がするよ?」
記憶の片隅にある誰かとの喧嘩の記憶。
発端は覚えてないし、何より相手が誰だったかも正確には言えないが……喧嘩の理由だけは覚えてる。
「あいつはそれでも良い奴? ……とは言えないが、俺達を大事にしてくれる奴でさ、俺が無茶したときに死ぬほど怒ってくれたんだ。でも、俺としてはそいつの為に動いたのに――って感じで喧嘩したんだよ」
思い出しながらそれを語るが、微妙に靄がかかっていて正確に伝えることは出来ない。だけど、俺の言いたいことを伝えるためにも最後までしっかり彼を見て話す。
「それで、仲直りはどうやったんだい?」
「ちゃんと互いの事を話したって感じだった気がする……どっちも大切に思ってるんだったら喧嘩してても意味なし、それで仲違いしたら最悪だろってな」
「まぁ……確かにそうだね。でも許してくれるかな?」
「……はぁ、お前は本当に奥さんが大事なんだろ? 話してるとき凄い穏やかだし……だから、会ったらちゃんと話そうぜ? 俺も手伝うからさ」
うざいけど、どこまでも奥さんを愛しているオルフェウス。
仲良いのなら喧嘩して欲しくないし、俺も似たような経験があるからこそ共感できるし仲直りして欲しい。
「……ありがとう、セツラ君――うん、そうだね! なら早くハーデスに会いに行こう! 妻も一緒にいるだろうし、帰るように言うんだ!」
「やっぱりお前はそのテンションの方がいいわ――というわけだ銀珠少し早めに移動できるか?」
もう完全になれたペットの如きケルベロスにそう言えば、そいつは速度を上げて冥界を下る。途中で出会う亡者を倒し一匹だけ襲ってきた巨人を倒した後、やってきたのは豪華な神殿……何が起こるか分からないので、上がったレベルの分のポイントを振っておくことにした。
————————————
PN:セツラ
LV:55
JOB(職業):侍
HP(体力):164+7
MP(魔力):49+2
SP(スタミナポイント):87+9
STM (持久力):47
STR(筋力):72
DEX(器用):17
END(耐久力):12
AGI(敏捷):64
INT(魔知):16
TEC(技量):35
VIT(生命力):28
LUC(幸運):30
ステータスポイント:0
スキル:居合い
パッシブスキル:危機感知
狂鬼の回術
御霊:
種族:おに 武器形態:紋様・刀
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ステータスを振り切ったことによって出来たのがこんな感じ。
そこで気付いたのだが、この冥界で戦っている間に俺のレベルは60に近くなってるようだ。
「……もうすぐ装備できるなこれ」
このイベント中に60レベルを超えれば良いなと思っていたがいつの間にかその目標はもうすぐのようだ。
「効果は……ムラマサ曰く魔法を斬れるんだっけ?」
装備できるようになったら試したいが、レベルを上げる時間もないし俺はそのまま神殿への道を銀珠に乗りながら移動し、中に入ろうとした――その瞬間の事。
「ッ――――流石にこれに二人は分が悪いぞ!?」
「あたしもキツい、敵が多過ぎ……」
はぐれていた二人の声を聞き、その直後に巨大な爆発音が耳に届く。
急いで銀珠に指示を出し、そのまま音がした方に向かってみれば……そこには、溢れんばかりの亡者が場を埋める闘技場があった。
「禍津装備だ――加勢するぞ!」
『了解だ主様!』
「銀珠も加勢頼む、あの二人は仲間だ」
雄叫びを上げて唸り声を上げた銀珠が我先にと先陣を切り、亡者の群れに突撃した。
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