第38話:ケルベロスisワンコ


「…………どこだよ、ここ?」


 気付けば俺は何処か見知らぬ場所にいた。

 最後に覚えているのは岩を斬った瞬間であり、それからのことといえば……。


「えっと崩れた岩が落ちてきたんだっけ? 確かそれで――地面が崩落して……」


 うん、完全に思い出せた。

 地面が崩落した結果俺達はそれに巻き込まれたのか。

 落下ダメージで死ぬのでは? と思ったが、なんでか俺は生きていて今も無事に冥界にいる。


「……皆は、オルフェウス以外にはメッセでも入れといて――あいつはどこだ?」


 ワンちゃん死んでいたとしても俺達は戻ってこれる。

 だけど、この世界のNPCであるオルフェウスは死んだら終わりなので危ないのだ。このモンスターや亡者が溢れる冥界で戦闘能力がない彼を一人にしておく訳にはいかない。


「何処から探す?」

「お、重い――どいてくれないかい、セツラ君?」

「あ……悪い、乗ってたのか」


 どうやら俺は彼の上に乗っていたようで、探すまでもなくオルフェウスは下にいた。すぐに退けば土埃で服の汚れたオルフェウスが起き上がってくる。


「はぐれたみたいだね、連絡は取れるのかい?」

「一応、返事返ってきたし」


 二人ともはぐれたようで各々『大丈夫だオレは下目指す』『あたしは無事だ』というメッセージを送ってきてくれた。


「確か特殊な地図を旅人は持ってるんだろう? それを使って居場所は分からないのかい?」

「その手があるな……いやダメだ表示がunknownになってる」

「そうかい、確かに冥界はとんでもないところだからね――そうだなぁ、とりあえず二人には下を目指そうと伝えてくれるかな、ハーデスにさえ会えればいいし、広いこの場所だと下手に探すより同じ場所を目指した方がいいから」

 

 一理あったので了解とだけ伝え、俺は二人にメッセージを送った。

 返ってくるまで時間があるだろうし、とりあえず俺も進む事を決めて確認のために禍津に声をかけることにした。


「おーい禍津? ……あれ、いないのか?」


 しかし声をかけてもいつも応じてくれるはずの彼女の声はない。

 おかしいなとおもいつつも、少し待っていれば何か足音……いや、大きめの駆けるような音が聞こえてきた。


『主様、この犬飼ってよいか!?』


 で、それと同じぐらいの声量で禍津の声が聞こえ……やってきたのは銀色の毛並みの大きくてつぶらな瞳をしたそのワンコ。。


「……元の場所に帰してこい」

『いやなのだ。この犬、妾に懐いておるんだぞ!』

「いや、それどう見てもヤバイ犬だから、我が儘言わないでくれ」

『主様はこんなに可愛い犬を捨ててこいというのか!?」

「禍津それ犬じゃない、ケルベロスだ」


 そうこいつには三つの頭があったのだ。

 ……というか、あんまり色んな神話などを詳しくない俺でも知ってるような地獄の番犬であるケルベロスがそこにはいた。


「百歩譲って可愛いのは分かる――だけど、俺はテイマーじゃないし連れてけない」

『妾が世話するぞ?』

「地上にケルベロス連れてけないから無理だ。そもそも、この世界だとどうテイムするんだよ」

『しかしな主様、もうこの犬は仲間になってるぞ?」

「……ごめん、脳が理解を拒んだ。もう一回言ってくれ?」

『だから、もうこの犬は妾達のパーティーに入っておるぞ?』


 …………なして?

 慌てて今回のパーティー欄を確認する。

 上から順に俺、レイナ、ムラマサそしてオルフェウス――で、最後に表示されたのが、


「……ケルベロス、レベル80」

 

 目の前のいるワンコの名前だった。

 しかも完全に仲間判定なのかレベルまで見えるし、なんなら唖然とする俺の顔を舐めてきた。


「何したんだよ禍津?」

『物欲しそうにしていたのでな、妾のおやつを上げたのだ!』

「それで、懐いた?」

『多分そうだぞ――それで、名前の第一候補としては銀珠ぎんじゅがいいのだ。まぁ主様が考えてもよいが』

「そこは禍津が決めていいぞ、お前が連れてきたんだし」


 そう言った瞬間、さっきまでケルベロスだった表示が銀珠となり通知で正式に加入しましたという文言が送られてきた。


「……仲間なっちゃったよ」

『言ったであろう銀珠よ、主様は優しいと』


 語りかける禍津とそれに答えるように尻尾を振るケルベロス改め銀珠。

 そんな人外ペアを横目にさっきから完全に反応がいないオルフェウスに視線を移せば、そこには珍しく慌てた様子の彼がいた。


「セツラ君、よくケルベロスを前にして平然としてられるね」

「いや動じてるけど、なんか禍津だしって事で受け入れた」

「……君、さては凄いな?」

「よく知らないからな。お前はなんで怯えてるんだよ」

「前回来たときに散々追い回されたんだよね、めっちゃ怖かった」


 トラウマって奴だな。

 それならとやかく言う必要ないし、まぁ妥当な思いだろう。


「でも、銀色って珍しいね。前にケルベロスの集落に迷い込んだ時には黒しかいなかったのに」

「……まぁそう聞くよな、黒い毛並みってのが定番だろうし――でも、めっちゃ綺麗な毛並みだぞこいつ」


 冥界を象徴する黒ではなく、明るく輝く銀の毛並み。

 確かに珍しいと思うが、綺麗だしなんならこっちの方が俺としては格好良い。

 昔から銀という色は好きな部類だし、俺の目標である銀嶺の色でもあるので何かと因縁のある色のこいつには何か変な物を感じてしまう。


「っておい、急にどうした!? ――――舐めるな? 待て、俺今体力1だから少し甘噛みされたら死ぬから!」


 急に顔を舐めてくる銀珠。

 少し見えた先で尻尾をぶんぶんとさせながらこいつは一つの頭で俺に甘噛みしそのまま後ろに投げ飛ばした。


「あ、死んだ――あれ、柔らかいぞ?」

『むぅ、主様だけ乗せるとはな……妾も乗って良いか?』


 わふ! と肯定の意味の鳴き声を上げたのかそのまま禍津が乗るまで待機するわんこ。ついでとばかりにオルフェウスを乗せたこの犬はそのまま歩き出し始めた。


「これ、どこ向かってるんだ?」

『この冥界の主に会わせてくれと頼んでおるから、そのハーデスという奴の元ではないか?』

「めっちゃ良い子じゃんこのわんこ」

『ふふふ、そうだろう主様――銀珠は優秀なのだ!』


 あ、褒められたのか分からないが加速したぞこいつ。

 この分だとはやく着きそうだなと思ったので、暇だろう今のうちにポーションを飲むことにした。


「あれ、なんか急に方向変えたが……って、なんで亡者の群れに突撃してるんだ!?」


 急に曲がったと思えば、亡者の群れに突撃する銀珠。

 おやつ感覚でそいつらを捕食し始めたわんこはとても楽しそうだった。 

 そして入ってくるEXP通知、何だろうと思ってみればなんかレベルが上がっていた。


「亡者の経験値うめぇな」


 予想外の事でレベルを上げながらもそのままハーデスがいるという場所を目指して進むことにした。


「あ、そうだオルフェウス。なんで奥さんと喧嘩したんだ?」


 目的地に向かう最中に聞いてなかったことを彼に聞いてみることにした。

 聞きにくい話題かも知れないが……一応今回冥界に来ることになった発端だろうし、知る権利ぐらいはあるはずだ。


「聞いてくれるのかい?」

「まぁな気になるし」

「ふ、なら話そうじゃないか! 仲良い僕達がどうして喧嘩したのかを!」

「……そんな堂々と言うことじゃないだろ」

「はは、まあね――じゃあ話すよ、ついでだし僕がどうやって冥界をくだったかも話そうか」

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