第40話:瑠璃の星屑


「まじでキリがねぇ……」


 亡者の群れに突貫し戦い初めて既に十分以上、体感でそれだが……実際にはもっと経っている説もある。時間感覚が狂うほどの絶え間ない連戦、それは精神的にも俺達を疲れさせ、休ませてくれない。


「何体居るんだよマジで――オレのレベル上限届いたぞ!?」


 敵のレベルは大体80付近。

 当たり前だがその分強く脆いが殺意が半端じゃない。

 隙狩りは当たり前、連携してくるしなんなら仲間を盾にこっちに向かってくる事さえしてくる。

 既に何度も体力が1になる事を経験しバフの量としては約8.5倍。 

 STRと打刀の攻撃力を考えるに今の俺の攻撃力は600に近く、亡者を四回斬れば倒せるようにはなっているが……それでも数が多すぎてキツいのだ。

 いつもなら頼りになる危機感知すら数が多すぎるせいで常時発動し、切ればよかったと後悔するほどにはうるさい。


「――右で、左でジャンプして――あぁもうスタミナ上がってなかったらマジで死んでるぞこれ!」

「急募ヒーラー……オレ等アタッカーしかいないからやばい、何よりMPがねぇ!」

「あたし、こんなに戦ったの初めて――腕が限界だ……」

「ますたねたい――もう、やだ」


 あんまり時間が経ってないはずなのにあまりにも連戦が続くせいで皆限界。

 レイナはMPないし彼女の御霊のアルマは重労働過ぎて少し涙目だし……ムラマサに至っては戦いになれてないからか動きがぎこちなくなっている。

 一気に八十の太刀を解放して決めるのもありだが、ステがリセットされるので後の事を考えれば使えないしでこの亡者地獄を乗り切る未来が見えそうにないのだ。


「あ、MP切れた」

「ますた、わたしも……」

「銀珠――二人乗せて下がれ!」


 すぐに戦っている銀珠に指示を出し、二人にその間に回復して貰う。

 この世界のモンスターである銀珠にもスタミナなどはあるわけで、かなりの疲労が見えるがそれを気にしてる暇が無いのだ。

 今死なないために俺達は戦うしかなく、この地獄を抜けるしか道がない。

 広範囲を一気に倒せるような魔法を撃とうにも邪魔される可能性があるから使って貰おうにも――いや、もうそれしかないか。


「レイナ、MP回復したらデカいの頼む!」

「いいのか?」

「全力で頼む、ここを抜けるぞ」

  

 銀珠の上でポーションを飲み終えただろうレイナ。

 彼女は杖を構えてアルマと共に魔法の準備をし始めた。


「「刹那に訪れる蒼炎の使者、散りは煌めく魔の輝石、これはそう暗夜を切り裂く星の瞬き――瑠璃の星屑スターダスト・ラピスラズリ!!」」


 二重の詠唱が終わり、魔法が発動した瞬間。

 訪れたのは静寂だった――直後見えたのは瑠璃星。

 冥界の空を照らすようなその輝石は、この場目掛けて落ちてくる。

 パーティーを組んでるから当たらないとは分かっているが、反射で避けたくなるようなあまりにも綺麗なその魔法。


「ショタコンから教えて貰った禁術。その上アルマとのデュアルキャスト――威力二倍の大魔法だ。一気に滅してやるよ!」


 それは亡者溢れる闘技場に直撃し、そのまま世界を蒼炎で染めた。

 包む閃光、染まる視界。何も見えない状態で音だけが響き――直後、聞き慣れた警告音に襲われた。


「ほう、今のを避けるか――貴様は化物か? 旅人」


 反射で体を動かせば、俺が居た場所には杭が生えていた。

 磔にするような黒い杭――いや、これは槍であろう。


「誰だお前?」

「我か? 我はこの冥界の主、死者を管理する神の一柱――名としてはハーデスだ」


 視線の先、闘技場の奥の神殿から現れたのは灰色の髪をしたイケメン。

 鎌を手に持ったその男は、とても愉快そうに笑っていて俺達三人を見下ろしている。


「本来なら生者がこの冥界に立ち入った時点で裁く必要があるが、旅人であるなら話は別だ? なぜやって来たのだ? ……しかも、その愚者を連れて」

「ハーデス、ここに妻が居るんだろう? 連れ戻しに来たのさ!」

「竪琴を失った貴様がか? ――何を対価に旅人を連れてきたのかは知らぬが、今は祭りの最中だ疾く失せるが良い」

「嫌だね! 妻と一緒に地上に戻るまでは帰るつもりはないよ!」


 今まで銀珠の上にいたオルフェウスが背中から下りてハーデスを睨む。

 言い合いになりながらも自分の意志を伝える彼にハーデスは明らかな怒気を含ませてこう言った。


「あの女は貴様の為に、竪琴を取り戻すため冥界に一人で下りてきたんだぞ? その覚悟を無下にするのか?」

「――知らないよ、僕は妻と一緒に居たい。竪琴なんていらない、彼女がいれば僕は良い……だから、何としてでも一緒に帰るんだ」

「そうか、やはり貴様は愚かだな――我が裁いてやろう」


 一歩ずつ下りてくるハーデス。

 彼が近付く度に空気が重く息苦しくなってくる。

 ……重圧が、あまりにも巨大な気配が俺等を押しつぶして動きを制限してくる。 

 視界に移る体力バーの上には見たことのない表示がされており、それの影響で動けない事を悟った。

 でも――声は出る。


「禍津、解除!」

『任せろ、主様!』


 装備を解除して、成長した禍津を呼び出した。

 まだ影響を受けてない禍津なら動けると思ったからこその行動、実体化した相棒は刀を手にしてハーデスに斬り掛かる。


「――貴様は?」

『妾か? 妾は禍津、そこの主様の御霊だ』

「異質な魂? ――いや、これは……面白い。そこの旅人諸共相手してやろう」


 制限が解ける。

 その瞬間重圧がなくなり、体が動くようになった。

 しかも、それだけではなく――体力が全回復したのだ。


「……女二人には興味は無い、貴様一人で挑むが良い」

「なんだよそのハードモード」

「怖じ気づいたか?」

「いや、やる気でた」

 

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