第36話:冥界下りは詩人と共に


 翌日、昨日の上限解放クエストの報告をした後で森に集合ということになったので、いつも蛇が湧いている森に行けばそこにはオルフェウスが待っていた。


「よく来たね皆! 早速冥界を目指そうじゃないか!」

「……ほんと朝から元気だな」

 

 集まったメンバーは俺とレイナとムラマサ。

 妙に響く声を聞かされながらも俺は女子二人を見る。

 昨日の出来事があった手前、仲良くしてくれるか心配だからだ。


「朝弱いもんなセツラ――で、なんであんたはオレを睨んでるんだ?」

「……お前は来なくて良かったのに」

「好感度低いなぁ」

「……当然だ」


 ……うん、仲悪そう。

 大丈夫かな? って疑う暇も無いくらいに一目で分かる険悪さ。

 冥界までどのぐらいかかるか分からないが、普通に不安でありこの先上手くやっていけるから心配になるくらいには険悪なのだ。


「で、冥界ってどういけばいいんだ?」

「この森に入り口があるんだよね、洞窟があって地下に続いてるんだ! まぁ、かなり歩くけど、非力の僕でもいけたし三人なら大丈夫だと思うよ!」

「……信じらんねぇ」

「ごめん、それはまじで同意だな」

 

 こないだのことだが、二時間歩かされたしオルフェウスはスタミナ面に関してはバグレベルなので信じることが出来ない。

 初見のムラマサは首を傾げてるのだが、多分あとで同じ感想を抱くだろう。


「じゃあ早速出発だ! 冥界下りのスタートだよ!」


 それでクエストは開始。

 森を進み洞窟に向かう道中には何故か蛇がいなくて安全な旅が続いたのだが、洞窟に近付くに連れ蛇が増えた。

 戦う事になると思ったが、何故か敵意がなく完全に無視して冥界の入り口に辿り着くことが出来たのだ。

 ……でも、ただ一つ問題なのが。


「で、ここから下りるだけなんだけど――なんでもう疲れてるんだい?」

「……三時間歩くだけって何だよ」

「オレ……リアルでもこんなに歩いた事無いぞ?」


 そう、ここに来るまで約三時間かかっているのだ。

 ただ歩くだけと侮っていたが、タダ単純に森を進むのみ――この世界に広さを舐めていた訳ではないが、どれだけ作り込まれてるんだよとツッコみたい。

 しかもただ森が続いてたって訳じゃなくて微妙な違いがあり完全にうたい文句通りのもう一つの現実って事を再確認させられた。


「セツラ体力無いのか?」

「いや、逆になんでムラマサは疲れてないんだよ」

「あたしはよく鍛冶するし、体力は必要だからな――あと八時間はあるけるぞ」

「凄いなまじで」

「えへへ、それだけが取り柄だからな」


 獣耳をかきながら照れた様子で笑う彼女。

 仕草は可愛らしいが、普通にヤバいことを言っている気がする。

 確かに鍛冶って時間かかると聞くが、ゲームだと流石に短縮されてるよな……それこそスキルとかで。

 まぁ鍛冶職のこと知らないから何も言えないけどさ。


「そうだ皆って別の世界から来た旅人だろう? セツラ君とレイナ嬢は仲良さそうだけど元の世界でも仲が良いのかい?」

「だな、オレとセツラは腐れ縁って言った方がいいが一応ガキの頃からの友達だ」

「ふんふん、幼馴染みってやつかい?」

「いや、それは別にいる。時期的に近いって感じ……だよな?」

「そうだと思うぞ、幼稚園から一緒ってなるナユタだし。レイナは小三ぐらいか?」


 ……えっと確かだが、小学校で海外から転校したきたこいつと何か話すようになってぇ――ゲーム教えて俺が勝ち続けたぐらいか?

 それで中二まで一緒でまた海外戻って最近会ってなかったって感じ。


「なぁなぁ、お前どっかで見たことあると思ってたけど……プロゲーマーのレイナか?」

「ん、あそうだな。一応オレはプロゲーマーやってる」

「…………え? お前が?」

「言ってなかったか?」


 一切聞いてない気がする。

 というか日本にまで届くレベルに有名なら俺も知ってるはず……と思ったが、俺はそこら辺の情報に疎いんだよな。新作のゲームの情報とかは見るが、発売時期ぐらいだし何より世界の大会とかはあんまり見ない。

 配信やってる以上そこら辺はちゃんとしろと言われるかも知れないが、完全に自己満で始めたからなぁ……それこそ記録残そう的なやつで。


「まあ仕方ないな、お前大会とか興味ないだろうし。今はVRゲーのプロリーグでも上位になってるぞオレ」

「いや上手いのは知ってるが、そんなになってたんだお前」

「まぁな、お前をボコすために頑張ってたら声かけられて成り行きって感じだ」


 へぇ、そんな事あるんだなぁ。

 それなら今度見てみようと思えたし、知り合いが凄いことをやってることに素直に驚いた。


「で、あんたはなんかやってるのか?」

「あたしは……刀鍛冶やってる。このゲームに来たのはその延長みたいな感じだ」

「へぇ……待てよ、18で刀鍛冶? ――心当たりがあるな。あんたもしかして」

「い、言わないでくれ! あたしはまだ未熟だし全然納得してないから」

「――了解、それにしてもまじで変なメンツだな。配信者、プロゲーマーそれと刀鍛冶か」

「……確かに、でもパーティーのバランスは良いと思う。前衛二人に後衛だから」


 なんか歩いているうちに話すようになってる二人を尻目に二人ともなんかで有名なんだなぁと呑気な事を考えていた。

 オルフェウスは着々と前に進んでるし、ちょっと蚊帳の外。

 禍津は朝すぎるから寝ているしで、暇なのだ。


「そうだセツラ君、君ってタイプの女性とかいるかい?」

「……何だよ急に」

「いやぁ気になってね、さっきの話的にもう一人女の子の友達がいるらしいじゃないか。三人の子に囲まれて何もないって事はないだろう? あ、御霊の子も入れたら四人だね」


 歩くだけだし暇だなぁとか考えているとちょっと戻ってきたオルフェウスがそんな事を聞いてきた。凄い答えにくいそれにたいして、俺の答えとして頭に過ったのは――今上がったのに出てこなかった人物だった。


「…………黙秘で」

「あ、まだいるねこれ――本当に罪な男だよ君。ふっふふ、そんな君に僕からアドバイスさ! 全員娶ればいいのさ!」

「お前、最低なこと言ってる自覚あるか?」

「僕は妻一筋だけど、僕のキングオブザ浮気アホ父はそんなんだからね――浮気とかはダメだけどこの大陸は一夫多妻って普通だから君なら行けるよ!」


 声がデカい。

 普通に女性陣が話してる前でそんな大きい声で言わないで欲しいと切に思う。


「いやね、僕って男と喋ることあんまりしなかったから恋バナしてみたいんだよね。まぁ、僕が語れるのって妻の事だけだけど……君みたいなおもし――いや、愉快な環きょ――周りに女性が沢山いる友達と話すの楽しいと思うんだ!」

「よし、喧嘩したいんだな禍津装備するから待ってろマジで」

「え、非力な僕にそれは酷だよ。男なら弁舌力で競おうよ! 僕が拳で勝てるわけないだろう?」

「……殴りてぇ」


 心底思いすぎて口に出してしまったが、なんだかんだでこういうテンションは嫌いではない。

 

「それに……鳥たちが言ってたけど恋バナってすると友達になれるんだろう? せっかくの縁だ友達になろうじゃないか!」

「……お前、面倒くさいな」

「ん、どうしてだい?」


 こいつは確かにウザい。

 でも、言葉が全部本心から来ているのだ。妻を助けたいからとまだ知り合って間もない俺等に頭を下げ、そして今は友達になりたいと偽りのない言葉で言っている。


「まぁ、気が向いたらな――そうだ冥界ってどんなところなんだ? 一度行ったんだろ?」

「……そうだね、凄く広くて河があるんだ! とっても大きくて綺麗な河だよ。妻と一緒に見たいんだけど見る機会が無くてね――せっかくだし、皆で見ようよ!」

「へぇ、どんな河なんだろうな」


 彼の妻を探しに行くこの旅。

 偶然から始まったそれだが、この世界を旅すると決めたのだからその道筋にも何かがあるといい……そんな事を願い、俺は彼の話に耳を傾けた。

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