第35話:修羅場難易度ルナティック
作られた壁、なくなった逃げ場。
状況的には追い詰められた俺等が三人であり、何も分かってないオルフェウスがこの場にはいる。
しかもだ……逃げるために俺はムラマサを抱えており、その体勢は奇しくも俗に言うお姫様抱っこというもの――そして何よりだムラマサは可愛いのだ。
「なぁセツラ、お前の約束って女子とイチャつくことだったのか?」
「……ただ会うだけの約束だぞ?」
「あぁ、約束あるのは聞いた……だけどな? そんなロリ美少女とイチャつくのは万死だよな?」
鮮やかと言うより少し暗い艶のある赤銅色の髪。
前髪に隠れて見えにくいが、はっきりと輝く銀の瞳。雪より小柄であり見た目で言うと完全にレイナのドストライクな姿をしている彼女……そんな子と一日一緒に彼女を放置して遊んだらどうなるか?
「羨ま死刑だ――清く殺す――で、そこのロリとイチャつく」
「あたしは小っちゃくない、十八だ!」
「――まさかの合法ロリか、いいなそれ」
年上なんだ……と思ったがゲームだし体ぐらい設定するだろう。
「リアルも同じ姿だ。でもあたしは小っちゃくないし、お前がデカいだけだろ」
「そうか、なら尚更だな――セツラを眠らせて口説く」
「いやだ。あたしの友達はやらせはしない」
「へぇ、オレに挑むのか? ……いくらレベル高くても鍛冶職ならキツいだろ?」
「関係ない――友達は守る」
俺から降りて刀を取り出し構えるムラマサ、そして杖とアルマを呼び出し戦闘準備を始めるレイナ。完全に蚊帳の外になった俺はどうするべきか分からない。
こんな時に雪……というかナユタがいれば結構仲裁してくれるのに……と幼馴染みを切に望んだが、今はいないので意味が無い。
「おっ凄い修羅場だね! 僕は用事あったけど、今は帰りたいかな? どうするんだいセツラ君?」
「そこで俺に何か求めるのは違うよな? え、なに……俺がなんとかすべきなのか、この状況?」
「え、だって二人とも君が目的じゃない? 片方は君を守ろうと、そしてもう片方は君を眠らせる……かな! すっごい修羅場だけど、君ならなんとか出来るよ! 根拠ないけどね。まぁ頑張るんだセツラ君、負けちゃダメだぞ!」
やっぱりすげぇなこいつ、当事者じゃないからめっちゃ好き勝手言ってくる。
それどころか煽っている風にしか聞こえないし、俺はこいつを殴ってもいい気がしてきたぞ? というか一回殴って良くないか?
「安心しろセツラ、あたしが絶対守るから」
「――絶殺」
「さぁ選ぶんだセツラ君!」
「まじで俺にどうしろと?」
『混沌としてるなぁ、流石主様だ。妾的には面白いぞ』
そりゃあ禍津完全に関係ないしな。
……路地裏で凍り挟まれ修羅場なう。
あまりの現状にそんな最低な川柳が出来てしまったが、そのレベルで心がつらい。俺は何をすれば良いのだろうか? そもそも、これって俺が悪いのか? かなりの逆恨みな気がしてきた……。
「とりあえずさ……飯奢るからどっかいかないか?」
雪が言っていた。
何かあったら甘い物に頼ると良いって、だから俺は何も解決にはならないかも知れないが、とりあえず奢ることにしてこの場を収めることにした。
「いいね! 僕もお腹がすいたよ。だってもう二日もまともなご飯食べてないからね!」
お前には奢らんと言える空気でもなかったので、俺はそのまま三人を連れて最近常連になりかけているウェントスのお菓子屋に足を運んだ。
「イベント報酬でガルあってよかった……」
「200枚でかなりのガル貰えるんだな、貢献度でランキング変わるらしいし別にいいだろ――セツラ、今日は怒りすぎて悪かったな」
「友達と初めてご飯行けた……えへへ、嬉しいなぁ」
レイナは二個ほどケーキを食べたところで機嫌を良くし、ムラマサに至ってはなんか悲しいことを口にしながらマカロンを食べている。
そして――問題のオルフェウスなのだが……。
「あ、そこのお嬢さん。この大福? ってやつ持ってきて貰えるかい? あ、それと饅頭ってやつもお願い!」
「おまえが一番食べるなよ」
「えーだって甘い物美味しいだろう? それに僕料理出来ないから林檎ぐらいしか食べてなかったし……」
「いいよ、食べろよ。それ言われると怒りづらい……禍津は好きに頼んで良いぞ」
『流石主様だな! これは前食べたから、えっとまだ試してないこれと――これを頼む!』
わいわいと幼女に鍛冶師と魔法使い@詩人を添えた意味が不明なパーテイー、各々が注文する中で、俺はそういえばと聞きたかったことを聞く事にした。
「なぁオルフェウス、なんで俺達を探してたんだ?」
「あ、忘れてた――えっと一緒に冥界に行って欲しいんだよね」
「冥界? それってお前が妻を取り戻す為に向かった場所か?」
「うん、なんで知ってるの? ――まぁそれは置いといて、僕の妻がまた冥界にいるらしいんだよ」
なんで再び冥界にオルフェウスの妻がいるのか分からないが、もうちょっと詳しく聞いてみれば森にいる動物たちが彼の妻の姿を目撃しており冥界に向かった姿を見ていたようだ。
「今竪琴がないから冥界に行くのが不安でさ、だから強い君たちに護衛を頼みたいんだ! 勿論報酬ははずむよ? 僕に出来ることは何でもするからどうかお願いだ」
珍しく――いや初めてレベルで真面目な声音。
頭を下げていることからも本気で言ってるのが分かるし、何より少し見える真剣な表情に断りにくい。だが、受ける理由がないのだ――困ってるのを見逃すのは忍びないが、一応今はイベント期間。冥界がどれぐらいの場所にあるか分からないし、最悪向かってる間にイベントが終わる可能性ある。
「なぁ、ウザ男――お前の妻って美人か?」
「それはもう、この世で一番綺麗だよ!」
「――っし、よしセツラ美少女増えたし冥界行くぞ」
「この一週間はお前に付き添うって言ってたしな……お前がいくなら着いてくよ」
「あ、あたしも行く――危ない奴の監視する」
「ありがとう、本当にありがとう――よし、なら明日冥界に出発だ。案内するから朝ぐらいに集合で構わないかい?」
……それに三人で頷き、明日俺達は冥界に行くことになった。
どんな難易度の場所かは分からないが、きっと難しいだろう。イベントの真相を知れるかも知れないし、ちょっと頑張ってみようか。
そしてその時、一件のメーセージが届いた。
【ミソロジークエスト:冥界下る銀の調べが始まります
推奨レベル150】
だがそれに気づけなかった俺は、このクエストの難しさを後に身をもって知る事になる。
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