第34話:再び遭遇オルフェウス
「つか……れた」
それから約十分後、俺達は蛇の群れを倒して休憩していた。
レベルが認識不可だったあの蛇には仲間を呼ぶ能力があったらしく、最終的には20匹以上の敵と戦うハメになったのだ。
「……禍津、自重してくれ」
『頼んだのは主様だ』
「いや、そうだけどさ……限度ってのが」
『頑張ったのだが……』
禍津のことを最近分かってきたからだが、彼女は完全に善意で行動している。
だから怒るに怒れないし……あ、そういえば気になってた事があるんだが――ムラマサ色んな刀を使ってた気がするぞ。
「なぁ、装備枠多くないか?」
「あ、えっと……御霊の効果なんだ。登録した装備を呼び出せて好きに装備できるっていう」
「へぇ、凄い便利だな」
「ヒタヌが呼び出せて、ウチタヌで装備が出来るんだ」
そういう彼女の腕には二つの籠手が装備されていた。
茶色いその篭手にはさっきの狸の顔が彫られていて左にはヒタヌ、右にはウチタヌって感じだ。
「防具タイプの御霊か……他にはどんな効果があるんだ?」
「うーんと、あたしが作った武器なら制限無く装備が出来るぞ」
「何気に凄いなそれ」
つまりどんな性能の刀が出来ようとも彼女は必要ステータスを無視して装備することが出来ると解釈していいはずだ。未熟とは言っていたがレベル150となれば強い武器も作れるはずだし、確かにそれならかなり強いだろう。
「セツラも凄かったぞ! はやいし敵をすぐ斬るし刀の使い方も上手かった!」
「よせ照れる――あ、そうだ禍津外さないと」
今気付いたが休憩中も装備していたので俺の体力は1であり、魔力に至っては0だった。解除したところですぐにポーションを飲んだのだが、ムラマサは不思議そうな顔でそれを見ていた。
「あれ、被弾してたっけ?」
「いや禍津の効果でダメージ受けるんだ。だから戦闘が終わる度に回復しないと変な所で死ぬ可能性があるんだよ」
「凄い性能だな……恩恵はなんだ?」
「ステ上昇最大十二倍」
「……やばい装備、使いこなせるなんてセツラは強いんだな」
「まぁ、相棒だしな。どうせならこの世界でずっと一緒に戦いたいとは思ってる」
せっかくの独自のシステムで生まれた相棒。
使いにくくはあるしこの先彼女と一緒にいるとキツい場面が出てくるだろうが、出来るだけ一緒に戦いたい。
「良い関係なんだ……なぁ、セツラ。今度お前用に刀を作っていいか?」
「逆に良いのか?」
「うん、今日は初めて共闘出来たしそのお礼がしたいんだ。お前に合わせて作るから期待しててくれ!」
「それなら頼む――じゃあ帰るか、クエスト完了報告したいし」
用事も終わったことだし、ちょっと素材を集めながら俺達はウェントスの町に戻ることにした。道中でピッケルを使い鉱石を採集したり、鍛冶に使えるという特殊な藁を採取したりと色々あったが、特に問題無く戻ることが出来た。
「どんな刀作ろうかなぁ、体力減るならそれに合わせたいし……それにそれに、格好いいのが良いよなぁ!」
さっきから彼女はずっとこんな調子だ。
俺に作ってくれるという刀の構想を練りながらテンション高めに歩いている。
『黒が良いぞ娘、出来れば真っ黒いのがいい』
「いいね、どうせなら二本作って二刀流ってのも格好良いよ! セツラに合わせるなら吸血のパッシブも付与したいかも……」
『それはロマンがあるな、どうだ主様!』
最初は興味なかったと思ったが、禍津は途中から彼女と話すようになり今ではかなり打ち解けている。なんなら俺に合う装備というのを勝手に考察し始めたりでとても楽しそうだ。
「いいんじゃないか?」
『うむ。造形は娘に任せるが、色は妾好みがよいな』
「任せて、最高の作るよ!」
そうやって町中を進んでいたのだが、ちょっと気になる事があるのだ。
さっきからなんか視線を感じる――禍津が目立つってのもあるんだがろうが……そういう目線ではなくて、なんというかじっとしている不思議な奴。
それは後ろを度々見たらすぐに消えるんだが、どう考えてもこっちを意識しており正直に言えば森に居た時から感じてはいた。
「ちょっと人気の無い所いけるか?」
「……ん? いいけど、どうしたんだ?」
「ちょっとな……禍津も構わないか?」
『よいぞ』
そんなこんなで俺は路地裏に向かい追ってくる視線を感じながらも少し足早に移動した。そして完全に人気が無くなったところで俺は少し大きな声で、
「着いてきてるんだろ? 顔出せよ」
「――ふっ、やっぱり気付いたよね。流石セツラ君だね。そう、君の後を着けていたのはこの僕、オルフェウスさ!」
路地裏で相対するのは昨日あの家で別れたオルフェウス。
正直言えば追ってる奴の正体はまったく分かってなかったが、なんでこいつが俺の後を着けていたのだろうか?
「なんで着いてきたんだ?」
「え、君が森にいたからだよ? それにしてもやるねセツラ君、昨日とは違う子を連れてるなんて――罪な男だよ全く、本当に隅に置けないね! しかも町中でこんな路地裏に三人ではいるなんて……これは僕と妻も負けられないよ!」
「負けで良いから黙れよ……というか理由になってない、そもそも喧嘩中だろお前」
「あ、それは盲点! ――そうだよ、僕達は今喧嘩中なんだ。だから仲直り手伝ってくれるかい?」
やべぇ何も分からない。
分かる事はこいつがウザいって事だけで、それ以外何も分からない。
仲直りさせるっていうイベントだからメダル集めろって事だろうが、昨日の事を考えるとメダルがあんまり関係ない気がするんだよな。
「別にいいが、ちゃんと説明してくれよ?」
「それは約束するよ! あ、でもさ――僕って今日一人で尾行してたわけじゃないんだよね」
「え、それどういう?」
「――いやね? 今日僕は妻を探すために町に降りてきたんだけどさ、そこでレイナ嬢と出会ったんだよ。それでね話してるうちに君たちを見つけて……」
…………つまり、レイナも一緒にいた?
あれ、でもそれだと感じていた視線は一つだし。
「それでさ、途中からレイナ嬢の表情が死んでってさ新しい杖買いに行くって言われてそこで別れたんだ。でねでね、絶対に見失うなって釘刺されてたんだ」
「――なぁ、それいつだ?」
「十分前かなぁ……あ、レイナ嬢が来たよ? 今パーティーを組んだから分かるんだよ。おーいこっちだよレイナ嬢」
そう言って手を振ってこっちに俺達がいると伝えるオルフェウス。
嫌な予感というか、さっきから急に発動し始めた危機感知が凄くうるさい。
今の状況を軽く整理するとさ、一週間は遊ぶって言ってた友達が別の奴との用事を優先した感じなのか? いやでも、これは結構前から決まってたことで……とか言い訳してる場合じゃねぇ!
「禍津装備、ムラマサはちょっと悪いけど抱えさせてくれ!」
『なにごとだ主様?』
「え、あ――急にどうしたんだ?」
「いいから、全力で逃げるぞ二人とも!」
「あれ、どうしたんだい? ただ合流するだけだろう?」
呑気すぎるアホは置いておいてこのままだと命の危機がピンチなのでマジで逃げないとヤバイ。俺が悪いとかはあるけど、それより命の方が大事である
「オルフェウス説得任せた」
「え、何事だい?」
「またな――案内任せたムラマサァ!」
「何か分からないけど……あたしに任せろ?」
だがその瞬間、俺達の通路を塞ぐように両側を氷壁が埋めた。
「しごと、かんりょー。ねるねますた」
「おう、完璧だありがとなアルマ」
逃げ道はなくなり、いるのは修羅のみ。
どう言い訳しようかな? とそう思いながら、俺は覚悟を決めることにした。
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