第31話:詩人オルフェウス

「いやー助かったよ。死を覚悟してたけど、たまにはいいことあるんだね、いや、本当にありがとう今度は僕が冥府逝きになるとこだったからね」


 そんな事をいいながらもお礼としてか果物を渡してきたその男性。

 プレイヤーではないようだが、NPCだろうか?


「でも、こんな何もない森に二人で何の用だい? ――もしや、逢瀬! そうだね、旅人と言えども恋愛するよね! 息ぴったりだったしお似合いだと思うよ」

「なぁ、セツラ……こいつ殴っていいか?」

「いや落ち着け? ――五月蠅いけど助けたばかりで殴るのはヤバイ」

「すっげーうぜぇ」

「そこの金髪の子、確かにせっかくの逢瀬で邪魔者がいるのは困るよね。うん分かるよその気持ち、僕も妻との時間を邪魔されたら悲しいからさ」


 すげぇよこの人、果てしない勘違いをしながらも勝手に解釈して話し続けてる。

 それどころか、明らかにキレてるレイナを無視してるしメンタル最強かもしれない。


「そんな君に朗報さ! 助けてくれたお礼もしないといけないし、歌を一曲贈ってあげよう、それで思う存分いちゃつくといいよ! このオルフェウスの技をどうかご覧あれ、まぁ竪琴ないから歌だけだけどね」

「…………こいつ、燃やす」

「落ち着けレイナ、まじで杖は洒落にならん――あれ、オルフェウス? 今オルフェウスって言ったか?」


 聞き間違いでなければこいつは今自分の事をオルフェウスって名乗らなかったか?  彼が名乗った瞬間にネームバーが出てきたが、そこには確かにオルフェウスとある。

 つまり……今回のイベントNPCでありクエストの依頼主だろう。


「そうだよ? 僕はオルフェウス、銀の竪琴を持つ詩人さ……まぁ、今竪琴持ってないんだけどね。え、それだと僕の価値はって? そんなの歌声さ!」


 聞いていないことを喋りながらも止まらぬ速さで言葉を続けていく男改めオルフェウス。


「そうだ聞いてくれるかい? 僕には妻がいるんだけど、すっごく可愛くてね。いつもは仲良し円満夫婦って感じなんだけど喧嘩しちゃったんだよ。で、それで追い出されちゃったんだ……ん、あれそういえば、君たちは僕を知ってるのかい?」

「あぁ、今丁度あんたのクエストを受けてる所だ。冥府の宝を集めるってクエスト頼んだんだろ?」

「……うーん、くえすと? 僕頼んだ覚えないけどなぁ」

 

 俺がそういうとオルフェウスは心底不思議そうに首を傾げた。 

 本当に心当たりがないのか思いだそうとしても全く心当たりがないらしい。


「よければクエスト用紙見せてくれるかい?」

「……えっとどうやるんだ?」

「任せろ、これだな」


 俺の方が先に始めたはずなのになんで彼女はこんなに詳しいのだろうか? ちょっと悲しくなったが、まぁ話が進むならと許容して俺はオルフェウスと一緒にクエスト用紙なる物に目を通した。


「……妻の字だ」

「どういうことだ?」

「分からないね、でもこれは妻の字だ。なんで僕の名前を使ってクエスト依頼してるんだろう?」


 彼が言うにはこれは自分が出した依頼ではなく、彼の妻の字で書かれた物らしい。

 ……イベント告知でオルフェウスが妻と喧嘩してしまったということは知っていたし……あの内容を考えるに彼がメインと思ったが。


「ごめんね歌を贈りたかったけど、今は確かめたいことが出来たんだ。僕は帰るよ」

「あんた一人で帰れるのか?」

「よく考えれば無理だね! ねぇ二人ともお礼はするから家に帰るまで僕の護衛を頼めるかい?」


 どうするべきか、これはどう考えてもイベント関連。

 受けた方がいいかもしれないが、あまりにも情報が足りない。

 ……でも、何が起こってるか気になるというかゲーマーとしての勘が受けた方がいいと言っている気がする。


「オレは受けるぞセツラ、ちょっと気になるからな」

「なら受けるか。オルフェウス、その依頼は任せてくれ」


 今回はレイナに従うと決めているし確かめる為にも俺は彼の護衛をする事にした。

 このイベント、どういう目的で開催されたか知らないが……何かプレイヤーに知らされてない要素が隠されている気がする。

 これもイベントの一つといわれたら終わりだが、なんでかそれだけじゃない様に感じた。


「じゃあ頼むよ二人とも! 僕はすっごく弱いからね、君たちに道中は任せるさ!」


 そういうことになったので、俺達はオルフェウスを先頭に森の中を進むことになった。


「凄い驚くほどに何もなかったよ!」

「いや、その通りなんだけどなんでそんなに元気なんだよ」

「こいつ体力……バカ」

「何を言うんだい? この程度でへばってたら冥府は下れないだろう?」


 やってきたのは森の奥、それも最初いた場所から二時間ほど歩いた所にある場所だった。エタニティ大陸が広いのは知っていたが、こんなに歩くとは思わない。

 最初は普通に歩いたが、あまりにも歩くせいで途中から疲れてきたし普通につらかった。普段ゲームばっかりのつけがまさかゲームで帰ってくるとは思わないだろ。

 ゲームでバテるって何だよ、しかも歩いただけだぞ今日。


「とりあえずこれが僕の家さ、妻がいるといいんだけど……」


 ファンタジーの一軒家を想像したら出てくるような木の母屋。

 さっきの言葉を言いながら彼がその家に入ろうとした瞬間のこと、何かに気付いたような顔をした。


「あ、そういえば僕家閉め出されたから入れないかも!」

「どうすんだよ……」

「そんなの……どうしよって、開いてる?」


 オルフェウスが普通にドアに触れれば簡単にそれは開いた。

 鍵しまってるはずなのにと言いながらも中に入った彼に着いていけば、家の中には誰もおらず生活感はあるものの、人の気配が一切なかった。

 隠れてるのかとも思ったが、そんな事する必要も無いだろうし……。


「あれぇ、手紙かなこれ」


 三人で少しの間家を探索しているとオルフェウスが何かを見つけたようだ。

 何かを見るために集まったとき、そこにいた彼の表情は何故か暗く、俺達を見るなりすぐに顔を変え……。


「君達、妻はどうやら町に買い物に行ってるみたいなんだ! だから心配しなくていいよ、今日はもう帰って大丈夫さ」


 どう考えても無理をしているような表情。

 何かがあったことは確かだが、これは聞き出せるような雰囲気ではない。

 それをレイナも察したのかテレパシーで帰るぞとだけ届き、俺達は今回帰ることを決めた。


「セツラ、今からどうする?」

「……色々気になるが、一旦落ちるか。明日約束あるし、情報まとめたい」

「了解だ。オレもオレで調べておくわ」 

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