第32話:刀鍛冶師ムラマサ
翌日のこと、最近確認してなかった自分のチャンネルを見てみれば登録者が10倍ぐらい増えていた。配信開始して約九ヶ月、こんなに伸びるなんて思ってなかったからびっくりだ。
「……でも、やっぱり求められるもののハードルあがるよなぁ」
コメントやSNSを見る限り当たり前かもしれないが今俺はエタファンの配信者として知られている。過去の動画の視聴回数が増えているが、エタファンに比べたら微々たる物……元々自分のプレイした物を記録する為に始めた配信活動だが――。
「まぁ、気にしても意味ないか……俺はゲームやるだけだし」
俺としては好き勝手にゲームやるだけだし、気にしても意味が無い。
最近配信できてないが、イベント中はレンと回るからあんまり写せないんだよなぁ……。
「とりあえずだけど、約束あるしログインしたらロランさんの店に行かないとな」
起きたのが遅れたせいで約束の時間まで残り三十分、遅れるのも悪いので俺は早速ログインし急いでロランさんの家に向かうことにした。
「……あれ、なんか珍しく人がいる?」
思えば俺以外の客をあんまり見ない牙獣の堂。
その入り口にフードを被った見知らぬ誰かがいるのだ。
小柄な後ろ姿で、多分女性だと思うが……ロランさんの店は男性用の物ばっかり置いてあるからいるのに違和感がある。
「……どうしよ、早すぎて怖いって思われるかなぁ。いやでも五分前には待ってろって教えがあるし……あれ、でもまだ十五分あるからやっぱり早すぎるよね。あたし気持ち悪がられるかも……でもでも、早いほうが好印象かなぁ。うん、入るぞあたし」
用があるしで近付けば早口で彼女は何かを言っていた。
ぶつぶつと……落ち込んだり急に明るくなったりしてから何かを決意したように店に入っていった。
『……ん? むぅ……主様入らないのか?』
「今入るぞ」
寝起きなのか欠伸しながら現れた禍津にそう言われたので俺はさっきの彼女の後に続くように店に入っていった。
「おうセツラ早かったな、まだ十五分もあるぞ?」
「早めに来ようと思って……あれ、待ち人は?」
「お前が来た瞬間に隠れた」
「……えぇ」
店を見渡せば確かに店のカウンターから少しフードが見える。
隠れられてねぇとか思いながらも話しかけていいか分からずじまいで待っていればロランさんが助け船を出してくれる。
「刀か篭手見せれば出てくるぞ」
ないだろと思いつつも、俺が持っている一番良い刀をインベントリから取り出してみればちょっとだけ顔を出してくれた。
「あ、ホントに出てきた」
「人見知りだからなぁこいつ、おい早く挨拶しろ」
「……初対面怖い」
「お前が会いたいって言ったんだろ、待たせるな」
「叔父さんが話して」
「お前、呼んだ意味……」
「おいセツラ刀抜け」
常識的にこんな場所で刀抜いていいのかと思ったが、店の主が言ってしで刀を抜いてみた――瞬間のこと。
「あ、直刀だぁ!」
なんか凄い速度で近付いてきて目を輝かせながら刀を見てきた
勢いよく来たせいでフードが取れて見えたのは銀の瞳をした赤毛の少女。
……なんでか犬っぽいなと思いながらも、耳と尻尾を幻視した俺は目を擦ってから刀を彼女に渡すことにした。
「……え、いいのか?」
「みたいっぽいしいいぞ?」
それで彼女に霹靂神を渡してみれば、恐る恐る刀に触れて暫くどころか五分程度観察してから……。
「長さが六十超えてるから種類は太刀で……白い雷みたいな刀身が格好いいなぁ、切れ味も凄いだろうし……えっと鑑定鑑定。へぇこの刀って魔法斬れるんだぁ――多分平安時代の刀がモチーフだよね!」
そう言って最後に同意を彼女は求めてきた。
……俺は刀に詳しくないから何も言えないが、凄い熱量を感じたのでよっぽど彼女は刀が好きなんだろうという事が分かった。
「そうじゃないか?」
「だよねだよね! しかもこれ多分だけど結構古い作りなんだ! それにね、無駄が一切なくて斬るより叩き潰すのと突くのに特化してるんだよ!」
「そうなのか、そう使えば良いんだな」
正直言えば俺が今使っていた刀が沿っている刀だったからこの刀の使い方が分からなかった。思わぬ所で使い方を知れてよかったし、もうちょっと聞いてみようか。
「そうだぞ、能力見る限り叩き潰したて魔法斬ったりでかなり良い性能だと思うんだ! しかもさ、雷属性の武器だから水系のモンスターに1.2倍のダメージ補正もあるだって!」
「へぇ、めっちゃ使えるんだこの刀。教えてくれてありがとな」
「あぁ、もっとあたしに聞いて良いぞ! なんでも答えてやるからさ! あ、そうだ。お前あたしの篭手使ってくれてるんだよな?」
あたしの篭手って事は……彼女がムラマサって事で良いのだろうか?
鍛冶職ってどちらかというと、男に人気のイメージがあるが女性もやるんだなぁ。
「使ってるぞ、なんなら滅茶苦茶愛用してる」
「えへへ、嬉しいなぁ……そうだお前なら無料で直してやる。多分耐久度減ってるよな?」
「そうだが……いいのか? かなり良い装備だし流石に何か対価は」
「そんなのいいって! お前は初めてあたしの装備を使ってくれたんだ。だからお金とかはいい」
まじでいい人かもしれない。
そしてそのまま何かを思い出したように彼女はウィンドウを操作し始めた。
【ムラマサからフレンド申請が来ております。承諾しますか?
・はい いいえ】
そしてすぐさま届くフレンド申請。
断る理由もないしすぐに承認すれば満面の笑顔で喜び始めた。
「……はじめて、フレンド出来た。なぁ叔父さんゲームでフレンド出来たぞ!」
「おい俺もフレンドだろ」
「叔父さんは別……なぁなぁセツラ、今から一緒に探索行かないか?」
「別にいいぞ、今日は用事無いし。でも何処行くんだ?」
「お前のレベルに合わせるぞ? あたしカンストしてるし」
まさかのトップ勢か。
そういえばラスロが言ってたが、このゲームは武器や道具を作っても経験値が入るらしく戦うよりは非効率だが時間があればカンストする事も出来るらしい……でもそれだけ何かを作らなきゃいけないから条件としてはめっちゃキツいと聞いた。
「カンストって事150だろ? 戦闘とかもしたのか?」
「あたしは戦闘はカンストしてからだな、それまでずっと刀作ってた。ざっと五千本ぐらい……だと思う」
「すげぇな、でも余ってるんじゃないかそれだと……」
「世に出せる代物じゃないから防具しかまだ売ってないんだ、刀は全部工房にしまってる」
へぇ、凄いストイックというか自分に厳しいのか?
生産職でレベル150って事は今ある全部のスキルポイントを生産関連のステータスに振っている筈だし、かなりの装備を作れると思うんだがそれでも売れないと思うって事は余程の拘りがあるのかもしれない。
「あ、パーティー組むのはいいんだが……その前にギルド寄っていいか? レベル上限解放したくて……」
「全然いいぞ! よかったら案内するからさ。今から行こう?」
「そうだな、せっかくなら長い時間遊んだ方がいいだろうし早く行こうか」
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