第30話:カーバンクル幼女


 イベント二日目、俺は昼頃からログインしすぐにレイナと合流した。

 そしてそのまま向かったのはエタニティ大陸の森林地帯……理由としてはレイナの次の言葉であり。 


「ネットの情報だと川の近くとかの方が多いらしいぞ、あと森」

 

 動画とかで確認したらしいので多分あってる情報だということ。

 昨日は最終的に30匹ぐらいしか狩れなかったので、今日の目標はその倍という事で、夜になるまでは戦い続ける事になるだろう。


「……確かに多いな、既に10匹狩れてる」

「だろ? 有名な攻略班が出してた情報だし、使えると思ったんだ」

「なるほどな、流石レイナ」

「おう、付き合わせる以上こっちもなんかしないとだしな」


 現時点で集まったメダルは50枚。

 まだ全然とも思ったが、二人会わせて100枚ほどなので結構ペースはいいかもしれない。でも一つ問題が、このメダル結構重量があり50枚で少し敏捷に下方補正がかかるようになっていたのだ。


「……俺はあんまり問題ないが、レイナはどうなんだ?」

「オレも今の所は問題無いぞ? オレが振ってるのは敏捷と技量と魔知だからな」

「へぇ、完全に魔法ビルドって感じなのか」

「やっぱりファンタジーの魔法はロマンだろ?」


 そういえばレイナのレベルってどのぐらいなのだろうか?

 パーティー組んだのはいいが、詳しいことは見てなかったのでレベルが分からない。そういうことなのでパーティーメンバーを確認したらそこにはレベル50の表示が……。


「なんか高くないか?」

「お前燃やすためにひたすらモンスターボコってたからな、自然と上がる」

「原動力えぇ」

「約束破ったお前が悪い」


 いや、そうなんだけどさ……だからって倒しすぎじゃないか?

 今更ながらこいつの怒りの高さを思い知った俺は、今度からちゃんと約束守ろうと心に決めた。

 

「そうだお前の御霊ってどうなんだ?」


 俺が今目にしてる御霊はナユタのコクビャクとラスロのアロンダイトDXぐらい、あんまり他のプレイヤーの御霊を見てないので気になっていたのだ。


「オレのか? ……まぁ見せてやるよ、出てくれアルマ」

「…………出ないが?」

「……ちょっと待ってろ?」


 それから数秒待っても何も現れない。

 時間だけが無駄に過ぎていき、最終的にレイナはメニューを開き御霊を呼び出した。


「ますた、わたし……ねむい」

「いや起きろよ、絶賛昼だぞ今」

「ぽかぽかだから、お昼寝するの」

「……あとで寝ていいから、今だけ起きてくれ」

「むぅわかった……よろしくますたのともだち」


 出てきたのは額にルビーが着いてる紅い髪の幼女。

 垂れた獣の耳みたいなのがついているその幼女は、とても気怠げな態度で挨拶してきた。


「こいつはアルマ、オレの御霊で種族はカーバンクルだ」

「めっちゃ人型じゃん、どういう奴なんだ?」

「見ての通り可愛い、そして強い」

「……それじゃ何も分からん」

「それもそうだな、えっとオレのサポートだ。火力支援してくれる」

「この子が?」


 このあまりにも幼女な外見的に支援系かと思ったが、そうじゃないらしい。

 ……それに今にも寝そうな態度を見るに、攻撃できるとは思えないんんだけどな。


「そこはあんしんする……わたしはすごいから」

「そうなのか? ……まあいいや、俺はセツラで俺の御霊が――」

『禍津童子だ。よろしく頼むぞ精霊よ』

「ん、よろしく。ますた寝ていい?」

「まあいいぞ、お前を使うような敵は出ないだろ」


 そうやって消えていくアルマ、思った以上に相性のいい二人を見てやっぱりこのゲームって凄いんだなと心底思った。

 

「というかレイナ、お前よく取り乱さなかったな。あんな御霊だったら限界化しそうなのに……」

「情緒が狂うから抑えてる。正直マジでモフりたい……でも嫌がるからなぁ」

『おい友人様よ、妾も嫌がったが?』

「いや……吸いたいじゃん」

『やっぱり怖いのだ』

 

 本気で怖がっているのか禍津は再度俺を盾にして後ろに隠れた。

 なんか思うのだが、禍津ってどんどん感情を出してるよな……最初は妖さ全開だったのに、今では本当に少女みたいだ。

 まだ一週間ほどの付き合いだが、既に色んな一面を見てきた気がする。


『どうしたのだ主様?』

「いや,禍津の事考えてた」

『急にどうしたのだ? もしや妾の魅力にやっと気付いたか?』

「いや、怪しかったが最初から可愛いとは思ってたぞ」


 実際こいつは可愛いと思うし、行動もよく見れば可愛い。

 相棒であることに加えて今まで助けられてきたし、好感度自体はかなり既に高いのだ。まぁ、初対面の時は警戒したが、こいつって基本悪意がないから一緒にいて安心できるのだ。


『…………またあとでな主様』

「おいなんで急に消えんだよ禍津」

「いちゃつくなアホ、それよりはやく狩るぞ」

「……思った事言っただけなんだが」

「うるせえ馬鹿、出たぞ団体様だ」


 湧いてくる5~6匹の蛇たち、すぐに戦闘になったので俺は刀を構えて前衛の役目を全うすることにした。

 相手のレベル自体は低く28程度、やっぱりこのイベントは初心者用なのか弱い敵が多い。場所によっては強いのも湧くだろうが、量的にも今はここで狩るのがいいだろう。


「っし、やっぱりこの森最高だな」

「結構増えたが流石に重いな、そろそろアイテム交換しにいくか?」

「そうだなそうするか」


 一旦帰還することになったので俺達は森を抜けることにした。

 その途中はあまりモンスターには出会わなかったし、出会ったのも蛇ぐらいだったので多分だが通常のモンスターは今出現が制限されてるんだろう。


「そうだレイナ、そのオルフェウスの物語ってどんなんなんだ?」

「うろ覚えだけどいいか?」

「気になるしなんとなく分かればいいぞ」

「じゃあ話すわ」


 それから話されたのは詩人オルフェウスの物語。

 トラキアという場所で生まれたその男は、竪琴の発明者とされ。彼の美しい声と妙なる竪琴の調べは、森の野獣はもちろん森の樹木にも感動を与えたとのこと。

 そんな彼はある時毒蛇によって妻を失い、冥府に出向き冒険をして妻を取り戻す一歩手前まで行ったらしい。


「だけど、冥府の神ハデスの言いつけを破って振り返ってしまったせいで妻を失ったって話だ。その後にも色々あったらしいが、概ねこんな感じだぞ」

「自業自得とは言えかなりつらいなそれ」


 どうしても妻に会いたくて過酷な冒険をして、やっと取り戻せる筈の妻は後ろにいても見てはいけない。それに本当にいるのかも不安になるだろうし、少し気持ちは分かる。


「まあ今回はそれを参考にしたイベントなんだろうな、敵は蛇っばかりだし」

「なるほどなぁ、ありがとレイナ」

「いいって、それよりさ……なんかさっきから歌声聞こえないか?」

「……歌?」


 レイナに言われて耳を澄ませば、確かに何処かで誰かが歌ってるのか声が聞こえる。こんなモンスターが沢山のマップで歌を歌う理由は分からないが、少し気になるな。


「ちょっと見てみないか? なんか凄い上手いし」

「そうだな……行ってみるか」


 歌声がする方へ向かい、俺達は森を進む。

 暫く歩いていると開けた場所に辿り着き、そこには一人の男がいた。


「僕は食べても美味しくないよ!? あぁもう、竪琴があればなんとなるのに……あ、そこの人達! 哀れな僕をどうか助けてくれないかい!」


 蛇の軍勢に襲われているなんか情けない茶髪の優男。

 そんな彼は俺達を見るなり助けを求めてきた――流石に見過ごせないと思ったので俺は刀を構えて蛇へと向かうことにした。

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