第28話:女友達襲来、難易度ナイトメア


 杖を突きつけられた俺が取った行動は単純なモノだ。

 両膝両手を大地につけて、完璧な姿勢で彼女を見つめた、そして俺は薄く笑い――頭蓋を地面に叩きつける。


「ほんとうにすいませんでしたー!」

『おぉ、見事な土下座だな初めて見たぞ』

 

 そう、俺は彼女に会った瞬間に土下座するということを選んでいた。

 プライドなんかない、意地なんて知らない。悪いのだから謝ろう……そんな思いで、俺は誠心誠意謝ることを決めた。


「……とりあえずスクショ撮って。なぁ大和……いやこっちじゃセツラか、お前オレと遊ぶって言ったのはいつだ?」

「一週間ぐらい前です」

「そうだな、一週間だ。で、それから一回でも連絡くれたか?」

「い、一回だけ」

「あぁ、お前がお尋ね者になった時だ――でそれから何日だ?」

「……五日ですね」


 あぁ、そうだ……と見上げれば凄い綺麗な笑顔で俺を見下ろす友達二号。

 許してくれるのかな? ……と淡い期待を込めて立ち上がろうとした瞬間のこと、何かがチャージされる音が聞こえてきた。

 ……リンと発動する危機感知、恐る恐る顔を上げれば杖を構える彼女の姿がそこにはあった。


「判決――ギルティ、一回燃えろ」


 今の俺の体力は最大値、それで危機感知が発動するということはわんちゃん死ぬ。

 ……まじでやべぇと思った俺は、一気に離脱してとりあえず逃げる事にした。


「おいこら、逃げんな! 男なら燃やされろ!」

「無理、死ぬから無理――こんな間抜けな死に方だけはしたくない!」


 そこから始まる追いかけっこ、ゲームとはいえ久しぶりに会うのになんか締まらない。とにかく、それから三十分かけて逃げ切った俺は、落ち着いた彼女に話しかけた。


「いつか燃やす。まぁ、久しぶりだなセツラ」

「そうだな、中学二年生ぶり?」

「そんぐらいだ。というか、お前本当にまんまだな」

「……お前もそれは言えないからな」

「オレはバレても問題ねーし、何より自信あるからな」


 ネットリテラシー……と最早定番にありつつあるツッコミを心の中でして、俺は彼女を改めて見た。

 長い金髪に碧眼の俺より少し低めの少女。リアルのままというなら実際の身長は同じぐらいだろう。


「流石に名前は……違うか」

「レイナだな……殆ど変わんねーが、いつも使ってる名前これだし」

「了解。じゃあこっちではレイナって呼ぶわ」

「そうしてくれ……で、こっちのロリはなんだ?」

『妾はロリではないぞ、主様の御霊だ』


 鬼ごっこを楽しそうに観戦したあと持っていたお菓子を食べていた禍津にレイナが興味を持ったようだ。


「あぁ、お前の背水装備ってこいつか。初めましてだな、オレはレイナだ。よろしく頼む」

『妾は禍津童子だ。よろしく頼むぞ、主様の友人様よ』

「ん……なぁセツラこの子可愛いな」


 ……唐突に、レン改めレイナはそう言った。

 そういえばこいつって、何気に可愛いモノ……というか小さい少女が好きだったな。昔から背が高いことを気にしてか、自分より小さいモノを愛でる癖があるのだ。


「……あげないからな」

「んなこと分かってるよ。ただちょっと、吸いたい」

「吸いたい!?」


 珍しく声を荒げてしまったが、この阿呆は何を言っているのだろうか?

 冗談かと思ったが、目が本気だった。本気でそう言っているのか、完全に視線が禍津に固定されてる。

 

『……主様、此奴怖いんだが?』

「今更だが、その呼び方も可愛いな……妾系和風ロリか」

「……触るの禁止、禍津が怖がってるから」

「吸わせたら許す」

「………………悩む」

『主様!?』


 凄い、禍津の悲鳴なんて初めて聞いた。

 いつも余裕そうなこいつが声を荒げる様子なんてまじでレアである……どうするか、ちょっといじける禍津が見てみたい気がしてきたぞ。


「レイナ、俺が許可する吸っていいぞ」


 こいつが怒ったら面倒くさいのは知ってるし、禍津が犠牲になって許されるのならいい気がしてきた。


「よし、許してやるよセツラ」

『置いてくな? 妾は嫌だぞ』 

「ちょっとだけだから許してくれ、ただちょっと髪を吸うだけだから」

 

 明らかに変質者的な事を言いながらじりじりと禍津ににじり寄るリアル友達二号、それに恐怖を覚えたのか俺の後ろに隠れる相棒。

 無慈悲にゴーサインを出した俺は相棒を差し出し、そのまま髪を吸われる禍津に黙祷する。


「みなさーん、美を司る系AIのティファレトちゃんだぞ! 今日は旅人である貴様等に朗報だー!」


 数分後の事、髪を吸われた相棒の恨めしげな視線を受けていると……急にそんな声が世界に響いた。空を見上げれば、そこに出来たアイドルステージのような所で飛び跳ねる桃色髪の美少女の姿が見えた。


「む? 美を司るAIがなんでイベントと告知なんてやってるって? ……そんなの可愛いボクがやった方が映えるでしょ?」


 元気よくハキハキと喋るティファレトというAI。

 小柄なその少女はどっかから台本を取り出して……少し難しそうな顔をした。


「とにかく、今回のイベントの告知だよ! あらら大変、詩人のオルフェウスが妻と喧嘩しちゃったんだー。で、旅人の皆にはそんな二人を仲直りさせるために頑張って欲しいんだよ」


 簡単にイベントの詳細を話したあと、持っていた台本を放り投げ彼女はターンしてからこう言った。


「そんなイベントの詳細アイテム集め、限定モンスターを倒してアイテムを集めちゃおうぜ! 貢献度に応じた報酬やアイテムと交換出来るのもあるから皆どしどし狩っちゃってー! 一位の人にはボクと何かが……? まあ、みんな楽しんでね!」


 それだけ伝えてきて消えるステージ。

 最後までアイドルのように振る舞ったAIが姿を消し、その場に静寂が訪れた。


「なぁセツラ、一位取るぞ」


 そして急に何かを決したような顔でレイナが言った。

 目はさっきの美少女がいた場所に固定されていて、声には決意が宿っている。


「え、どうした急に?」

「あの美少女に会える可能性あるんだろ? ……ぜってぇ会いたい」

「付き合えと?」

「一週間、待たせたよなお前……どうせ雪とやってたんだろ? じゃあ今回はオレの番だ……付き合ってくれるよな?」


 そう言われると何も言えなくなる。 

 これも運命かとゆっくりと頷いた俺は、少し乾いた目をしながら連れ回される事を確信し……心の底から溜め息を吐いた。


「目指すは美少女、いつからイベントの敵が湧くか知らんが開始告知ぐらいはあるだろ」

「……禍津、頑張るぞ」

『一人でやれ主様』


 ……流石にイベント走るなら彼女の力は必須なので全力で機嫌を直すため、俺は残りの金を使い切り、今回のイベントの目標に所持金を増やすという事も追加してとりあえず頑張ることを俺は決めた。

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