第27話:鵺の遺刀
『む、来たか主様……二日ぶりだな』
「おはよ禍津、二日ぶり」
ログインした瞬間、最後に寝た宿屋で目を覚ませば出迎えてくれたのは禍津だった。ゲームにログインしたのは二日ぶり、何が変わってるか気になりながらも俺は宿屋から出てウェントスの町を少し探索することにした。
『そういえばだ主様、鵺に貰った刀は試さないのか?』
「あ……そういえば試したいな」
『門は開いておるからな、草原に行こうでは無いか』
「そうするか……とりあえず装備して」
メニューを開きアイテムボックスから装備しようとした……んだが、なんでか装備が出来なかった。
「……装備できないんだが?」
いくら装備覧に武器を入れようとも何故か装備が出来ない。
あまりにも無駄な時間が過ぎので、まさかと思い装備の詳細を確認することにした。
――雷禍を冠する獣の体に宿っていた一刀。雷を帯び迅雷を宿すこの太刀の音は散っていった者の悲鳴とも言われている。
武器種:刀
装備時攻撃力:106
属性:雷
必要レベル:60
必要ステータス:STR・24 INT・15 TEC・35
装備時スキル:雷斬り
…………やべぇ色々足りねぇ。
ステータスについてはまだなんとかなるが、レベルがどうしても足りない。
とりあえずこの刀は使いたいし、今必要値まで振っておくが……その前に確認する事がある。
「あのさ禍津、聞きたい事あるんだが禍津の上昇値のってどのぐらいまでなんだ?」
『四十九回までだな……その回数以上のバフはかからんだろう』
その情報を考えると俺にかかるバフは最大12倍……全ステアップを考えると振れるステータスが決まってくるな。
……まぁ今はそこまで難しく考える必要ないし、60レベルになる頃にはスキルポイントも溜まるだろうから必要分意外は適当にして。
————————————
PN:セツラ
LV:35
JOB(職業):侍
HP(体力):104+7
MP(魔力):33+2
SP(スタミナポイント):69+6
STM (持久力):32
STR(筋力):24
DEX(器用):17
END(耐久力):12
AGI(敏捷):42
INT(魔知):16
TEC(技量):35
VIT(生命力):28
LUC(幸運):28
ステータスポイント:3
スキル:居合い
パッシブスキル:危機感知
狂鬼の回術
御霊:
種族:おに 武器形態:紋様・刀
————————————
という事で大体こんな感じのステータスになった。
本当は体力を増やすためにVITに振りたいが、下手に振って体力が増えてしまうと、禍津を使うときに支障が出るから振りにくいんだよな。
「あれ、なんで禍津を使う前提で考えてるんだ?」
すっごい今更だが、俺は禍津を使う前提でステを振りを考えていた。
今まではレベルが足りなかったから禍津を使う必要があり、それ前提で動いていたが……よく考えればレベル上がったらあんまり使う必要が……。
『……なぁ主様、妾は使われなくなるのか?』
「…………使うぞ? これからもずっと一緒だしなんなら基本背水するから――その顔止めてくれマジで」
目がマジだった。
本気で怒ってるというより普段の彼女からは考えられないレベルでハイライトが消えていた。それこそ深淵って言っていい程に。
飲み込まれるほどの黒でブラックホールかな? と思うくらいには真っ黒な瞳で完全に感情が死んでいたのだ。
『そうか、妾捨てられるかと思ったぞ?』
「捨てないから、あとここ一応街中だからそういうこと言うの止めよう? ほら他のプレイヤーとかNPCの視線がゴミを見るようなものになってるからさ!」
『でも酷いこといったの主様だ』
あれ、これもしかして街で少女に主様呼びさせる変態がその子を捨てようとしてる場面に見られてるのか?
……いや、違う。この子御霊だから俺の相棒だから――だから本当にやめてください、そんな目で俺を見ないでくれ。
「……よし、禍津お菓子屋行こう。こないだの甘味に合わせて美味いの買うから、ここから離れようか。あの……お騒がせしました」
『主様は優しいな、妾は恵まれておる』
足早に禍津の手を引いて俺はその場から離れて、今約束したばかりの事を果たすためにウェントスの町中のお菓子屋を巡ることになった。
「……で、なんで俺の店に来たんだセツラ」
「視線が……視線が痛かったんだロランさん」
「俺の店は酒場じゃないんだ。飯食うのはよそでやってくれ」
「んな殺生な」
「ならなんか買え」
「アッハイ」
ここでも視線が痛かったが、さっきのよりはマシなので装備を選びながらもお菓子を食べる禍津に目をやった。
今更だが、禍津はレアとされる人型の御霊なのだ。
この世界を生きるNPC以上に生きていると思わせる彼女、同種の御霊には会った事がないが、他の御霊もそうなのだろうか?
「……とりあえずこれ買うわ、多分侍用だろ?」
動きやすさ重視の袴装備を選び俺はそれを買うことにした。
これなら使いやすいだろうし、今の俺でも装備できる物だったからだ。
「疾魔の袴か、いいの選んだな、それはAGIに補正がかかるぞ」
「まじか――あれ、それって高くないか?」
「そりゃな、一つ30万ガルだ」
高い凄く高い。
このゲームはクエストの報酬金かモンスターの素材を売るかでしか金が手に入らないから金欠になりやすいらしいのだ。
大陸クエストのおかげか買える金はあるが、正直言うと買ったらなくなるだろう。
「どうする? 桜雷からしかも一つしか仕入れてないからレアだぞ?」
「……完全に俺を狙ってたよな」
「まさか、大陸クエストのMVP様を狙うなんてとんでもない。いやぁ、お前のプレイスタイル見たが、敏捷が必要そうだよなぁ。あーこれは多分他の誰かにも売れそうだなー」
最後に至っては果てしない棒読みだった。
だけどこれは欲しい、言われたとおり回避重視の戦いだから敏捷がマジで大事でありそれに補正がかかる装備なんて欲しいに決まってる。
「ぶ、分割払いで」
「あーそうかー他の侍に」
「払うので買わせてください」
「まいど、装備していくか?」
「……そうする」
俺は――弱い!
あぁ、所持金が……主に禍津に甘味を買って2割消えていた所持金が一気に減った。これ暫く草原籠もってモンスター狩らないと金がなくなるなぁ。
「そうだセツラこないだ言ってた篭手の製作主がお前に会いたいってさ、二日後空いてるか?」
「夏休みだから多分空いてる」
「ならココ集合で十二時ぐらいに来てくれ」
「あいよ……じゃあ俺はそろそろ行くわ狩り行くぞ禍津」
『了解だ主様!』
めっちゃお菓子を食べたことにより機嫌がいいのか、彼女は元気よく浮き上がり俺の後ろを着いてきた。ちょっと頬が引き攣ったが、機嫌が良くなったので別にいいと言い聞かせ俺はそのままフィールドに出向いた。
「よし、今日も遊ぶぞー!」
リン! と叫んだ瞬間、発動する危機感知。
咄嗟に避ければ俺がいた場所が激しく燃えていた。
「……誰だ?」
刀を構えて周囲を警戒する。
誰がやったか分からないが完全な襲撃行為、PKの可能性が大だろうし死にたくないので警戒するしかない。
『主様、後ろだ!』
禍津の声と共に感じる殺気のようなモノ。
反射で避ければそこには今度は氷の槍が刺さっていた。
「やっぱり避けるか、完全に当てたつもりだったんだが……」
聞き覚えのある声、ここ数年は通話越しでしか話してないからちょっと変な感じだが、殆ど変わってないので誰が襲撃したかはすぐ分かった。
「……お前、レンか?」
そこにいたのは背の高い金髪の少女。
目が完全に据わっていて俺だけを睨み付けるそいつは、明らかな怒気を含ませてこう言った。
「あぁ、そうだぞ? 遊ぶって言って散々放置プレイくらったお前の友達二号だ」
何も、言えなかった。
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