第三章:星を彩る銀の竪琴

第26話:たまの日常


 これは子供の頃の話、凄いむかつく阿呆との記憶……忘れてしまった夢の断片だ。


「ほれほれ、そんなんじゃ吾には勝てんぞ童」

「今日こそ負かす絶対泣かす」

 

 縁側に集まって俺は友達達とゲームをしていた。

 やっているのは既に廃れた機械のレースゲーム。そのゲームでは俺は大敗し、煽ってくる相手を睨み付けていた。


「……また大和負けてる。これで五十敗」

「いや次は勝つから、うんマジで――絶対泣かす」

「なぁ雪、大和が負けるに明日の駄菓子」

「私もそっちに賭けたい」


 俺が闘志を燃やす中、幼馴染みと金髪の友達が酷いことを言っていたがそれは無視。ちょっと傷付いたけど、俺にはどうしても大事な使命があるからともう一度キャラを選びカートをカスタムして煽ってくる阿呆に勝負を挑んだ。


「――だー負けた! いいとこまで行ったのに!」

「まだまだじゃなぁ、そんなんだから吾に勝てぬのじゃ雑魚大和」

「この糞狐ぇ――もっかい、次勝つから」

「よいぞよいぞ? 寛大な吾が付き合ってやろう」

「絶対勝つからな、お前等も見てろよ!」


 負けて負けてを繰り返し、何度も彼女に挑み続ける。

 ――その時間が楽しくて、いつまでも続くと俺は思っていたんだ。


――――――

――――

――


「おきて大和、終わらないよ?」

「寝てた……のか、俺」

「うん、ばっちり凄くぐっすりだった」

  

 大陸クエストを攻略し二日が過ぎた夏休みのこと。

 高校の課題を一切やってなかった事に気づいた俺は、ゲームをやるためにその二日間課題と戦っていた最中に疲れて寝てしまったようだ。


「……課題がにくい」


 無論まだ夏休みが始まったばかりであり、余裕はあるのだが……最終日に地獄を見るぐらいなら今のうちにやっておいた方がいいのだ。


「寝てたみたいだけど結構進んだ?」

「一応? それより悪いなノート見せて貰って」

  

 課題をやっている場所は幼馴染みの家。

 縁側で昔ながらというか何百年も日本の夏を支えてきた扇風機に助けられ俺は強敵との勝負に挑んでいる。


「私外面最強だから、やることはやる……あと大和も地頭はいいんだからちゃんとすればいい」

「……耳が痛いな」

「それと手を止めてないで早く解いて、私は遊びたい」


 構え構えというオーラを放ちながらもそういうとこはしっかりと言ってくる彼女には頭が上がらない。昔から宿題などを手伝って貰ってたが、そろそろ自分で頑張った方がいい気がしてきた……。


「――よし、終わり」

「お疲れ大和、答え合わせはやっとくね」


 まじで頭上がらないなぁとか思いながらも、まぁ学校では面倒見てるの俺だしと謎の強がりを発揮し、聞きたかったことを聞く事にした。


「そうえいば雪、もうすぐエタファンのイベントあるんだっけ?」

 

 大陸クエストの後で公式サイトから発表されたイベント告知。

 詳しい日程は見てなかったので彼女に確認を取ってみれば次の言葉が返ってきた。


「うん、そだね。明日の夜から始まるよ」

「近日中ってのは知ってたけどはやくね?」

「エタファンのイベントはそういうもの。始まるのが早くて期間が一週間ぐらい」

「へぇってことはイベントは多いんだな」

「運営の気分だからそこはなんとも言えない」


 へぇ、そうなのか。

 とそんな事を思いながらも集まってもエタファンの話をしていることにちょっと笑ってしまった。


「あ、それとさ雪。鵺を倒してもあんまり経験値貰えなかったんだが、もしかして経験値制限あるのか?」

「あるよ……それにレベル上限もあるからそれだと思う。今のレベルってどこ?」

「確か、35レベだったはず」

「なら後者かな、どこでもいいからギルドで解放クエスト受ける必要がある」

「成る程なぁ」


 やっぱり始めたばかりだし知らない事がいっぱいだ。

 改めて長くやってる雪の知識に驚かされながらも俺はいつの間にか淹れられていたお茶を飲みほし、彼女と一緒に少し時間を潰すことにした。


「なんかゲームないか?」

「いっぱいあるよ、何がいい?」

「なら対戦ゲーで頼む、レトロなやつで」

「大和も物好きだよね、今は殆どVRゲームなのに結構レトロゲーやるし」

「うっせ、いいだろ別に。昔からの趣味なんだよ」

「褒めてるの、私も好きだから」


 そう言ってから部屋にゲームを取りに行く雪。

 今思えばこうやって雪の家にやってくるのは久しぶりだ。レンがいた頃とかよく三人で遊んでたなぁ……いやあれ、三人だっけ?


「どしたの大和?」

「ちょっと引っかかることが」

「なに、課題のミス気付いた?」

「いやさ、子供の頃って俺達三人で遊んでたっけ?」

「えっと……うん、そだねレンと私と大和の三人」

「そう……だよな。でも引っかかるんだよな……なんかあと一人いた気がして」


 記憶の隅に引っかかってる何か、言葉では言い表せないが子供の頃一緒に過ごした誰かがいた気がするのだ。


「……気のせいだと思う、それより何使う?」

「あー魔王で」

「了解、私は狐で」

「お前は変わんないなぁほんと」

「私だし……あ、じゃんけんしないで抜け出せない」


 記憶力のよい彼女が言うならそうなのだろうし、俺は気にしないことにして格ゲーを始めた。とにかく定石であるじゃんけんを挨拶代わりに決めて、全力で雪とゲームをする。手加減なんかしたら彼女に悪いし、雪も雪で隙あらばハメ技を決めようとしてきてるので多分どっちもどっち。


「――むぅ、今日も勝ち越された」

「まぁな、ゲーム教えたの俺だしそう簡単には負けんぞ」

「次は倒す……あ、そろそろ暗くなるから帰った方がいいよ」

「ん……そうするわ」

 

 そこで今日は解散、課題を持って俺は帰路に着く。

 ……久しぶりに遊んだ彼女の家、でもなんでか今日引っかかった事が気になった。

 子供の頃、俺が遊んでいたのは二人だったか? ……いや、二人の筈だ。でもその違和感がどうしても消えなくて、その日は一日中モヤモヤした気持ちで過ごす事になった。

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