閑話その1

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 これは管理者……あるいはEternity Fantasiaを作ったある意味神と呼べる者の一幕だ。


「……あー、しごとつらい」


 機械の灯りのみに照らされた暗い一室。 

 数多くの電子器機が並ぶその部屋で一人の女性の魂が抜けていた。

 白雪のように真っ白な髪……病的なまでに白い肌、紅い瞳をした兎のようなその女性は愛用しているカップ麺片手に作業を続ける。


「お問い合わせやだ……質問おおい」


 そんな事を呟く彼女は何日も徹夜しているのかくまが酷く、おおよそ生きた死体と表現した方がいいかもしれない。


「みんなもがんばってるから頑張らなきゃ……あー、あれワールド通知?」


 数十台あるうちのパソコンの一つに通知が届く、それはEternity FantasiaのメインAIであるケテルが宿っている物であり、この部屋で作業する彼女の相棒と言っていい存在だ。


「ケテルちゃんどしたの? なんかあった?」

「はいマスター、大陸クエストが進行したのでその連絡を」

「Watts?」

「マスターそれは電力の単位です。頭いいんですから馬鹿にならないでください」


 AIの彼女の相棒の言葉に間の抜けた反応を解した後、彼女の思考は凍り付き……数秒後、声にならない悲鳴を上げた。


「五月蠅いですマスター、耳障りですよ」

「いつになくケテルちゃんが辛辣なんだけど!? いや、それより……え? どれ?誰が倒されたの?」

「鵺殿ですね、満足そうに逝きました」

「よりによって鵺君!? ――え、あれ一年は攻略どころか発見すらされないと思ってたんだけど……」


 想定外だよぉ……と、そんな言葉と共に崩れ落ちる彼女。

 だがすぐさま別のパソコンに目を落としその端末でクエストの情報と過去の情報を確認する。


「前の観測じゃ順調に暗躍してたのに、なんで少し目を離したら戦ってるわけ? 確かに鵺君は戦闘狂というか英雄求めて国操る系腹黒妖怪だけどさぁ……あれ、戦ったって事は英雄候補見つけた訳?」


 直近の情報、それも大陸クエストのハイライト。

 そして参加したメンバーを確認するために上にスクロールしていき、貢献度順に名前を見ていった。


「……絶雷で死んだのはどうでもよくて、生き残ったのは……あぁクロ君、あと変態……ナユッチで貢献度一位がセツラ君かぁ、見慣れないけど見慣れた名前……名前? ――なにやってるのさおとうとくん!?」


 見慣れた名前を目にした瞬間に叫び声を上げた。

 一応確認、知り合いの可能性が高いが万が一があるからたまにみる彼の配信を確認して……手が完全に止まる。


「あぁーだからみんな騒いでたんだー。お姉さん知らなかったなぁ……あと誰だよおとうとくんをバグらせたの……元からだったね、うんごめん」

「マスター、そのおとうとくん? とは何者なのですか?」

「わたしのおとうとくんだよ? とってもゲームが上手いの」

「血縁者ですか?」

「おとうとくん」

「……どうしましょうか、マスターがバグりました。えっとこういうときのダアトは……いま忙しさで死んでますね。私には何も出来ません無力です」


 こほんと咳払いをして、追加でパソコンを操作するこの部屋の主。

 彼女はそのままセツラの情報を調べていき、次第に笑みが引き攣っていった。


「これ、想定してたルートがふわるなぁ……あ、この子おとうとくんにぴったりな御霊じゃん、願いは何なんだろうね――あぁ、でも……来てたんだわたしの世界に」


 だけど彼女は何かを想い笑みを深めた。

 彼のステータスを確認し、宿った御霊を眺め大事そうにそれを記録する。


「あはは、わたしやる気出てきちゃった――よーし今日もお仕事頑張るよ」

「――おい大陸クエストが攻略されたんだがどうなってるんだ!?」


 そして突如として部屋にやってくるのは赤毛の女性。

 部屋主は慌てた様子の彼女に至極当然の様に次の言葉を伝えた。


「おとうとくんがやったよ?」

「いつになく頭バグってんなどした氷柱つらら?」

「りんちゃん、いいことあったんだー。ねーねー聞いてくれる?」

「そんなんいいから、緊急会議だ――新大陸の予定調整するぞ」

「えーそこわたし管轄外」

「お前がこの世界の神だろ仕事しろ」

「いいよー、気分いいからね」

「――は? お前本当に氷柱か?」


 普段やりたい仕事しかしないのにと……本気で戦慄するりんちゃんと呼ばれた女性は初めて自分から動く氷柱に恐怖した。


「これから忙しくなるよ? わたしの世界で皆に楽しんで貰うためにも、あの世界を広げよっか――悠久なる世界をね」

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