第25話:月蝕の姫君
「俺ってあと何回攫われるんだろうか?」
口に摘ままれ運ばれる中で、率直な疑問。
俺はこのゲームを始めてナニカに攫われ桜雷にやってきて、そしてナユタに殺され攫われ地下牢へ、そして今度は兎に攫われて何処へ向かうのだろうか?
攫われ慣れ始めた俺は、どうせ何処かに着くまで暇だろうからとステータスを開いた。
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PN:セツラ
LV:35
JOB(職業):侍
HP(体力):114+7
MP(魔力):33
SP(スタミナポイント):69+3
STM (持久力):22
STR(筋力):18
DEX(器用):17
END(耐久力):12
AGI(敏捷):30
INT(魔知):8
TEC(技量):19
VIT(生命力):28
LUC(幸運):28
ステータスポイント:54
スキル:居合い――鞘に刀を収めれば発動可能
パッシブスキル:危機感知
狂鬼の回術
御霊:
種族:おに 武器形態:紋様・刀
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うん、確かに上がってる。
鵺戦でのEXPはちゃんと入手できたのか、俺のレベルは15程上がっていた。でも予想より低いよな、かなりの高難度それも推奨レベルが150のクエストボスならもっと上がってもいいと思ったんだが……。
「セツラ様考え事ですか?」
「あぁ、ちょっと気になる事があって……ってこの声久遠?」
「はい、私です。あ、もうすぐ着くので加速しますね。行きますよハクト」
まさかの俺を攫ったのが久遠だった件。
そういえば彼女は兎の御霊を持ってたよなと思い、その正体に納得した。
草原を抜け、森を抜け――やってきたのは見慣れた洞窟。
そこで下ろされた俺は色々聞きたいことがあったので彼女に質問した。
「えっとなんで俺は攫われたんだ?」
「お話ししたかったので」
「……別の方法あっただろ」
それこそ呼んでくれれば会いに行ったのにと思ったが、あのクエストの後で久遠は城に呼ばれ暫くは会えないと言っていたことを思い出した。
「あれ、会えないんだよな?」
「そうでしたね……だから抜け出してきちゃいました」
「それ、大丈夫なのか?」
状況を考えるに久遠の親だろう城主はいなくなってしまったし、何よりそれの引き継ぎが色々ある筈なのだ。そんな忙しいときに俺を攫っていいものなのだろうか?
「勿論ダメですよ? でも、どうしても話したかったんです」
「……なんか久遠変わったな」
この言葉であっているか分からないが、凄く元気……というかアグレッシブ?
最初は結構お転婆なイメージが合ったが、俺を攫うレベルにまで成長すると思わなかった……。
「正直になろうって思ったんです」
「へぇ、いいじゃん。でもどうやって城抜け出したんだ?」
「ナユタ様がいってました巫女は自分に支援かければ強いって」
完全に悪影響を受けてないか?
それにノリノリで教えてる絵が想像出来てつらい。
えっと、今考えることは……。
「――よし、あとでナユタに説教だな」
「何故ですか!?」
「……いや、ちょっと私情で」
だって正統派だった巫女の久遠に悪い影響与えたし、これから先の久遠が心配だからだ。これで自己バフ駆けまくる巫女姫久遠とかが生まれたらマジで泣く。
「あの座りませんか?」
「いいぞ、あの岩でいいか?」
こくりと頷かれたので、そのまま二人で岩に座りこむ。
……少しの間無言が続き、意を決したのか久遠がゆっくりと口を開いた。
「まず、急に攫って申し訳ありません」
「いや話しあったんだろ? ならいいって」
「やっぱり優しいですね。あのセツラ様約束守ってくれてありがとうございました」
「あぁ、約束通り生きて勝ったぞ」
「はい、貴方は約束を守ってくれました――でも、怖かったです。貴方が傷付く姿が、何より一度死んでしまったと思ったとき、本当に」
そういえばあの場にいたって事は見られてるんだよな。
それは悪いことをした……死なないって約束したのに死んでしまったから。
「ごめん、やっぱ強かったわ鵺」
「いいえ、いいんです。死んで欲しくないというのは私の我が儘ですから……そして改めて感謝を、この月蝕の国を救ってくれてありがとうございます」
「結果的にな。なぁ久遠、この先お前どうなるんだ?」
今気になるのは彼女の事、城主がいなくなり残されたのは彼女だけ。
姫である立場上きっとこの国の主になるんだろうが、そんな窮屈そうなのは彼女に似合いそうにないからだ。
「……予想はしてると思いますが、私がこの国を治めます。凄く不安ですけど」
「そっか。うん、それならいつでも俺を呼べよ。困ったら助けるから」
「――それは心強いですね」
「あぁ、俺は鵺を倒したんだ……まぁ皆のおかげだけどさ」
「それでも凄いです。貴方は約束を守り、国を救ったのですから」
めっちゃ褒めてくれるじゃん。
普通に照れそうになるが、今は真面目な話をしてるのでそれは後だ。
「貴方は、これからどうするのですか?」
「うーん、そうだな。旅をする。この世界を遊び尽くすために色んな大陸を冒険する予定だ。そして、いつか銀嶺を倒す」
このゲーム最大のモチベ。
最高の世界だからこそある最大の目標、この世界を巡るのは勿論として、あのキツネだけは絶対に倒したいんだ。
それこそ今回みたいに仲間と共に。
「やっぱり挑むのですね、あのモノに」
「そりゃあな、俺のモチベだし……次会って負けても、その次負けても――何があっても倒したい」
「……大きな夢ですね」
「あぁ、すっげぇ遠いと思う――だけどやりたい」
「ふふ、なら応援させていただきます」
「そりゃあ心強い」
それからまた少し無言が続いた。
何を話せばいいか分からなかったが、少ししてまた久遠が口を開く。
「ねぇ、セツラ様。私、我が儘を言ってもいいでしょうか?」
「我が儘? ……うーん、俺に出来る範囲なら?」
「なら、またこの国に来てくれませんか? いつでもいいですから、遊びに来て欲しいのです」
「そんな事なら構わないぞ友達だしな」
久遠はもう友達だ。
NPCだとかは関係ない、この世界に生きる一つの命として俺は彼女と対等に接したい。
「友達……ですか」
「あれ、違ったか?」
「いいえ――友達、そうですか。えぇ私達は友達です」
噛みしめるように少し涙ぐんだ声で彼女は言った。
そして立ち上がったと思ったら、少し前に出て一度笑ってこう続ける。
「なら友達に対してもう一つ我が儘を言ってもいいですか?」
「いいぞ、ばっちこい久遠」
「なら目を瞑って下さい」
「ん? ……そんなんでいいのか?」
「はい――どうか数秒だけ目を」
理由は分からないが言われた通り目を瞑り、俺は数秒待つことにした。
……そしてちょっとした後に頬に何かが触れて、
「――目を開けていいですよ」
「あの久遠さん?」
「はいなんでしょうか?」
「えっといま」
「ではセツラ様、私は帰りますね。またこの国に来て下さいね――お休みなさい」
少し顔の赤い彼女が足早に去って行く。
どうしようか顔が熱い、それどころか動悸も激しい。
『主様も隅に置けんな』
「……他言無用で頼む」
『そうかそうか、今度甘味でもよろしく頼むぞ、あるじさま』
「……了解、一番いいのでいいか」
【第二章、桜雷事変――月蝕の姫君 完】
[あとがき]
というわけで第二章終わりです。
まじでここまで読んでくださった皆様ありがとうございます! そして報告が遅れたのですがこの章を連載中にSF週間ランキング1位を取れました。読んでくれた皆様には感謝です。
次回からは閑話を挟んで短めの三章に入り、主人公が初のイベントに挑戦する話になります。毎日更新は出来るだけ続けるのでどうか暫く付き合ってくれると嬉しいです。最後に、ここまで読んでくださった皆様、よければフォローや☆レビューなどをよろしくお願いします!
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