第24話:曇天好して鵺は昇らん
俺の一刀で空が晴れる。
曇天は切り裂かれ、陽の光が差し込んできた。
Ⅳゲージ目は完全に削れ、鵺の体がポリゴンと化し完全に消えてゆく――そう、思っていた。最初にあった陰陽師がポリゴンの中から出てきたのだ。
咄嗟なことに刀を構えようとしたが、体が限界。
極限の集中を続けていたせいで圧倒的な疲労が襲ってきた。
「まだ――やるのか?」
精一杯の強がりだ。
これ以上は動けない、ステータスもリセットされたしもう動ける者はほぼいない。
だから、これ以上やられたら負ける――何があるか分からず身構えるが、どうしてか攻撃が来ることはなかった。
「――いいえ、ただ話をしたいだけです」
「話って何だよ……」
「労い……そして感謝です。まずはよくぞ人の身で私を打ち破りました。それに対する報酬を参加者に送りましょう」
【参加者にトラツグミから貢献度に応じたギフトが届きました】
世界に全体にそんなアナウンスが届く、
確認したいが今は無理だろう、まだこいつの話は終わってないだろうから。
「そして、これは貴方への贈り物――どうか受け取ってください」
獣の手に雷が集まる。
それは次第に形を成していき、一本の刀に変わった。
それは稲妻を思わせる鞘に収まった一本の太刀、とてつもない存在感を放っていてそれは俺に手渡される。
「残る全てを注ぎ込んだ刀です、きっとセツラの力になるでしょう」
穏やかな顔だ。
とてもさっきまで敵対していたとは思えないそんな表情で獣は笑った。
【鵺により
「では、これで最後です……異界からの旅人達よ、よくぞ我を打ち破った! これにて千年続いた鵺の物語は終わりを迎える――さぁ、これが序章だ。災禍は目覚める天津の夜へと備えるがよい!」
この平原中に聞こえる大声、そんな言葉を残した鵺の姿は次第に消えていく。
そんな獣は最後に俺へと笑い何かを贈ってきた。
【鵺によりメッセージが届きました】
「では、さらばです英雄……貴方が夜を明かすことを祈っております」
消えていく、今回のボスである鵺が空へ昇る。
それを見送った俺の力は抜けてその場に倒れ込んだ。
【夜が明け鵺は昇らん――月蝕事変、雷禍を宿す怪異獣が攻略されました】
【進行度に伴い、大陸クエスト災禍の妖魔達が解放され、七柱の化生達が目を覚ましました――天津の夜が近付きます、さぁ皆様――百鬼夜行に備えましょう】
世界の声が響いていく、俺達旅人に向けてワールドアナウンスが届く。
それを聞ききった俺は、達成感となんとも言えない疲労感に襲われて――気付けば地面に横になっていた。
「ッ――しゃぁぁぁぁ! 攻略したぞー!」
そして咆哮。
クリアしたのを確信し心の底から叫び声を上げて、俺はその場で拳を握った。
「セツラ様!」
「……私も乗る」
「ちょ、乗るな久遠……ってナユタまで!?」
達成感に満たされて空を見上げれば急に二人の女子に押しつぶされた。
ダメージはなかったものの、体力が1しかないのでまじで危ない――というか気付けば今回残ったメンバーが俺の元に集まっている。
「同志よ、私も乗った方がいいだろうか?」
「止めろぉ? 多分これ以上は重量が……」
「私は重くない……」
「……私もです」
「いや冷静に二人は重いって」
流石にね女子二人に乗られたら重いと思うのです。
デリカシーとか知らない、だって疲れてるのに乗られたから。
[それは禁句]
[言っちゃいけない事言ったね?]
[締まらねぇなぁ]
というか今やっとコメントを見たが、加速度がエグい。
いつもは簡単に拾えるのに全然目が追いつかない。まぁ、それほどの事をやったんだろうけどさ……。
「お疲れだセツラ、よく倒したな」
「クロか? ……アンタもサポートありがとな」
こいつがいなければ何度死んでいたか分からない。
それどころか辿り着けたかさえも……だから感謝しても仕切れないが、形代の効果をもうちょっと詳しく教えて欲しかったなぁって。
雷を受けた瞬間、俺は完全に死亡した。
だがその直後、復活しますかのウィンドウが出てきてなんとか復帰できたのだ。
あれ死を無効化するんじゃなくてまじで死を肩代わりにさせるっていうアイテムなんだろう。だから一回俺は死んだし、めっちゃ焦った。
「とにかくクリアだ――みんなお疲れ様だ!」
[GG!]
[まじでいいもんみれたぞ!]
[人間って凄いんだなって思った(小並感)]
そこで配信は終了、残された俺達は各々解散すると思ったんだがどういうわけかゲーム内で打ち上げが開かれることになった。
「トラツグミ討伐を祝して、乾杯!」
「「乾杯!」」
集まったのは月蝕の国の豪華な料亭。
そこで今回参加してくれたメンバー達と一緒に俺達は飲み食いしてた。
死んでしまった者達にはゆりかごの機能でラスロの限定配信を見ることで参加して貰う事にして、お疲れ様会に出て貰った。
「クロも飲め! 今回の私の奢りだぞ!」
今の言葉通り今回費用を出してくれたのはラスロ、普段装備を買わない彼は金が余っており料亭を貸し切ってくれたのだ。
「……俺は酒は好かん」
「誰かこの口下手に酒を注げ! 酔わせようぜ!」
「やめっ――俺に近付くな!」
リアルを追求したこの世界には勿論酒があり、それで酔うことさえ出来るらしい……試しにちょっと飲もうとしたんだが、ゆりかごの年齢制限に止められた。
「く、そこもリアルか……」
「ダメだからねセツラ」
「分かってるよ、それにしてもこの世界で初めて飯食ったがマジで美味いな」
「ゲームの料理はプロ監修だから、この料亭もリアルの参考に作られてる」
「予算ェ……」
まじでどんだけこのゲーム金かかってるんだろうか?
VRゲームの開発費は基本バグってると聞くが、このゲームはそれすら超えてそうだ。普段聞かないような豪華な料理を前に俺達は宴を楽しみ夜まで騒いだ。
そして皆が騒ぎ疲れ解散する頃、外の空気を吸うために俺は外に出たんだが――その瞬間、誰かを乗せた白い兎に攫われた。
[あとがき]
次回、月蝕の姫のエピローグです。
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