第23話:その一太刀は天を裂く


「セツラ様!」


 彼の体が雷に包まれた。

 極大の一撃、それは確実に彼の体を蝕んで、何より彼の生命を――。

 思考が止まる――認めたくない、でも彼の体が見えなくて……何より、いつもなら笑ってるはずの声が聞こえなくて……。


「――いやだ」


 死なないって約束したはずなのに、負けないって言ったのに……そんなの絶対に認めない。


【プレイヤーセツラが死亡しました――残り、14名】

 

 だけど世界の意志が、声が彼の死を告げてきた。

 この声は絶対だ。この世界を作った神の手達による声だから、その結末は覆せない。


「あぁ、いたのですか久遠……貴女が戦いの場に来るなんて、驚きです」

「――どうして、貴方はこの国になんで来たのですか? 貴方がいなければセツラは……」 

「我らがあるじの意志ですね、災禍を齎せと命を奪えと……そして、英雄を見つけろと――今回の方は惜しかった、本当に残念です」

「ふざけないでください、そんな事のために!」

「そんな事? ――まぁ、いいです。貴方を喰らえば私はよりよき英雄に挑めるのですから」


 トラツグミの瞳が私を見据えた。

 だけど、私は怖がらない――だって、彼は立ち向かったのだから、皆と一緒にこの獣に、だから――私だって立ち向かう。

 攻撃できないのは分かってる――でも、それでも私は!


「ではいただきましょうか、私の贄――今まで生きてくれてありがとうございます」

 

 獣がトラツグミが、私に雷を――。


「させるわけ、ねぇだろ!」


 だけど、それは――どこまでも聞きたかった声に阻まれた。


――――――

――――

――


 居合いを叩き込む、相手の横っ面に余裕ぶったその顔に全力の一撃を。

 

「ッ――生きていたのですか!」


 歓喜の声が俺に届く、トラツグミが俺にタゲを向け直しさっき以上の雷を放ってくる。だけど、それは――もう俺には届かない。

 相手の癖は把握した。

 どう狙うかも記憶した、ならあとは危機感知を頼りに避けるだけだ。


「見てろ、久遠――いや違うな、バフ任せれるか? 全力で勝つからさ」

「――ッゥ――はい、任せてください!」


 効果が切れていたバフがかかる。

 再度俺のステータスが上がり、より体が軽くなる。

 上がった能力に合わせるのは苦労するだろう。だけどそんなのは考える必要は無い、だって勝ちたいから。

 全力でやって勝つしかないからだ。 

 

「なぁ、トラツグミ……お前、今楽しいか?」

「楽しい……ですか、そんなの決まってるでしょう?」

「あはは、そうだよな――じゃあさ、最後まで付き合えよ」

「――付き合いましょう。でもそれなら聞かせてください、貴方の名前を――私を討ち滅ぼす英傑の名を」


 トラツグミにそう問われた。

 名乗る必要なんて無い、だけど――こんなにも強かった敵に、名乗らないなんて勿体ないだろう?


「セツラ……旅人のセツラ――お前は?」

「トラツグミ……いやここは昔の名前を名乗りましょうか――我が名は鵺、正体不明とされかつて平安の世を混乱させた妖の一柱。さぁ、英傑よ――私はここだ! 長い生を終わらせ、空を晴らせ!」


 獣が吠える、ひょーひょーという不気味な声だ。鳥のような、不思議な声だった。そして、それが始まりの合図だった。

 始まりは一瞬、敵の突撃から。

 雷を纏った一撃は迅雷の如くであり、危機感知が鳴った瞬間には目の前に。

 でも、それは物理攻撃に近く――受け流すことが出来る。


 JOB侍の特性、それはパリィ時の反撃に補正がかかる事。

 通常の反撃より1.2倍のそれはステータス上昇も相まって1割程の体力を削る。

 だけど反撃の隙は一瞬、すぐには俺に対して蛇が噛みついてきた。


「分かってんだよ!」


 俺の体力は1、そして危機感知の条件は現在体力の8割を削る攻撃に発動する。

 つまりは、俺が体力が1の間は全ての攻撃を危機感知で避けれるのだ。

 来るって分かってるのなら攻撃は避けれる――上がりきったステータスなら足りない分も補える!


「ははははは! 凄まじいですねセツラ! しかも、この弓――余程腕のいい相棒がいるのですね!」


 勿論だが、全ての攻撃を回避することなんて無理だ。

 じゃあ、なんで生きているか? そんなのは簡単、俺が避けれない攻撃が全てクロの矢で防がれるから。

 彼のサポートのおかげで、俺の死は遠のき相手を削ることが出来るのだ。


「【天地雷鳴――轟雷禍獣】」


 過去一大きい警告音、刹那に放たれる鵺を象った雷。

 危機感知がそれだけは避けろと告げてくる。

 だけど、俺はそれを避けない――だって、


「来たぞ、同志ィ! ――私に任せろ!」


 こいつが、ラスロが来てくれるからだ。

 視界の端のマップに映った一つの影、この場に来れる者は限られ、しかも来る覚悟がある者はもっと限られる。

 だから賭けた――こいつが来てくれることに。


「決めろ――同志よ! 【スタンハウル!】」


 最高のタイミングで決められるのは、強制スタン攻撃。

 それに遠くからは弓による矢の雨が飛んできて――どこからか更にバフがかかった。


「使うぞ、禍津!」

『待ちくたびれたぞ、主様! さぁ、呼ぶのだ妾の太刀を願いの一刀を!』

「『宿業解放――八十やその太刀』」


 紋が消え、手の中に太刀が現れる。

 それは漆黒よりも黒くこの世の物とは思えない業を宿す一刀、だが俺が願って生みだした願いの技。


「この一撃を手向けとして受け取れ――終わりだ鵺!」

 

 太刀を振れば溢れるのは黒い斬撃。

 それはあまりにも巨大で鵺ごと空を――曇天を斬り裂いた。

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