第22話:決戦・雷鳴禍鳥トラツグミ


 絶対の死を覚悟した。

 避けれても、きっと後隙を狩られる……何よりあの獣が狩ると決めたのなら俺を見逃すはずが。

 いやそもそも避けられるか? いや、そんな事考えるより動かなきゃやば――。


「――ここが最前線か、追いついたぞ同志よ!」


 だけどその死は、横からきた何かによって覆された。 


「よい電流だ――しかし、私はそれでは倒れぬぞ獣!」

 

 現れたのは雷槍を受け止める変態。 

 最初出会った時のような屈託のない笑顔でそれを受け止めて、そのままトラツグミへと投げ飛ばした。

 

「同志よ、独り占めはよくないぞ?」

「……礼とか言おうと思ったけど、なんかいいわ」


 浮かんできた言葉はすぐに消え、あった感謝は何処かへ旅した。

 これでまともな台詞を吐いてくれれば良かったんだけど、なんかいつも締まらないなぁ。


[サムズアップしてんじゃねぇよ]

[目に毒]

[ラスロさん初見ですけど、なんかやべぇやつですね!]


 でも、助かったのは事実なのだ。

 絶対の死は覆され、勝ち筋が少し広がった。

 ならば……このチャンスを逃さない手は無いだろう。


「おいラスロ、あんたついてこれるか?」

「……誰にものを言っている? 私はこれドMでもタンクだぞ? 同志に届く攻撃は全て防いで見せよう」

「その言葉信じるぞ? ――バフも最大になったし、あの獣まずは落とす」

「手はあるのか?」

「そんなのあんたに任せるぞ、確かノックバック技あるだろ? それで妖怪飛ばしてくれ」

「……同志よ、貴様はやっぱり色んな意味で同志だな」


 ……ちょっと何言ってるか分からないなぁ。

 とりあえずやること決めた俺等らは、そのまま一緒に走り出した。

 トラツグミにより降り注ぐ雷鳴、それは俺等を敵としてみているのか確実に潰すように放たれる――が。


「甘露甘露! ――やはりレイド戦は違うなぁ!」


 その雷は何のスキルか、全部がラスロに向かい俺へと届くことがなかった。

 駆けて進み、敵を倒す。ラスロに全てを任せるわけにもいかないし、何よりラスロに向かう敵を処理する必要が本当だったらあるが……それも作戦のうちだ。


「行くぞ同志、【バッファローバッシュ】」


 作戦会議の時に聞いたが、それはノックバック判定のある突進技。

 闘牛の名を冠したそれは、敵を吹き飛ばし空へと放った。


「ナイス、ラスロ!」

「行ってこい同志よ! 他の雑魚は私に任せろ!」

 

 そのまま俺は、飛ばされた妖怪を足場にして駆け上がった。

 数秒の差で飛ばされたのを利用して、なんとかトラツグミへの道を作る。だけどそれでは足りない、これじゃあ敵が落下して足場がなくなる。


(――ふっやはりやったか、ならサポートは任せろ)


 念話が飛び、それだけ伝えられた頃に矢が放たれ。

 その矢は俺が足場にする予定だった敵に当たり、そのまま敵の落下を遅くした。


(ディレイ技だ――これで時間は稼げるだろう?)


「最高ナイスだクロ!」


 思わず褒めた。

 めっちゃ優秀なサポートをしてくれる今回の仲間に感極まったからだ。だけど、次の瞬間……。

 

(ッ――ふぐっ⁉)


「クロォ!?」


 なんか念話で悲鳴が聞こえたというか、凄い情けない声が俺に届いた。


(いや――大丈夫だ、ただちょっと推しの過剰摂取しただけで)

 

 よく分からない言い訳をしながら気にするなと伝えてくるクロ。

 気にしない方がいいならそうするが、普通に心配なんだよな……でも表示見る限り一ダメージも受けてないから不思議だ。

 とにかく足場を無駄にする訳にもいかないので、作られたものを使い俺はトラツグミへと居合いを溜めながら接近した。


「全ステ15倍の居合い――いくらお前でも効くよな!」


 ギリギリだったが顔面付近までやってきた俺は、その横っ面に全力の居合いを叩き込む。計算式で言えば、俺の刀の攻撃力+STR+居合いの4倍補正+久遠4倍とナユタ5倍そして自己バフ6倍の合計15倍――八十の太刀を除く俺が出せる最強の一撃が、相手へと。


[Ⅰゲージ持ってった!?]

[なんだこの化物火力!?]

[特殊バフと確かNPCの巫女バフ? それと自前のか?]

[今更だが。全ステ15倍ってよく合わせられるな……]


 敵が地面にへと堕とされる。

 居合いによる全力攻撃、補正が乗りまくったこれは相手のゲージを一本削った。

 そして当たったのは顔面、確実にクリティカルは入っただろうから更に1.5倍の火力になったと考えていい。


[別ゲーレベルの減りかたしてて草]

[異次元火力]

[もうこいつが最大火力だよ!]


「やはり、貴方が一番の脅威――私の見立ては間違っていなかった!」


 地に落ちたトラツグミが笑う。

 とても楽しそうにましらの顔を歪ませて、四つの瞳で俺を見据える。

 空気がピリピリするのを感じる――獣は俺を敵と認めた。ステータスを見れば、猿の顔マークが俺に憑いている。

 トラツグミが鳴き声を上げる。

 ヒョーヒョー……というとても不気味な声だ。


「さぁ、旅人――いやワタシを倒す英傑達よ! その刀をワタシの体に突き立てろ、我が雷禍をうち滅ばせ!」


 口上と共に雷が鳴り響く。

 轟き光り、戦場には雨が降り始めた。


「言われなくてもな、絶対生きて帰るって決めたんだよ!」

「それは、楽しみですね――侍!」


 対峙して刀を構えて俺は笑った。

 まだ他のプレイヤーはMOB達と戦っている。

 俺をサポートできるのはワープできるナユタそれとクロのみ。さぁ、ここからが正念場だ――約束のため、死ねないゲームを始めよう!


――――――

――――

――


 セツラ様が戦っていた。刀一本でトラツグミ……古の文献に鵺という名で書かれていた伝説の獣――この国に存在する厄災を冠する一柱である、かの獣と。

 支援術をかけ続け、私はポーションを配る。

 戦場がこんな場所なんて知らなかった。

 息が詰まる――どうしようもなく苦しくて、目の前で人が消えていったときなんてとても怖かった。

 でも、それだけではダメなのだ。

 あの人が、セツラ様が戦っているから。


「ありがとうな、姫さん」

「はい、どういたしまして――あのどうして旅人様達はこんな場所で笑えるのですか?」


 戦闘の中なのにどうしてか聞いてしまった。

 今回集まった旅人様達は、本来何ら何の関係もない者達で……集まる訳がない人達だったから。そんな彼らが蘇れるとは言え、こんな死地に来る理由が分からなかったから。


「そうだな、皆違うと思うが。俺はあのアホ……あ、セツラのためだな」

「セツラ様の?」

「いつも俺を笑わせてくれる礼と一緒に戦いたかったからだ。あの馬鹿ってさ、すっごく楽しそうに遊ぶんだよ。それこそどんな世界でもな。そんなあいつに元気を貰ったから俺も助けるために手を貸すんだぜ? あ、これ内緒な? 調子乗るから」

「……凄いのですね、セツラ様は」

「しかもあのクロ……怪鳥だって慕ってるんだぜ? 理由は知らんけど」

「本当に、凄いのですね」


 この人も同じかもしれない。

 彼に救われ彼の為に戦っている……別の理由でもココに集まって、あの獣を倒そうとしてくれる。あぁ、それなら私も応えない訳にはいかない。


「ハクト、力を借ります! 戦場にいる全員に支援するために乗せてください!」


 この世界の住民で御霊を宿せる者は稀とされる。

 今までは何故私に? と思っていた私の御霊……きっと彼女なら助けてくれる。

 現れるのは巨大な白兎、私を背に乗せた大切な家族は戦場を駆け始めた。


「支援撒くの?」

「あ、ナユタ様。はい、セツラ様の為に」

「そう、なら私も手伝うね。巫女だから」

「助かります!」

「それにしてもいい顔だね、初めて見た時とは大違い」


 ……そんな顔をしているのだろうか?

 自分では気付かないけど、彼女が言うなら信じていいかもしれない。


「……そうだナユタ様、私あの時の事まだ怒ってますからね」

「……あ、あれは作戦、警戒されてるセツラは連れてけなかった」

「それでも許してませんから」

 

 目の前でセツラ様が死んだときとか、凄く怖かった。

 もう二度とあんな思いはしたくないし、絶対にその先なんてみたくない。


「範囲支援って出来る?」

「はい、出来ます!」

「なら5秒後全体にお願い、私は奇襲仕掛けてくるから」

「はい――はい?」

「【壊毒付与】【状態蓄積時火力強化】【蠱毒の咒】大判振る舞いこれも追加【禍津神の呪言】」


 あの、ナユタ様って私と同じで巫女ですよね?

 聞いた御業が全て危険な物なのですが……。


「じゃ行ってくる」

「あ、待ってください!」


 言われたとおりに支援術を使った私は、ナユタ様が向かっただろう場所へとハクトに乗って向かう。そしてそこで広がっていた光景は……。

 あまりにも異次元の戦いだった。


「ナユタ、ナイス支援!」

「壊毒に加えて3秒ごとと5秒ごとにデバフ入るようにした――次は暗闇を付与する予定」

「お前、本当に巫女じゃないだろ……」

「ちゃんと巫女、それは譲れない」


 トラツグミの前脚を避けながらも軽口を叩き、攻撃をし続けるセツラ様。

 そして、それを支援するかのように呪いや毒を相手に与えるナユタ様……そんな二人の連携には付け入れぬ隙を感じられる。

 

「Ⅲゲージ目残り二割!」

「デバフ更新は無理……ちょっと離れるね」


 凄い、本当に凄い。

 あの獣に一切怯まず怖がらず挑み続ける二人が凄い。

 そして少し離れた所から見てるから気づけるが、クロという弓兵の方の支援も凄い。二人に届く攻撃を矢で防いで、少しでも攻撃の隙を作ってる。


「これが、旅人――異界からの探求者達……」


 同時にちょっと悲しかった。

 どこまでもセツラ様と私は違うって事に気づいて……。


「Ⅳゲージ入るぞ! ――ッナユタ? 何喰らった!」


 一瞬だけ視線を外した時だった。

 何かが起こりナユタ様が消えた。生きてはいるだろう、だけどその場から消えたのだ。


「巫女はこれで動けないでしょう、次は貴方です――我が好敵手よ」


 獣が雷を纏っていた。

 黄色かった毛並みを銀色に変え、周囲の雷を操っている。

 形を変え、武器を作り化物を生みだし、四方八方からセツラ様を襲う。

 最初は対処してたもの、彼が体勢を崩したとき猿の顔が口を開き、その瞬間――彼の元に極大の雷が放たれた。


[あとがき]

 18時頃にもう一話出します。

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