第21話:禍津纏いし鬼となりて
クエスト開始まで、あと十分。
俺達今回のクエストメンバーは月蝕の国にある釜狸の野原へと集まっていた。
……緊張感が漂うこの場で今は誰も言葉を発しない、先頭にはラスロと数名のタンク、そして中衛には俺やナユタなどのアタッカーが集まっており、支援職や魔法使い系の後衛職は後ろにいる。
「あと五分、セツラ演説よろしく」
「え、なんで俺が?」
「今回の発端だからだな。クエスト主らしく景気づけに一発頼むぞ同志よ!」
……俺、この場で一番レベル低いのにいいのか?
とも思ったが、誰も今の言葉にツッコまないので多分やれって事なのだろう。
「しゃーない覚悟決めるか」
今回のクエストにいる参加メンバーからは、配信を付けることを許可して貰った。普段の俺なら緊張して何も言えないかもしれないが、配信で誰かに見られて言うというなら別だ。誰かを楽しませるというのならなんでも俺は出来るぞ。
だから俺は気合いを入れるために、何よりこの一瞬を記録するためにも配信をつけて皆の前に出た。
「……今回集まってくれたお前等、まじでありがとな。ここに集まった以上、色んな目的を持ってると思う。強敵と戦いたいとか、初めての大陸クエストを攻略したいだとかさ……なんなら報酬狙いってのでもいい――だけど一つ約束してくれ、このクエスト全力で楽しむと、この最高のゲームの強敵を皆で死なずに倒そうぜ!」
久遠との約束は誰に言う必要も無い。
だからこれは俺の願いだ。この場に集まってくれた皆には全力で戦って欲しい、死なないで生きて今回の強敵に皆で勝ちたいから。
「そしてこの配信の視聴者諸君、今回お前等に伝説を見せてやる――一分一秒刮目して見よ! 俺等五十人の勇士を目に焼き付けろ!」
演説を終えると、その瞬間空が曇り始めた。
そして出てくるのは見たことない黒いウィンドウ、それにはこんな一文が……。
【雷の夜がやってきます――夜を明かし、空を晴らすために命を賭して雷鳴鳥を狩りましょう!】
今の時間は十三時、これから何時間戦い続けるか分からないがきっとかなりの激戦となるだろう。この世界初めての大陸クエスト、それが生易しいわけがない。
「作戦はねぇ、全力で行くぞお前等――旅人の矜持を、ゲーマーの意地を見せてやれ!」
視線の先に獣が見える。
そしてそれだけではなかった。
ありとあらゆる獣の姿をした怪異達があの獣の下に集まっていたのだ。
【雷鳴禍鳥トラツグミが夜を連れてきました。さぁ、旅人の皆様どうかご武運を!】
先陣を切るのは勿論タンク、壁となった彼等は一目散に駆けはじめ迫る妖怪の群れと対峙した。
[このレイドって雑魚もいるのか!?]
[セツラ視点じゃ敵のレベル分からねぇ!]
[この大軍+レベル200のボス!?]
[最高に狂ってて熱いな]
見えるコメント、盛り上がる配信。
この状況に燃えない者はこの場にはいない、さぁ全力で全開で全身全霊命を賭けて――何より約束を果たすため、配信者セツラ出陣だ!
「いくぞ禍津、久遠!」
『応とも、妾等の力を世界に示すぞ主様!』
「支援は任せてください!」
レベルが不足してる以上、どんな攻撃を受けても即死の可能性がある。だから俺は変わらないならという思いで禍津を装備し、そしてそのままタンク達の元に迫った。
まだ上がりきってないステータスのままで俺は一匹の妖怪の首に向けてクリティカルを叩き込む。勿論それで倒せるわけがない、だからそのまま連撃を叩きこみ、十秒足らずで一匹の敵を撃破する。
[動きキモすぎ]
[人間じゃねぇ]
[……レベル差あるはず……だよね?]
発動し続ける危機感知、敵に囲まれている以上全方向からそれは来るが、一瞬だけの差でどのタイミングで攻撃が来るかを全部予想し避けていく。
斬って避けてを繰り返し、前に前にと進んでいく。
「負けてられるか!」
「ニュービーに遅れとんなよ!」
「……あのサポートが間に合わないんですが」
「敵を倒そうとしたら既に死んでる件」
後ろで何か聞こえるが、前に進み続けるせいで次第に聞こえなくなってくる。
この間にどんどん体力が減っていくが、あまりの敵の多さに回復が追いつくという珍現象が発生した。
そしてこれが一番意味分からないのが……。
「さっきからなんだこの矢、俺が取りこぼした奴全部倒してる」
一人で攻める以上、出来る事には限界がある。
それなのに今俺が動けてるのは後方から来る矢が全部俺のサポートをしてくれるからだ。今だと火力が足りない、最終的にはなんとかなるが現時点での3倍のステ上昇だと割とギリギリ、だけどその矢が丁度今のステータスで倒せる体力に調整してくれるのだ。
「意味分かんねぇ、しかもこれ全部同じ奴だろやってんの?」
一瞬だけ確認したが、放たれる矢の種類は全て同じ。
最初は何人かがサポートしてくれてるのかと思っていたが、この矢は全て同じ人が放った物なのだ。
(セツラ、お前はトラツグミへと向かうつもりだな?)
(……ダメだったか?)
唐突に来るクロからのテレパシー。
考えることが増えるが誰かのサポートのおかげで今俺の周りに敵がいないので対応出来る。
(いや、その手伝いをしようと思っててな。倒したいのだろう?)
(まじかサンキュー! というか、さっきからの矢ってあんたか)
(そうだ。俺の役目はデバフとサポート、お前が進むならその道を切り開こう)
(――ッ助かる!)
そこでテレパシーは終了。
次の瞬間後ろからの風切り音が聞こえたと思ったら目の前の敵がポリゴンと化していた。しかも、俺が倒せそうな奴だけが残され進むのに最適な道が作られる。
[何が起こってるか分からねぇ]
[えっと? 誰かの矢がセツラ用の道を作ってる?]
[こんな芸当出来るのはかいちょーぐらいだろ……]
[というかあの人外サポートに対応出来るこいつはなんなんだ?]
なんだこの初めての感覚?
やりやすいというか、いつも以上に体が動く。
自分が想像してやりたいことを後押ししてくれるようなサポートに答えるためか、もっといい動きが出来るのだ。
いつもなら限界以上に避ける必要があるからその思考が持って行かれていたが、今は避けるのが最小限でいい。
「セツラ、前に出過ぎ……私の分も残して」
「いや、なんか凄い進みやすくて……」
「そうだ、怪鳥と面識あるの? めっちゃあの人張り切ってる……それに過去一生き生きしてるし」
「……心当たりはないぞ? でもあの人本当に凄いな、俺のやりたいこと分かってんじゃねぇのか?」
「なんか妬ける……から私もバフかけるね【神霊降ろし・
どういう感情かは分からないけど、バフを貰ったおかでげ体感だが今の強化幅が八倍ぐらいになった。十分と言えるか分からないが、これでかなりの火力アップに繋がっただろう。
「私は後衛にバフかけてくる……気を付けてねセツラ」
「了解だナユタ、ありがとな!」
それだけ伝えて後ろに苦無を投げて帰っていく幼馴染み。
自分の仕事をこなしながらも敵を倒す彼女の姿に尊敬を抱きながらも俺もちゃんと役割をこなすために一匹でも多く敵を倒して前に進む。
[だからどういう関係?]
[孤高のナユタがなんでそんな気を許してんだ?]
[純粋に羨ましい]
「ただの腐れ縁だって」
[絶許]
[死刑]
[モンスターで雑魚死しろ]
「辛辣ゥ!」
レイドに集中しながらもコメントを少し見えたコメントに返信すれば辛辣な答えが返ってきた。さっきまで応援してくれるコメントが多かったのに、なんだこの手の平の返しようは……。
「これは少々侮っていましたかね、ワタシもそろそろ動きましょうか……」
そらに浮かぶ獣の影が動き始めた。
手を振り上げた瞬間に空に雷鳴が轟き初めてこの戦場に雷が落ちる。
爆音で反応する危機感知、雷による一撃だどの範囲に来るか分からないが避けなければ不味い――。
「落ちろ――絶雷」
ほんの一瞬だけだけ光る世界、危機感知と直感に任せてその場から離れた時――戦場に雷が降り注いだ。
「これで約半数、やはり人間は脆いですね」
閃光と轟音にやられ、一瞬何を言っているか理解出来なかった。
だけど続いてくる通知に全てを理解した。
【――以下二十五名が死亡しました】
獣が言った通り、クエストメンバーの半数が死んだのだ。
この一瞬で一撃で、たった一撃で命を落とした。
すぐに残ったメンバーを確認する――残っているのは半数の二十六名、そこにはちゃんとナユタ、ランスロット、クロ……そして久遠の名前が残っていた。
安堵するが、それ以外の被害がやばい。残ってる二十六名のうち、十名ほどがすでに瀕死なのだ。
だけど止まってられない、前に進んであの獣を――トラツグミを倒さなければ夜は明けないから。
回避、直進……そして数十体の敵を倒したときSPが足りなくなり始めた時の事。
「見えましたよ……侍。貴方がこの戦場の要ですか」
野原中に声が響く。
それは俺に向けられたものであり、次の瞬間には空に雷の槍が幾つも作られていた。危機感知が鳴り響く、だけどこの本数を避けきる事は不可能。
それに雷の攻撃なんてパリィできる気が……。
「あとは巫女と弓兵そして騎士を潰せば、ワタシの勝利ですね」
その声と共に俺に向かって――雷槍が、降り注いだ。
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