第20話:泥船


 一緒に逃げませんか? 

 そんな事を聞かれて最初は混乱した。ここまで人が集まって倒すって事になってるのに今更逃げるという選択はないからだ。


「……どうしてだ?」

「私、呪われてるときにあの獣の記憶を見たんです。あの獣を討伐しようとした人達の末路をその死に様を――私はどうしても貴方に死んで欲しくない」

「いやでも、俺は死んでも帰って――」

「旅人だからですよね――でも、それでも私は貴方が死ぬのを見たくないんですよ」


 ……真剣な声。

 一日はログインできなくなるとは言え、死んでも帰ってこれる俺に対しては有り得ない言葉。でも、それは本心から言っていることが分かった。


「私は貴方が傷付くのが見たくない、貴方が死ぬがの嫌なんです。強い旅人様は沢山集まりました……だから逃げてもいいじゃないですか、逃げましょうセツラ様」


 今にも消え入りそうな声でそんな事を頼んでくる久遠。

 どうして彼女がここまで頼んでくるか分からない、だって俺は死にたくないとはいえ死ねるわけで……。


「旅人様達にとって死が軽いことは知っています……だから、苦手でした。でも、セツラ様は違った。私達の世界を心から楽しんで、笑ってくれて――何より生きていたから、私はそんな貴方に死んで欲しくない」


 言葉を続ける彼女は次第に涙ぐんでいた。

 そんな彼女を見て、何か声をかけなければと思ったけど……どうしてか言葉が出ない。これは、簡単に答えられるものではないからだ。


「セツラ様、私は全部が嫌いでした――出会う全てが敵でした。普通が良かったのに姫として扱われ、死ぬのが決まっていて、誰も褒めてくれなくて……だけど、貴方は普通に接してくれた。些細な事だけど褒めてくれた――優しくしてくれたんです」


 そう言い切って限界だったのか息を吸い、彼女は最後にこう言った。


「……だから、お願いします。私と一緒に逃げてください。死なないでください」


 そんな彼女の心からの頼みに対して俺は、


「なぁ、久遠俺は死なないぞ?」


 安心させるために笑顔で答えた。

 彼女の事は分かった。俺を案じてくれて、ただのプレイヤーでありある意味異物の俺をこの世界の住人として扱ってくれた。

 だから俺は、そんな彼女に答えたい。


「約束しただろ、あの獣を倒すって――俺が目指すのは最強の打倒、それ以外の奴に負ける気は無いってさ」

「――なんで、そんな簡単に言えるんですか?」

「そりゃあゲーマーだから? ……負けるのが悔しい、絶対に勝ちたい。何を犠牲にしても何を使ってでも勝利を得たい。そんな馬鹿みたいな思いがあるからだよ」


 戦って負けたら悔しい。

 だからこそ勝ちたいし、強敵だからこそ燃える。

 こんな最高の世界だからこそ、どこまでも生きて旅して遊び尽くしたい。

 

「言ったろ、泥船に乗ったつもりでいろってさ」

「……それ、沈むじゃないですか」

「だって確証がないしな、でもやりたい。やりたいと思うなら泥船だって海を渡れるって俺は信じてる。だってさ、信じなきゃ始まらないだろ?」

「……ほんと貴方は馬鹿ですね、でも分かりました。それなら私も戦います」

 

【月蝕久遠からパーティー申請が届いています。共に雷鳴鳥へと挑みますか? 

                        ・はい  いいえ   】


 そんな選択肢が俺に届く。

 それに対する答えは一つだろう。


「よろしく頼むぞ久遠!」

「はい、絶対に貴方を死なせません」





       【エタファン、大陸クエストについて語るスレ その2】


130:かいちょー

推しが推しが尊い……


131:名無しの旅人

なんか死んでる奴おらん?

 

132:名無しの旅人

どうしたかいちょー?


133:名無しの旅人

……なんかギルドから出たと思ったらどうしたんだ口下手


134:名無しの旅人

あ、ギルドに戻ってきたけどなんか悶えてる


135:名無しの旅人

脱線すんな、初のクエストだし気合い入れろよ


136:名無しの旅人

それにしても凄いよな、今まで大陸クエストなんてなかっただろ?


137:名無しの旅人

隠されてたっぽいしな


138:名無しの旅人

これもあの配信者のおかげか……?


139:名無しの旅人

いやそうだろ、あれが事件起こさなかったら発見されてなかった


140:名無しの旅人

クエスト説明がこれだっけ?

【大陸クエスト――月蝕事変、雷禍を宿す怪異獣】

 月蝕を支配する雷禍獣、真実は暴かれ旅人は挑戦す。

 汝等、雷鳴破りて天を晴らさん


141:名無しの旅人

格好よすぎる


142:名無しの旅人

参加出来た奴まじで羨ましい


143:名無しの旅人

このスレにいる奴で参加してるのって何人いるんだ?


144:名無しの旅人


145:名無しの旅人


146:名無しの旅人

まぁ、結構いるだろうな


147:名無しの旅人

それにしても推定レベル150ってやばいよな


148:名無しの旅人

過去のフェニックスぐらいじゃね?


149:名無しの旅人

まじでそれぐらい、あれレベルのレイドクエストだろうし、まじでヤバいと思う


150:名無しの旅人

フェニックスはなんで勝てたんだっけ?


151:名無しの旅人

ドMとらんしゃまのおかげ、あとは死んでるかいちょー 


152:名無しの旅人

あぁ、その三人か……。


153:名無しの旅人

一般プレイヤー殆どワンパンされてたからなぁあのクエスト

 

154:名無しの旅人

最恐のタンクと最狂のアタッカーでなんとかだったしな、なおかいちょー


155:名無しの旅人

敵の炎を全部弓で撃ち抜いたりしてたよな


156:名無しの旅人

流石プロゲーマー

 

157:名無しの旅人

それはNG、本人は嫌がるぞ


158:名無しの旅人

いや、今死んでるからいいかなって


159:かいちょー

……別にいい


160:名無しの旅人

そういえば、クエスト主はセツラだっけ? どんなビルドしてるんだ?

 

161:名無しの旅人

御霊の性能だけメッセージに送ってくれてたはず


162:名無しの旅人

今張るわ

禍津童子

 種族:おに 

 武器形態:紋様・刀

 装備時攻撃力:0

 装備耐久力:0


 ――代償には対価を、敵には報復を。

 ある願いによって生まれたこれは異常な呪いを孕んでおり、所有者の命を限界まで蝕んでいく。



『保有スキル』

《宿業――修羅》レベルEX


 これを装備時、持続ダメージを受け続ける。

 減った体力によりステータス上昇。

 持続ダメージで体力は一以下にはならないが……魔力が代わりに削られる。

 装備パッシブスキル。


《宿業解放――八十やその太刀》レベルEX

 任意のタイミングで紋様を解放する。

 解放までに減らした体力により、威力上昇。

 一度放つと効果はリセットされる。

 アクティブスキル。

 ……こんなん。


163:名無しの旅人

こわ、なんだこの限界背水


164:名無しの旅人

上昇値気になるな


165:名無しの旅人

それでもデメリットデカすぎないか?


166:名無しの旅人

本人曰く十秒で5ダメージらしい


167:名無しの旅人

あたまわるいな


168:名無しの旅人

これで、不死聖と戦ったんだろ?


169:名無しの旅人

どんな思考回路してるんだ?


170:名無しの旅人

こんど個別スレ立てるか……


171:名無しの旅人

八十の太刀もやばそうだな


172:名無しの旅人

火力次第だけど、前の動画漁ってみたら銀嶺の第Ⅱゲージ4割一撃で削ってたぞ?


173:名無しの旅人

意☆味☆不☆明


174:名無しの旅人

頼りになるけど、死にそうだな


175:かいちょー

大丈夫だ。形代は渡したし、俺がいる

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る