第19話:桜雷ギルドは賑やかで
日が経ちクエスト開始までの残り三時間を切り、作戦会議がてらに交流を兼ねて俺達は今回のクエストメンバーと集まっていた。
……クエスト画面で今回のクエストの参加メンバーのプレイヤーレベルが全部見れるが、下は俺を除けば45で上は150までいる。
明らかに一番低いのが俺であり、かなり緊張するが参加しているメンバーの中で気になる名前があった。
「なぁ、ナユタ……このクロってどんな人なんだ?」
それはレベル150と表示される一人のプレイヤー。
カンスト勢だろうし、多分トッププレイヤーなんだろうなと思って聞いてみた。
「【怪鳥】って呼ばれる変態と同じトッププレイヤー。ジョブはロビンフッド、弓使いで、デバッファーかな……あと口下手で冷たい」
「ロビンフッドってどっかの国の英雄だろ、それジョブなのか?」
「説明難しいんだけどユニークジョブって奴、条件満たせば取れる上位というか特殊ジョブ。かなり強いけどピーキーな性能してる」
「お前はそのユニークジョブを取らないのか?」
「巫女が正義」
やっぱり凄い拘りだなぁ。
何並ならぬ巫女押しにちょっと笑いながらも俺は一応仲間になってくれた変た……ランスロットと話すことにした。
このゲームについて詳しいだろうし、何か聞けると思ったからだ。
「なぁ、ランスロット。パーティー組むし教えて欲しいんだが、どういうステータスしてるんだ? かなり硬かったし結構VIT振ってるんだろ?」
「む、私か? 私のステータスはVIT極振りだな」
「……理由は?」
このゲームはかなりスキルポイントが多く取れるのでステータスが自由に振れる。個人の自由だが、それを全部VITに振るのはまじでどうなんだ? この手のゲームは初めてだから極振りが正解かも分からないが、この人はそれだけじゃない気がするのだ。
「それは勿論よりよい痛みを探求するためだ。それに耐えなければ死ぬだろう? 死んではタンクとしての役目を果たせん」
後半は当たり前のことを言っているのに、どうしてか違和感が凄い。
多分これは前半に欲望関連の事を言われたからだろうけど……これ、同じ事を最後に言われても全く同じ感想を抱いてたかもしれない。
「……そっかぁ、でもそれにしても硬すぎたよな。生命力に振っても耐久力は装備依存だろ?」
こいつとの戦闘中なにかナユタが教えてくれた気がしたが、色々あったせいで忘れてしまっているので聞いておく事にした。
「私のパッシブスキル【
「強くない? パッシブスキルって微妙なのだけじゃないのか?」
俺が持っているパッシブスキルは【危機感知】と【狂鬼の回術】のみ。
どちらの効果も強いとは言えないし、バランス壊さないためにパッシブは基本微妙なものばっかりだと思ってた。
だって、【危機感知】は分かるだけだし、回術に至ってはかなり判定がシビアなジャスト回避などを成功させなきゃいけないから。
隠すことでもないし、その効果を伝えたのだが返ってきた反応は微妙だった。
「……それは弱いな、条件は何なのだ? それだと楽な条件だと思うが……」
「分からないんだよな、銀嶺戦で貰っただけだし」
「同志よ知らないのか? 詳細画面で確認できるぞ?」
「え、まじ?」
ちょっと気になってステータス画面を開き、詳細を見てみれば確かに取得条件という覧があった。
「えっと【危機感知】が、十回パリィor回避を成功させる」
「それは取りやすいスキルだ。ほぼの者が持ってるだろう」
「……問題の【狂鬼の回術】が…………えぇ」
内容を見て絶句する。
最初は見間違いかと思ったし、何よりこれ絶対に取らせる気ないだろうと思える程のスキルだったからだ。
「どうしたのだ? そんなに酷いのか?」
「条件が……同一戦闘で合計二百回ジャスト回避orジャストパリィを決めるだって」
「――それで効果量はどうなのだ?」
「……えっとぉ、全ステ1回復」
「それは、凄まじいな」
いや、本当に……なんだこの死にスキルは、取らせる気ないし何より条件に対して効果量が見合ってない。他になんかなかったのかと言いたくなるようなスキルに対して俺は頭痛を覚えた。
「そうだ。あとあんたの事なんて呼べば良いんだ? ランスロットじゃ長いし」
「同志ならば気軽にラスロでよいぞ!」
「……了解、同志じゃないけどそう呼ばせて貰うな」
誤解解けるといいなぁと思いつつ、俺はギルドに誰かが入ってくるのを確認した。
それは狩人と思わせるような服装の青い髪の男、上に表示される名前はクロ……気になってたプレイヤーだし、ちょっと挨拶しに行こう。
「……なんの用だ?」
「いや挨拶しようと思って、あんたがクロでいいのか?」
「そうだが、お前は?」
「あーえっと俺はセツラ、今回はクエストに参加してくれてありがとな」
今回集まってくれた人がちょっと話してたが、二つ名付きのトッププレイヤーはココの世界に1割もいないようで、その誰もが強い。
そんな人物が参加してくれるなら心強し、安心できるのだ。
「そうか……レベル低いようだが、貢献できるのか?」
「そこはなんとか? ……約束もあるし、出来れば倒したい」
「それが聞ければいい、精々死なないようにしろDPSが下がる」
「心配してくれるのか? 優しいんだなあんた」
ナユタに冷たいと言われてたからちょっと心配だったが、初対面の俺に死なないようにと言ってくれるし、かなり優しい人なのかもしれない。
「そうだな、レベルが低いなら耐久力も無いだろう。これを渡しておく」
そう言って渡されたのは白い髪の人形。
昔の文献で見た陰陽師が使ってた形代に見えるが、これは何なのだろうか?
「【身代わりの形代】だ。一度だけ死を無効化できる」
「え、そんなのくれるのか?」
「下手に死なれたら困るからな」
「まじでありがとな! 俺の御霊の性能じゃめっちゃ死にやすいんだよ!」
「礼はいらん、その分貢献してくれればいい」
「おう、絶対頑張るわ」
絶対に貴重なアイテムだろうし、そんなのを貰った以上頑張らないわけにはいかない……これで少しでも勝率が上がればいいなと思いつつ、俺は改めて感謝を伝え、ちょっと人の多さに息が詰まったので外に出る事にした。
ギルドがいくら広いとは言え、五十人は集まってるしでちょっと疲れる。
それにこの中だと俺が一番レベル低いし、緊張するのもあるからだ。
「ここなら静か……だよな?」
『なんだ主様、一人になって』
「……なんだ禍津か、いやちょっと考えたくてさ」
今回のクエストは大陸クエストと銘打たれている。
明らかにこのゲームメインコンテンツだろうし、失敗したときに何が起こるか分からない。ここ数日、本来だったらエタニティ大陸に帰るだけだったはずの旅。
それがこんな事になるなんて思ってなかった。
鬼ごっこ、逃亡生活、二回目の死亡……それに捕まったり変態に出会ったり……あれ、この数日めっちゃ濃い気がしてきたぞ?
「あの今いいですかセツラ様?」
「あれ、久遠? お前城にいるんじゃ」
「えっと、抜け出してきちゃいました」
えへへと笑いながら、あざとい表情でそういう久遠。
ちょっと可愛いなと思いながらも、俺は彼女になんでここに来たか聞いてみることにした。
「話がしたくて、隣に座ってもいいですか?」
「構わないぞ?」
「では失礼して……」
それから少し無言が続き二分ぐらい経ったところで久遠が口を開いた。
「あの、一緒に逃げませんか?」
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