第18話:大陸クエスト


「……流石に倒したか?」

「多分……大丈夫」

「よかった……で、気になるんだがなんであの金髪と戦う事になったんだ?」


 戦ってたから加勢したが、よく考えれば理由が分からない。

 虚ろな目をした久遠の事も気になるし、ナユタにちゃんと話を聞かないといけない。


「説得しようと天守閣に来たらアレが城主の護衛としていた」

「そうなのか……で、城主は?」


 今回の件の黒幕に近いだろうし、一度話は聞いておきたい。

 多分久遠の父親か母親だろうが……娘を生贄にするなんて馬鹿げてるから。


「戦い始めたら変な陰陽師に連れられてった」

「まじか、それで久遠は?」

「先に通されて、次会ったらあぁなってた。多分デバフか呪いの類い」

「いや、それ先に言えよ」


 デバフならどんな影響があるか分からないし、今みたいに呑気に会話してる暇はない。呪いなら命に関わるかもしれないし、一刻を争う可能性もある。


「変態の方が優先だった。邪魔されたら解呪できないし」

「成る程? ……それならいまなら出来るだろうし、任せられるか?」

「おけ、私なら余裕。でもちょっと時間頂戴」

「了解、任せたぞナユタ」


 とりあえず俺はやることがないので天守閣の入り口を見張ることにした。

 ……これだけの騒ぎを起こしたし、残ってる武士がやってくるだろうからだ。

 壊された天守閣の壁、虚ろな目をしたこの国の姫、それを解呪する巫女……それに加えて体力限界の初期装備民。

 この状況を見られたら誤解されるか、また戦いになるかなので警戒しておくことにこしたことない。


『主様一度妾を外すか?』

「いや、何が起こるか分からないからバフは温存で」

「……おや、倒されたのですか?」


 急に聞こえる胡散臭い声と同時に発動する【危機感知】。

 咄嗟に聞こえた方に刀を振ってしまったが、それは何かに阻まれた。


「――これは、また物騒ですね」

「なんだお前急に現れて」

 

 現れたのは蛇を首に巻いた陰陽師風の衣服の男。

 そいつに向けた俺の刀を阻んでいるのは雷の盾。

 どういう魔法か分からないが、最大バフがかかった俺の攻撃を防ぐのは意味が分からない。あの変態は別として、ひょろいこの男が防げるとは思えない。

 それにこいつ――なんか知らんが嫌な予感しかしないのだ。


[なんだこの変な奴]

[陰陽師のジョブって解禁されてたっけ?]

[そういえばセツラの指名手配のクエストの依頼主ってこいつだったような?]

[なんか凄く胡散臭いな]


 コメントで見えた情報。

 それを頼りにこいつの事を探るが、推定陰陽師って事とこいつが俺を指名手配した奴という事が分かった。


「あの巫女……そして貴方は久遠と共にいた侍ですか」

「そうだが、お前は?」

「私は……そうですね、この月蝕の国に仕える陰陽師と言えばいいでしょうか?」

「へぇ、その陰陽師様が一人でどうしたんだ? ナユタの話だとここの城主と一緒の筈だが?」

「あぁ、アレならもう処理しましたよ? 役目も終わりましたしね」


 まるで気にしていないような素振りでそう言った彼からは何も感じない。普通だったら……いや、この場合の普通というのはおかしいが、何か感情の一つでも見せる筈なのに、淡々とそう言った彼はどう考えても普通じゃない。


「やま――離れてセツラ、そいつNPCじゃない!」


 苦無が飛んできたと思ったら、俺はナユタの元に飛ばされていた。

 何が起こったか分からないが、さっきまで俺がいた場所には雷が落ちており、多分あそこにいたら死んでいた。


「おお、流石この世界に名を馳せる巫女の娘。それに力が見えるのですね」


 何が起こってるか分からないが、ナユタには何かが見えているらしい。

 この場合考えられるのは――NPCのレベルか? でもそれは、パーティーを組まなきゃ見られない筈で……。


「レベル200、見るにレイドボスクラス――貴方この国の妖怪でしょ」

「はい、そうですね――敵意を向けているようですが、貴女一人で戦う気ですか?」

「場合によっては……でも貴方もここじゃ狭いでしょ?」

「関係ありませんよ? ――ワタシの力は雷、この天に近い場所ならいくらでも使えますので……ほら、こんな風に」


 なぞるように手を動かせば、空中に雷の槍が作られる。 

 それは俺達目掛けて飛んで来るも――急に現れた何かに防がれた。

 

「あれほどの痛みを与える者が、何より同志が悪人な筈がない――やはり、何か裏があったようだな!」


 現れたのはドMの変態。

 なんか生きているそいつは俺達に向けられた雷の槍を完全に防ぎ、それどころか見覚えのない剣を構えてそのまま反撃した。


「ゆくぞ我がアロンダイトDXよ、邪悪なる者を切り裂くがいい!」


 接敵してからの一撃、それは陰陽師には悟られぬほどの速度で放たれ、完全に命を絶った。呆気ない……そう思ったが、次の瞬間のこと何処かから声が聞こえてくる。


「仮とはいえワタシの肉体を傷付けますか……いいでしょう。その挑戦、雷禍の獣に対するものと受け取りましょうか」

 

 天守閣の壊れた壁から見える空に何かがいた。

 それは猿の顔をし虎の躯を持つ獣、尾には蛇が宿り四つの瞳が俺達を見据えている。


【大陸クエスト――月蝕事変、雷禍を宿す怪異獣を開始します。             

                      さぁ、雷鳴鳥を狩りましょう】


 そして流れるアナウンス。

 頭の中にそのまま告げられるようなそれは、何を意味しているのだろうか? 

 そしてその通知が来た瞬間に荒れるコメント欄、あの銀嶺戦レベルで加速するそれに目眩すら覚える。


[こっちまでアナウンス来たぞ!]

[大陸クエスト!?]

[なんだそれ初めてなんだが!?]

[参加出来るらしいぞ、通知が飛んできた!]

[定員五十人まで!? 急げ急げ!]

[最初の三人はここの奴らか]


「さぁ、集めなさい仲間を旅人を――ワタシという災禍に牙を突き立てなさい?」


 それだけ言って去って行く獣。

 その姿を見送った俺等にはある通知が届いていた。

 それはクエストの参加通知、定員が一瞬で埋まったのか参加するメンバーの名前がウィンドウに表示された。


「これ、やばくね?」

「私も初めて……」

「私もだな、狐狂いそれに同志よ」


 ……まぁ、大変な事は分かるが一つだけ本当にツッコませて欲しことがある。

 俺はとりあえず息を吐き、横にいる変態に目をやった。


「なんで――生きてるんだお前!」

「私だからな――それにしても最高のダメージだった。これからよろしく頼むぞ!」


 サムズアップしてくる変態。

 そいつに対してまじで恐怖を覚えた俺は、疲れからかその場に倒れこんだ。


[あとがき]

ちゃんちゃんらららちゃーんー……ででどん。 

ド M 聖 騎 士 ラ ン ス ロ ッ ト が 仲 間 に な っ た。

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