第17話:不死聖と呼ばれる男


 天守閣の中を駆け、俺は目の前の金髪に刀を使って斬り掛かる。

 相手は避ける様子がなく、それどころかその身で受けるものの一切効いた様子がない。そしてとてもこの金髪は拳一つで楽しそうに戦っておりずっと笑顔なのだ。

 二分間いくら切っても、貫いても……ずっと。


「……初期装備だからか?」


 今思えば俺が使っている武器は最初に支給された刀一本。

 相手のステータスはまるで分からないが、とりあえず火力が足りないことだけは分かる。今まではなんとかなってたが、トッププレイヤー相手となると役不足かもな。

 だけどおかしい、禍津のおかげで俺のステータスは上がり続けてるはずなのに、足りない事なんて起こるのか?

 

「ナユタ、作戦は?」


 またもう一度攻撃を加え、すぐさまバックステップ。

 瞬間移動して戻ってきたナユタにどうするべきかを聞く事にした。


「ずっと攻撃、あの変態は火力だけは無いから殴り続ければ殺れる……あと火気厳禁だよ」

「……了解?」


 ナユタが誰かを罵倒するなんて珍しい。

 そう思いながらもそれを聞いた俺は、とりあえずゴリ押しする事を選んだ。


[がんがんいこうぜ!]

[……命大事にじゃないんだ]

[とにかく頑張れかもよ?]


 ……戦場を観察、今この場にいるのは俺とナユタ……そして金髪と何故か動かない久遠。彼女の様子は気になるが、今は目の前の敵だろう金髪に集中だ。

 接敵、懐に潜るようにして刀を振りおろす。

 与えられる火力は低いだろうが、ナユタの言った通り押し続ければ勝てるはずだからだ。そんな時だった……目の前の金髪が俺の顔を見て嬉しそうに笑ったのだ。

 

「おお! 見覚えがあると思えば、貴公は同志ではないか!」

「……え、同志? 誰が?」

「ん……貴公意外に誰がいるのだ?」


 ……なんで俺?

 俺はこの金髪と面識はないし、そう言われる理由に心当たりがない。

 でもこいつは本心からそう言ってるのか、めっちゃくちゃ曇りのない目でこっちを見ている。


「お前みたいな変態とセツラを一緒にしないでくれる?」

「……ナユタ? なんか怖いぞ?」

「気にしないで、こいつを倒す理由が増えただけだから。セツラは集中」

「アッハイ」


 どうしよう幼馴染みが怖い……なんか、かつて無いほどに怖い。

 ……とりあえず触らぬ巫女になんとやらというし、今は戦う事に集中しよう。


[……どういう関係?]

[声冷た]

[狐狂いの声初めて聞いたけど、めっちゃいいな]


 ……おい、リスナー?

 そこら辺はちょっと看過できないので後で説教決定だ。

 

「……貴公等の関係は知らぬが、同志を怖がらせるのではないぞ狐狂い」

「そっちこそ、人の幼馴染みを勝手に変態にしないで」


 ナユタの目が鋭くなる。

 それどころか、苦無とは別の武器を取り出して装備した。

 それは忍刀と呼ばれる直刀に分類される武器だ……装飾が一切なく完全の武器としての機能美を持ったそれは美しさすら感じられる。


「【壊毒付与】【状態蓄積時火力強化】【蠱毒の咒】【神霊降ろし・荒魂】」


 で、次に聞こえてきたのはスキル名だろうか?

 見るからに物騒な面々の技名が羅列され、忍刀が薄紫の何かを宿し、ナユタ自身にもバフがかかったみたいに紅いオーラを出してる。


「セツラも来たし、全力で殺る。さっきまでとは違うから覚悟よろしく」

「見たことないぐらいにキレておるな! そんなに同志と呼んだのが嫌だったか」

「……誰だってキレる」

「だがな、私の意志は変わらぬぞ? あの銀嶺に低レベルで一人で挑みあまつさえ逆境を楽しみ続けたあの姿はどう考えても同志と言っていいはずだ!それにだアーカイブを見たが、貴公は幾百もの縛りプレイや耐久ををこなしてきた――つまり仲間だろうよ! なぁ同志!」


 目を見開いて早口で心の底から叫ぶ金髪。

 あ、この人配信見てくれたんだ……まぁ確かにそういう遊び方でも俺は全力でゲームを楽しんでるし、事実その通りだからそれなら同志って言われても不思議じゃない……のか?


[トッププレイヤーに認められるとか凄いじゃん]

[まぁ凄かったしな]

[あれで見るようになったし]

[かいちょー:……そいつただのドMタンクだぞ?]


 配信昨日で表示されるコメントで一瞬見えた何か。

 最後に見えたコメントをしてくれたそのリスナーはかなりの古参で、いつも俺を助けてくれるリスナーの一人。

 いつも助けてくれたし、こんな場面で嘘をつくような人ではない……つまり?


「なぁ、あんた……ドMって本当か?」


 恐る恐る聞いてみた。

 ……だって散々同志扱いをしてきてたし、なんなら戦闘中の心当たりが結構あるからだ。いやでもまさか、トッププレイヤーが変態なんてことなだろ?


「ん? そうだが?」


 何当たり前の事言ってるんだこいつ。

 見たいなそんな表情であっさりと肯定される真実。

 あれか、こいつがドMって事は……俺がドMって思われてるってこと?

 いや、ない……それはない。

 俺は確かに言われたとおり縛りプレイを好んでやるが、あれは自分の限界を試してるだけであって……ドMって訳じゃ。

 

「なぁ、おま――お前等? 俺はドMじゃないよな?」


[いつになく動揺してて草]

[びれぞんかなぁ]

[捉えようによっては……まぁドM?]

[そうじゃね?]


 そんな事実認めたくねぇ……。

 心の底からそう思った俺は、ちょっとこれからの配信生活を考えようと誓った。


「大体予想できるけど、大丈夫……セツラはドMじゃないよ」

「ナユタ――ありがとう、お前だけが味方だよ」

「む、そういえばだがこの状況も配信されてるのか? ……なぁ、リスナー諸君、貴公等もタンクしないか?」


 相手にコメントは見えないので伝えられないが、大体の意見が否定ばっかりだった。可哀想に思えたが、擁護するギリもないんで俺は無言で切りかかる。


「同志よ、貴公は両属性か?」

「もう黙ってくれ、シリアスが死ぬ」

「……そうか、それは残念だ」


 こっちは禍津童子を装備してるからもう体力が一しかないのだ。

 MPも空だし何より残ってたスキルポイントを全部生命力に回して体力増やしたのにこいつが硬いせいであんまり意味が無かった。

 現状の最高火力を出せる状態なのに全くもって効いてないのには文句を言わせて欲しい。体感のステータス上昇が一回につき0,25倍だから、今は全ステ約六倍上がってるはずなのに……。


[そういえばなんでセツラ体力1なの?]

[あ、確かに]

[だね気になってた]


「あ、禍津の効果。バフかかるんだけど体力減るんだよ」

 

 割と余裕無かったから説明できてなかったので、サラッと言えば……悲しいコメントがかなり来た。


[判決――ドM]

[言い逃れできないね]

[これはドM]

[いっつも縛ってるなこいつ]


 自分でも言い逃れできないかもと思ってしまったが、これも格上だろうトッププレイヤーに勝つためなのだ。まぁ、蓋を開ければ相手がタンクらしいから相性死ぬほど悪いけど……。


「やはり同志!」

「……擁護できないかも」


 ナユタにまで見捨てられたらマジでどうすればいいんだ?

 最後の砦が陥落したのを目の当たりにした俺は、心にダメージをくらいながらもタンクであろうこいつを倒す術を探していた。

 とりあえず、今更だがナユタにパーティー申請を送り――了承されたのを確認してからパーティー機能であるテレパシーを使う。


(ナユタ、どうする? 火力足りないぞ?)

(ポーションをあの変態は使わないから、回復の心配は無い――でもジリ貧。それにあいつ耐久力と生命力がリンクするスキル持ってるからめっちゃ硬い)

(なるほど、だからか……なぁナユタ俺にバフかけれるか?)

(かけれるけど、何するの?)

(それと、壁に穴開けてくれ――頼めるか?)

(なる――私の最大火力で壁壊すね、それと身体強化かけとく)


 さっすが幼馴染み、俺のやりたいことすぐ理解してくれるな。

 よし、ならあとはそれをやるだけだ。体力があるときにやっていたら勿体なかったが、もう一なら別だ。死ぬ気は無いが、賭けに出るしか勝ち筋はない。


(壁壊すだけならチャージは三十秒。ついで削るね)

(了解――っし、ここからミスれないぞ!」


 今まで前にいたナユタが下がり、俺だけが前に出る

 一撃でも受けたら即死の現状、攻撃が遅いから避けれるがどんなダメージでも俺は死ぬ。気は抜けないし、賭けに負けたらもう勝ち筋はないだろう。


「貴公一人か? 舐めてるなぁ!」

「まさか、トッププレイヤーを侮るわけないだろ」


 ナユタのバフがかかったのを確認し、俺は一気に駆けだした。

 早くなりすぎて制御がムズいが、なんとかするしかないのだ……この動き、人によっては捨て身の特攻に見えるだろうな。


「はやいな、まるで攻撃が当たらん!」

「避けゲーは得意だからな」


 避けて斬る。 

 単純な動作だが、今の速度が上がった俺は相手が一回攻撃するまで六回は斬れる。DPSも単純に上がるし、相手の体力を見る限り削りもよくなってる。

 これを繰り返す事八回、相手は完全に攻撃が当たらないことを悟ったのか拳を収めた。なんだ? 諦めたのか? ……そう思ったのも束の間のこと。


「【スタンハウル!】」


 大きな叫び声。

 その瞬間、俺の体が一瞬だけ硬直する。

 ――ッ強制スタンか!? 完全に予想だにしなかった敵の手札に思考が一瞬だけ止まる。


「削れてるというならこれで終わりだ」

「――させない、【守護霊の加護】」


 拳が振るわれ、死を覚悟した瞬間。

 なにかが俺にヘと宿りそれが消える感覚を覚えた。

 多分だが、名前を聞くに身代わりスキルだろう――幼馴染みに助けられ体勢を立て直せばすぐにテレパシーが飛んでくる。 


(チャージ完了、避けてセツラ)

「了解――!」

「【五行天砲!】」


 避けた直後、放たれるのは五色の砲撃。

 完全にビームなそれは目の前の金髪に直撃し、彼を貫くようにして後ろの壁を破壊した。


[やったか!?]

[巫女の最強技じゃん!]

[いくらあの変態でも――!]


 舞い散る砂埃、その中から微かに見える変態の姿。

 

「ッ最高だ――だが私は倒れるぬぞ!」

「知ってるよ、そんな事!」

「――なに?」


 完全に穴の空いた天守閣で、踏みとどまる金髪に対して俺は全力で突撃し――溜めていた居合いを解き放った。


「まさか貴公の狙いは!」

「落下ダメージだ! 固定のそれなら、いくらお前でも倒れるだろ!」


 Eternity Fantasiaの落下ダメージは高さによって決まる固定である。

 弾くように居合いを使い、俺は相手を落下させる――どんなステータスを持っていようと、この世界の法則には抗えないよなぁ!


「落ちろ!」

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