第16話:牢獄脱出RTA、天守閣を目指して


「まず最初にマップが何も分からないので上を目指します」


 めっちゃテンション上げて牢屋出てきたものの、思えば俺は今いる場所のマップを何も知らない。でも天守閣って上にあるし、上を目指せば多分辿り着くだろう。


[ガバどころじゃなくて草]

[――馬鹿だ馬鹿がいる]

[あぁ、城を馬鹿が駆け抜ける]

[馬鹿は高いところが何とやら]


「目指すのは天守閣だしセーフ」


 視界の端に見えるコメントにツッコミを入れながら、上を目指して走って行けば続々と武士が集まってくる。どうやらもう俺が牢を抜けたのはバレたみたいだ。


「数が多い場合は間をすり抜けるのが最適解なんだよな……知らんけど」

 

[コメントみながら手際よく逃げててやばい]

[なにもかもがばで草しか生えん]

[知らないのかい]


 いやだってさ、俺脱獄とかしたことねぇしやり方なんて知らねぇよ、チャートなんかねぇよ。俺に出来ることは上を目指すだけだし、邪魔する奴がいたら全員峰打ちするだけである。


「流石に達人みたいに首トンは出来ないので腹を峰で殴ります」

 

 解説しながらも俺は目の前にいる武士を相手に実行し、階段を駆け抜けて次の階を目指していく。続けてやってくる二階、陣形を組みながらも俺へと迫る武士達を躱しながら、峰打ちで確実に意識を奪っていく。

 やっていくうちに力加減を調整できるようになったのか、最初よりスムーズになってきた。


[手際よすぎ]

[……やったことあるの?]

[初見ですが無双ゲーでもしてます?]


「初見さんいらっしゃい、今RTA中だな!」

『なぁ主様、RTAなら妾を使えばはやいぞ』

「いや、何が起こるか分からないから温存で」


 知らない地形で禍津を使うのは自殺行為。

 ここからは死んではいけないので、出来るだけリスクは減らしたい。


[使ったらいいんじゃない?]

[御霊って基本メリットしかないし使えば?]

[たぶんはやいぞ?]

[禍津ちゃんの性能みたいなー]


 気持ちは分かる。

 そりゃあ完全固有能力である御霊の詳細は気になるだろうし、俺もリスナー側だったら聞いてるだろうから。答えるのも自由だし秘蔵するのもありなんだが、一応ヒントだけは渡そうか。


「禍津の性能は限界背水って感じだな」


[ピーキーなのかな?]

[じゃあ使いにくそう]

[でも見たくなーい?]

[今度見せてね]


 そのまま辿り着いたのは三階。何もいない事で違和感を覚えた瞬間の事、四方八方から矢が飛んでくる。威力が低いのか、『危機感知』は発動しないが……この国の武士達の狙いは正確で確実に俺を倒そうとしてくるのだ。 

 ――ならば、俺のどこを狙っているのか予想できる。

 予想できるのならば避ける事も出来る――これぞ、俺が昔挑戦した回避ゲーで鍛えた技。正確だからこそ、何より人の心を持ったNPCだからこその信頼を元に避けるのだ。


「で、避けられないのは篭手で弾く――っし、減ってたHPも回復できるし、まじでスキル様々だ」


 いやぁ、マジでこの篭手買ってよかったな。

 普通に篭手にはパリィ判定はないらしいから、本当に手に入って良かった。


[回復パッシブ?]

[現状判明してる取得条件どれもきついのによくやったな]

[HP回復量は?]


「なんとこのパッシブ、HPとMPそれどころかSPすら回復できるんだぜ? 最強だろ? しかも、回復のクールタイムがないんだ……まぁ効果量発動毎に1だけど」


[前半と後半の落差]

[ゴミスキル]

[ま、まだ条件次第]

[駄目そう]

[いや、流石に持続回復じゃね?]


 RTAをしながらコメントを見て前に進む。

 走っている間に四階にまで辿り着いた俺は、満を持して発動条件を伝えることにした。


「条件はジャスト回避orジャストパリィだな!」


[かいさーん]

[完璧にタイミング合わせろと?]

[どう使えばいいんだ?]

[お き も の]


「いや……違うぞ? 最初は俺も微妙かと思っただけどさ、避ければ回復するしめっちゃ使えるんだぞ、五十回避ければ50も回復するし、本当にリキャストもないし」


 なんでそんな酷いことを言えるんだ? 

 せっかく手に入れた俺のパッシブスキルなのにどうして。


[駄目ななにかを庇う奴のそれ]

[それ弱いぞ]


「もういいや、俺だけこいつの良さを知ってればいいから」

 

 そんな話をしながらも、俺は更に城を進み天守閣の前にまでやってきた。

 天守閣に繋がる扉には誰もいない――それまでの武士の数を考えるにいると思ったが、どうして誰もいないんだ?

 

 だけど、微かに聞こえる剣戟音。

 天守閣の中から聞こえるその音に急いで向かう事にした俺は、扉を開けて中を見た。


「いい加減、死んで」

「ふはははは、効かぬ――その程度の痛みで私の守りは崩れぬぞ狐狂い!」

「一番相手したくなかったのに、相性悪すぎ」

  

 中にいたのは白髪の巫女と金髪の青年。

 苦無を使い縦横無尽に動く幼馴染みは、その攻撃を生身で受けるやべぇー奴と対峙していてその奥では久遠が虚ろな目で座っていた。

 ナユタが苦戦するほどの相手、それは即ち彼女と同じぐらいの強者――つまりレベルカンスト勢だろう。


[トッププレイヤーが二人!?]

[狐狂いと不死聖か!]

[アッツ!]

[……あっ]


 ――見えたコメントで相手の正体を悟った俺は、すぐにある選択をした。


「禍津、装備するぞ」

『やるのか主様?』

「やるしかないだろ」


 その選択とは禍津を使うというもの。

 トッププレイヤー相手にどこまで出来るか分からないが、ここで今一つの頂点に手を伸ばそう。

 幸い今俺に意識は向けられてない、それなら一撃を入れられる!

 走り狙い、首に突きを入れる――咄嗟な事に反応できなかったのか、目の前の金髪は目を見開いた。


――――――

――――

――


「おお新手か!」

 

 セツラにより一太刀受けたのはトッププレイヤーと呼ばれるランスロットという男だ。不遇とされる聖騎士のジョブで数多くのレイド戦に参加し、攻撃を受け続け味方を守り続けた最強のタンク。

 幻想種と呼ばれるフェニックス戦に最も貢献し、加護を手に入れ【不死の聖騎士】とまで呼ばれるこの男には秘密があった。

 それはゆりかごのダメージセーフティーを切っているというもの。

 VR機であるゆりかごにはよりリアリティを高めるために実際に痛みを体験出来る機能が付いており、普通は使われない。

 だが、この男はそれを使いゲームを遊んでいる。

 ある者は言った。きっと全力だからそうやって遊んでいるんだろうと。

 だけど……彼を知っている者は皆言う。

 あいつはただの――ドMだと。


「この痛み。あぁ戦闘の実感、久方ぶりに昂ぶってきたぞ!」


 そしてこれが彼のステータスになるのだが……。


PN:ランスロット

LV:150

JOB(職業):聖騎士

HP(体力):620+397 

MP(魔力):185

SP(スタミナポイント):278


STM (持久力):24

STR(筋力):19

DEX(器用):17

AGI(敏捷):13

INT(魔知):6

TEC(技量):15

VIT(生命力):586

LUC(幸運):35



 現時点で手に入るレベル150までのスキルポイントを全て生命力に回したという狂気の所業。そうこれこそが【不死の聖騎士】――ランスロット。

 彼を知る人は皆こう呼ぶ、ドM騎士ラスロと…………。



[あとがき]

       や せ い の ド M が 現 れ た。

 

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