第15話:投獄される配信者


 殺されログアウトさせられてから約二十分後、俺は雪から『蘇生したから帰ってきて良いよ』というメッセージを貰い、ログインすることにした。

 色々文句を言いたいが、多分雪の奴にも何か事情があったんだろうということにする。だって今はそんな事より久遠が心配だから一刻も早く戻りたかったからだ。


「…………え、ここ――どこだ?」


 そこはあまりにも狭かった。

 狭く、暗く……冷たくて、そしてあまりにも馴染みがない場所だった。


「……ここは、牢屋か?」


 そう、俺が今いるのは見知らぬ牢。

 そんな俺の近くに頼りなく置かれる一つの蝋燭があり、手は鎖に繋がれていて身動きは取れるもののあまり自由はない。

 鉄格子の外には看守が二人、俺を出さないためか武装しており逃げれそうにない。


「……起きたか、大罪人」

「いや大罪人は酷くないか? 確かに俺は久遠を連れて逃げたし、なんなら峰打ちで一人倒したけどさ、危害は加えてないしこの扱いは……」

「ふざけてるのか?」

「あ、一から十ぐらいは俺が悪いっすよねさーせん」


 やべぇよ、目がマジだったよ。

 今完全に家畜を見る目だった。。

 あぁ、こいつ明日には出荷されるのね……みたいな見下した目だったぞ?


「貴様の処遇は月蝕様が決めるが、それまでは大人しくしておけ」

「……なぁ、せめて聞かせて欲しいんだが久遠は無事か?」

「――無事に決まっている我らが久遠様に危害を加えるわけがないだろ!」

 

 声を荒げる武士。彼は本気でそう言っているようで、久遠の事を大事にしているように感じた。

 ……そこで覚える微かな違和感。

 彼女は贄にされてると言っていたが、それはこの武士は……いや武士達は知っているのか? 知っているからこそ、贄にするために大切にしてるという説もあるが……逃げてる間もずっと久遠にだけは攻撃を当てないようにしていた。

 余裕はないが、ある意味安全な今だからこそ分かるが逃げれたのは久遠がいたからってのもあるだろう。 


「質問に答えたんだ。お前にも聞きたい事がある――何故久遠様を攫った?」


 聞かれるが返答に迷ってしまう。

 ……素直に言っても信じられないだろうし、何より贄関連の話は確実にアウトに近い。なら、ここは――。


「ある妖怪を倒す為だ――久遠を使えば聞けると思ったからな。この国にいるんだろ? 雷に関わる妖怪が」


 徹底的に悪役を演じて情報を聞き出してやる。

 ゲームしてるときの俺のIQは凄いからな、問題無く演じきれるだろう。

 久遠を大事にしてるというのなら、そこを突けば簡単に聞き出せるはずだ。


「貴様、久遠様だけではなく神獣様まで狙うのか!」

「――やっぱりいるんだな、聞けて良かったよ」

「ッ――やはり猶予など、貴様はここで殺す!」

「――気持ちは分かるが落ち着け、旅人であるこいつは殺しても意味が無い」


 もう一人の武士が宥めるが、そいつからも殺意に近いを感じた。

 ――あぁ、やっぱり久遠は大切にされてるのか。それが知れれば十分だ。


「……なぁ刀矢、任せていいか? 俺は上にこいつの処遇を聞いてくる」

「行ってこい、見張りは任せろ」


 遠のいていく武士の背中、残った刀矢と呼ばれた武士は完全に背中が見えなくなったところで、俺に話しかけてきた。


「お前、さっきの嘘だろ?」

「――なにがだ?」

「一連の全部だよ。久遠様を利用するなら逃げるじゃなくて人質に取るだけで良かっただろ?」

 

 さっきとは全く違う雰囲気。

 優しい声音に混乱したが、俺は演じきらなければいけないので白を切る。


「……なんのことだか」

「まぁいい……それより窮屈だろ? 手錠の鍵だけ解いてやるよ」

「それ、怒られないか?」

「バレなきゃ大丈夫だろ。あ、でもあいつが来たら繋がれてるフリしてくれな」


 ……そこで会話は終わり。

 気怠そうに見張りに戻るその武士は、あとで飯もってくるとだけ伝えてここから見える出口近くの椅子に座った。


「……なんだ今の変人」

『主様がそれは言えないぞ?』

「俺は変人じゃない……あ、禍津。お前無事だったんだな」

『無事だぞ、心配しておるのか?』

「まぁ……そうだな」


 苦手だが俺の御霊というなら最低限の心配はする。

 一応ここまで助けられてるわけだし、いつまでも邪険に扱うのは違う。


『災難だな、牢に入れられるなど』

「まぁな、でも多分雪がなんとかしてくれるだろ」

 

 俺を蘇生したのあいつだし、多分今頃なにかやってくれてるだろう。

 あいつ自分で抱え込む癖あるし、肝心な事言わないしで察しにくいが、基本誰かの為に動く奴だから。今回俺を殺したのも何かのためだろうし、今は気長に待つのもあり……久遠の事は心配だが、雪に任せれば多分大丈夫。

 

「暇だし配信するか、最近やってなかったし」


 近状報告がてらにちょっと配信しよう。

 正直言えば、この状況落ち着かないし……何より禍津がいるとは言え牢はちょっと気が滅入る。だから慣れている配信をして、気を紛らわせたい。


「よしお前等ー久しぶりのセツラさんだぞー」


 配信機能もここのなら使えるようなので、とりあえずでつけて見ればなんか過去類を見ない速度でコメントが加速した。


[よぉ、お尋ね者]

[何したんです?]

[大丈夫?]

[おい馬鹿、何した?]

[いや、まだこいつって決まったわけじゃ]

[でもここ牢屋じゃね?]


 辛うじて見れたそのコメント。

 どう答えていいか分からなかったが、ちゃんと状況を伝えるためにも口を開いた。


「いやさー、銀嶺と戦って次ログインしたら桜雷で……なんか指名手配されました――以上!」


[異常だよ!]

[まじで何してんの?]

[――馬鹿だ馬鹿だ思ってたけど、やっぱり馬鹿]

[姫様美人?]


「めっちゃ美人、いい娘だったな」

 

 お尋ね者の事情を知ってる奴がそう聞いてくるので、俺は元気そう答えた。

 事実久遠は美人だし、性格もいいからだ。


[それを攫ったのがお前って、こと?]

[大罪人不可避]

[入れられて当然で草]

[いつかなんかやると思ってたけど、まさかNPCを攫うなんてな]


「酷くないか、俺の事なんだと思ってるんだよ」


 ちょっとコメントには過激な物もあるが、それは拾わないようにして――と思ってみれば、さっきまで俺の後ろをふらふら浮いていた禍津の奴が俺の前にやってきた。

 

『主様? なぜ、一人で話しておるのだ?』


 とても不思議そうにそう聞いてくる俺の御霊様。

 彼女が出た瞬間にさっきとは別の理由でコメントが加速した。


[その幼女is誰?]

[なんで幼女がここに?]

[――牢屋に少女と二人、何も起きないはずがなく]

[流石に詳しいこと話せ]

[なんでか問い合わせても運営静観してるし、ちゃんと話してくれ]


 ここで久遠の事を伝えるってのも一つの選択肢だろう。

 レイドボスの情報も出せるし、それを狩ろうとするプレイヤーを集める事が出来るからだ。そうしれば彼女を救う手札が増える。

 ――だが、それだと色々面倒くさい事は目に見えてるので俺は黙ることを選んだ。


「あ、こいつは俺の御霊の禍津童子。最近目覚めたかんじ」


[まさかの人型!?]

[どんな運だよ]

[なんでこんな奴に……こんな美少女が!]

[灰髪、紋様、主様呼び!?]

[属性盛りすぎでは?]

[可愛すぎて死ぬ、羨ましいから滅んで死ね]

 

 いや、さっきより殺意酷くないか?

 ……俺が問題起こしたのより、禍津の方が気になるのかお前等は。 

 傷付くわー……と涙しながらも、やっぱりどこか久遠の事が心配だった俺はいまいち配信に集中できなかった。

 本当に無事なのか? 雪の奴は、何してるんだ? ……と、そんな不安ばっかり湧いてくる。


【メッセージを受信しました。送り主、ナユタ】


「なんだ……メッセージ?」


 それを開けば緊急という文字と共に『――野生産の変態のせいで久遠と私ピンチ、逃げるから天守閣に来てね。悪いけど脱獄よろしく』というものが届いていた。


「ん、了解――桜雷の牢屋から脱出して天守閣を目指すRTA、はーじめーるよー」


[おっすお願いしまーす]

[頭バグった?]

[……馬鹿極めたなこいつ]


 どうせ配信してるんだ。

 目指すのがレイドボスの討伐、つまりは久遠が生きれるハッピーエンドならば、無理にでもテンション上げてエンタメにしてやる。

 暗い話なんてないように、全部ぶっ飛ばす。


『なんだ主様、脱獄するのか?』

「イエスだ禍津、テンション上げてやってこうぜ?」

『ふむ……楽しそうだな!』


[今度はなにやらかすんです?]

[何も分からないけど草]

[脱獄するの?]

[禍津ちゃん可愛いな]

[……誰も止めないの草]


『そうだ主様、妾は何をすればいいのだ?』

「すり抜けて看守から鍵奪ってくれ」

『了解だ――伝言はどうするのだ?』

「久遠がやばいだけかな? ……というか奪うなら、伝える必要ないだろ」


 それもそうだな! といいながら意気揚々と牢から抜けて刀矢に向かっていく禍津童子。数十秒待つと、鍵を持った彼女が帰ってくる。


『貰ってきたぞ、ついでに砂糖菓子もくれたな!』


[はいガバ]

[可愛いから、ヨシ!]

[……看守さん?]

[敵に味方がいてくさ]

 

 なんか知らんけど鍵は手に入った。

 ……ならあとは雪に言われたとおりに天守閣を目指すだけだ。


「牢屋から出たところでタイマースタート! 最速ルートで駆け抜けるぞ!」

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