第14話:姫様との逃走劇@幼馴染みを添えて
「姫様、その二人から離れてください城に帰りますよ」
「嫌です――絶対に帰りません!」
帰らないと武士に伝える久遠といまいち状況の掴めない俺。
目の前の修羅場にどうすべきかは分からない……。
ここで俺に与えられる選択肢、それは多分彼女を引き渡すか一緒に逃げるかの二つ。何に巻き込まれたかは分からないが、確実に厄介事……普通に考えれば彼女を引き渡して誤解を解いた方がいいが……。
「貴様等が姫様を唆したのか?」
いや、冤罪……と言いたいところだが多分言っても信じられないだろう。
明らかにさっきから俺と禍津に対して敵意向けてるし。
「本来なら許されない……だが、姫様を置いていくなら貴様等は逃がしてやる――どうだ? 悪い選択ではあるまい」
それに自分が優位だと分かっているからか明らかに高圧的だし、俺達を見下している……誤解されているというか、完全に敵と見なされてる感じだ。
「なぁ、久遠。絶対後で説明しろよ」
「……逃げて、くれるんですか?」
「助けてくれた恩があるだろ? ――それだけで理由は十分だ」
「何する気だ!?」
「禍津――力貸してくれ」
ムカつく奴と、助けてくれた恩人。
どっちかを選べと言われたらまぁ答えは決まってる。
――この選択を後で死ぬほど後悔するかもしれない、なんならマジで危険プレイヤーとして情報が出回るかもしれない。でも、嫌がる恩人を見て何もしないわけにはいかないだろう。
『それでこそ主様だ。存分に逃げようではないか!』
「久遠はありったけの術かけてくれ」
「――はい、了解しました!」
刀を装備し、バフがかかったのを確認する。
鬼の力が体に巡り、紋様が刻まれた瞬間――俺は武士を押しのけ前にいた久遠の手を引いて窓から飛び出した。
「――ッ追え、大罪人を逃がすな!」
出た瞬間、宿屋を包囲していた武士達が追ってきた。
俺一人にこの人数とか、ふざけてるなと思いながらも俺はかかったバフのゴリ押しで城下町を抜けることにした。
最適なルートとかこの町に来たばっかりで分からないから、マップ頼りに走る事にしてとりあえず逃げる。
――気付きたくなかったが俺は桜雷に来てから逃げてばっかりだな。
ちょっと愚痴ってしまうが、俺桜雷に来てから鬼ごっこばっかりやってる気がするのだ。
「いたぞ、弓を使え! 姫様には当てるなよ!」
「それは不味くないかー!?」
そもそも当てるなって言うなら可能性がある弓を使うなよ。
次の瞬間、鳴り響く五つの警告音。
「よけ――て、避けて――くそ、狙い正確すぎだろ!」
旅人である俺が死んでも後で帰って来れることを武士達は分かっている。
だから殺してもいいと思われているのか、さっきから狙いが酷い。頭とか足とか急所とかで、こっちの動きを潰そうとしている。
後ろから迫ってくるしで見て回避が出来ないから、『危機感知』と自分の感覚を頼りに動くことしか出来ない。
狙いが正確だからこそ、今の所避けれてるが……あぁ、VRMMOなのになんで俺は弾幕ゲーやってるんだよマジで。
それに何が難易度を上げているかというと、俺は現状禍津を装備してるから持続ダメージを受けてしまう――使わない方がいいと言われるかもしれないが、あまりにもステータス上昇恩恵がデカいので今回は使うしかないのだ。
「俺のHPの総量が今は88で十秒で受けるのが5ダメージだから? ――受けれるのが約十七回? いや魔力を考えると大体二十二回か」
なんかいつもは働かない頭が極限状態だからかめっちゃ活躍する。
で、俺は攻撃さえジャストで避け続ければ回復できるはずだし――ステータスも一時的だが上がり続けるだろう。
「なんであいつはあんな早く動けるんだ!」
「増やせ増やせ、ありったけ呼んでこい!」
なんか武士達の言葉も荒くなってるし、飛んでくる矢の数も多いしこの間にも逃げるルートを、あと前にいた武士を峰打ちで倒して――まじで考えることが多すぎる。
多分、今なんとかなってるのは銀嶺阿久良のおかげか? ……いやあんまり嬉しくないなそれ。
「そこの道、抜ければ脱出できます!」
今まで舌を噛まないためか黙っていた久遠が声を張り上げそう伝えてくれた。
その言葉を信じ城下町を抜けることが出来、そのまま遠くに見える森まで一気に駆け抜け身を隠すことにした。
「……はぁ、ここまでくれば大丈夫だろ」
森に身を隠しながら一息つく。
まじで疲れたし何よりもう体力が限界の1で魔力に至っては0。
今の状態だと何かダメージを受けた瞬間に死ぬし、本当にやばい。なんならスポーン地点があの宿屋だから死んだらまじで終わる。
「……説明してくれるんだよな久遠」
「巻き込んでしまった以上ちゃんと話します。まず私、この国の姫なんです」
「それは分かる。で、お前はなんで帰りたくないんだ?」
「私、もうすぐ死ぬんですよね――だから最後に外が見たいなーって思って」
――死ぬ。
その言葉は俺達プレイヤーにとっては割と軽い言葉なのだが、NPCであろう久遠にとってはとても重い物。
この【Eternity Fantasia】はもう一つの世界である。つまりこの世界に生きているNPCの命は一つであり。死んだら終わりなのだ。
「理由は? お前元気そうだろ」
何かバッドステータスを持っている様に見えないし、老人のキャラも普通にいるゲームだから寿命という訳ではないはず。
だからそう聞いたんだが……返ってきたのは最悪なものだった。
「ある妖怪への生贄ですね。人柱って言った方がいいかもしれませけど……」
「……なんでだ?」
「理由は知りません。あの妖怪は言葉を発しないので」
「俺を誘ったわけは?」
「最後になる秘密基地で過ごそうとしたら貴方を見つけたので、遠くに行くために利用した――これが全てですねセツラ様」
淡泊に突き放すような感じで説明を終える久遠。
無理をしているのか微かに体が震えてて――あの時、蛍火の森で楽しそうにしてた彼女の面影はない。
「どうです? 軽蔑しましたか?」
そうして最後にそう締めくくり、彼女は慣れない笑顔で笑った。
俺の答えを待つように、罰して欲しそうな顔で。
だから、俺はそれに対して――。
「いや、全然。死にたくないって思うのは当然だし」
「え、私は貴方を巻き込んだんですよ?」
「そうだな。指名手配もされてるらしいし、めっちゃやばいぞ? でも、生きたいって気持ちは分かるし、さっきもいったけどさお前は帰ろうとする俺を助けようとしてくれただろ?」
「それが……どうしたんですか」
「だから最後まで付き合うぜ、なんならその妖怪倒してやるよ」
正直理由はどうでもよかったし、彼女がめっちゃ悪女でも答えは変わらなかった。
巻き込まれた事には変わらないし、これから先のエタファン人生が変わるかもしれない。でも、自分の意志で俺を助けようと看病してくれて、どんな思いがあろうと俺を元の場所に帰るために手伝ってくれたんだ。
なら、助けない訳にはいかないだろ。
「そんなの無理ですよ――あれはこの大陸の雷の厄災を冠する一柱。いくら貴方でも」
「でも最強じゃないんだろ? ――久遠、俺はさこの世界で目標があるんだ。銀嶺を倒すって目標が」
あの夜に現れた銀嶺というなの最強種。
俺をボコボコにして極限を味合わせてきためっちゃ性格の悪い俺の初デスを奪った相手。俺は絶対にあいつを倒したいし、今のモチベは全部アレに集約するのだ。
あれが最強というならその他のモンスターを倒せなくてどうする?
「……馬鹿ですか貴方」
「馬鹿で結構……でも、そんな馬鹿を利用したのはお前だぜ? だから泥船に乗った気分でいてくれよ」
「沈むじゃないですか、それ」
「確証ねぇしな、でも倒したい。だからその妖怪も俺が倒す」
雷を冠するとまで言われてるんだからきっとレイドボス辺りだろう。
最強のレイドボスである銀嶺を倒すという目標がある以上、それに負けていい理由は無い。
「――だから行こうぜ、そいつの居場所知らんけど」
格好付かないがそうやって、彼女に手を差し出したときだった。
何かが森の中に飛んできたのだ。
「えっと、苦無?」
飛んできたのは一本の苦無。
――木に刺さったそれを見て顔を青ざめる久遠。追いつかれたのかと思いまた彼女を抱えようとした瞬間の事、空間が歪んだのだ。
で、いつの間にかそこには真っ白い巫女がいた。
「ん、到着」
「……ゆ――ナユタ?」
現れたのは幼馴染みのこの世界でのアバターであるナユタ。
見るからにレアリティの高そうな巫女服に身を包んだそいつは、俺等を見るなり武器を構えて――。
「大和、あとでお話――今は眠って?」
『逃げろ主様! こいつには勝てない!』
瞬時に距離を詰めて俺の首目掛けて苦無を振るう。
その速度は久遠のバフと禍津のステータス上昇がなけれんば反応できない速度であり、一瞬遅れてたら死んでた。
「おま、ジョブは巫女だろ!?」
「ちゃんと巫女、でもバフは自分にかけてる。あ、後ろ行くね」
苦無が投げられる。
で、ナユタの姿が消え――後ろに現れた。
「チェック」
完全なる瞬間移動。
攻撃の瞬間、危機感知が反応するが……あまりにも咄嗟な事で反応が出来ず――俺は二度目の死を迎えた。
「死体は二十分残るからギリギリで蘇生しとく、またね大和」
「巫女詐欺だこんなの」
[あとがき]
週間ランキング三位取れました!
まじでフォローと評価を入れてくださった読者の皆様のおかげです!
今日の更新分はこれで終わり、次回は配信回となりますのでお楽しみください。多分明日の同じ時間に更新します。
最後にこの話が面白かったまたは続きが気になりましたらどうかフォローをお願いします。☆を入れてくれたらめっちゃ嬉しいです。
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