第13話:お尋ね者の話
ログアウトした翌日のこと、俺はゆりかごに届いていたメッセージ通知を見て頭を痛めていた。送り主は勿論約束をすっぽかしたレンであり、内容としては……『オマエ、ナニシタ?』というものだけ。一件だけのそれは、なんというか圧が凄かった。
意味はちょっと分からなかったが、圧が凄いことには変わりないので多分怒ってる。
「ふぅー……まじでどうしよ」
これは昔の事なのだが、怒ったレンは面倒くさい。
それはもう機嫌を一切直さないし、あろうことか三日は最低でも恨んでくる。
まぁ、その場合って大体俺が悪いんだが……それでもあいつは面倒くさいのだ。だから俺は極力あいつとの約束は守るようにしてたんだが……。
「とりあえず、報告謝罪土下座……つまりほうしゃどだよな」
こういうときは、誠意を見せるのが大事。
許してくれるか分からないが、とりあえず誠心誠意謝って五体投地で土下座することにしよう。
「……とりあえずだ。『えっと、通話かけても大丈夫か?』」
そんなメッセを送り返事を待つ……こと三秒。
すぐに返ってくるのは『いいがお前は大丈夫なのか?』という文字列。
……どういう事だろうか? ちょっと要領が得ないので詳しく聞くためにも通話をかけた。
『おい馬鹿、お前のゲームの容姿ってどんなんなんだ? あとジョブ』
瞬時にレンとの通話がつながり、聞かれるのはそんな事。
理由は分からないが慌てた様子だったので、思い出しながら自分の容姿とジョブを悪友へと伝えることにした。
「えっと、リアルと同じで黒髪だろ? 灰眼は身バレ防止のために碧眼に変えたし、身長は……確かちょっと高くしたぐらいであんま弄ってない。で、ジョブは侍」
もしかして、昨日こいつは俺の事を探してたのだろうか? あぁ、それなら悪いことしたかもな。俺のゲームの見た目は確かに日本人の容姿を少し弄ったぐらいだから探すのにも苦労するだろう。
それに今俺は別大陸にいるしで昨日はずっと探してくれてたかもしれない……あれ、でも集合のために伝えたような? それどころか配信見せたから知ってるよな。
『やっぱり一致してるが、流石にそれだと他と被るだろうし気のせいであってくれ』
「おいレン、何があったか言ってくれ流石に何も分からん」
『いやな、桜雷からのクエストで黒髪碧眼のプレイヤーを捕まえろってやつが出てんだよ。で、配信のお前の姿と一致してたから聞いただけだ』
「そうなのか? 偶然って怖いな。で、その黒髪プレイヤーは何やったんだ?」
実質お尋ね者だし、ちょっと気になるな。
『なんでも桜雷にある月蝕の国の姫を攫ったらしい。その姫さんかなりの重要人物らしくて、今そいつお尋ね者扱いされてるんだってよ』
「まじか、やばいな。でもなんで容姿だけなんだ? 名前も出せばいいだろ?」
『えっと容姿とジョブだけは国の陰陽師が出せたんだが、名前は分からないんだってさ』
『へぇ』
……その黒髪プレイヤー重要人物を攫うとかマジで何やってんだよ。
国が探すっていう時点できっと色んなクエストに関わってるだろうし、そいつは許せない。どんな悪意があったか知らないが、やっちゃ駄目なことがあるだろう。
「へぇ、俺今丁度桜雷にいるし機会があったら探してみるわ」
『で、こっちが本題なんだが、なんでお前集合場所にいなかったんだよ。かなり探したんだぞ?』
「悪いって、なんかログインしたら言った通りで桜雷にいたんだよ。バグか知らないが、変な場所だったし」
『へぇ、エタファンにもバグあるんだな……てかそれだと大変だぞ、今お尋ね者を探すために桜雷の警備が厳しいらしい。お前の容姿だと間違えて捕まるかもな』
「よせよ、流石にないって」
冗談っぽく言う悪友に、流石にないだろと思いながらも軽口を返す。
ないかぁと二人で笑いながらも、レンの奴が思い出したかのように聞いてきた。
『あ、一つ気になるんだが。お前誰とパーティー組んでるんだ? フレンド機能で機能確認したが今仲間いるだろ? なんかこっちじゃ
「ん……あーそうだ。今NPCの久遠って奴に案内して貰ってる。俺がログインしてない間に看病してくれたらしくてさ、何かの縁だからって一緒に転移門に向かってる感じ」
『……久遠? そいつの名字は?』
そういえばエタファンではよりリアリティを出すために名字を設定されてるNPCも多いんだよな。まぁでも名乗られなかったし、大丈夫だろ。
「ただの久遠らしいぞ?」
『それなら安心か、なんか姫様の名前は月蝕久遠って言うらしくてさ、攫われた奴の名前が同じだったしまじでお前かと思ったわ』
「まさか……まぁ、参考までに聞きたいんだがその月蝕久遠ってどんな容姿か聞いていいか?」
一応って事もあるし聞いておいて損はないだろう。
もしかしたらそのお尋ね者に会うかもしれないし、協力できるかもだし。
『桜雷人だしお前と同じで黒髪だろ』
「まぁ、それはそうだろうな。桜雷って日本モチーフだし」
『えっと確か次が金眼』
「……それで?」
『それで身長が低くて、めっちゃ美少女』
「…………へぇー、他には?」
まだニアピン。
多分大丈夫、うんきっと。
『あ、ハクトっていう兎を連れてるらしいな』
「………………ちょっと、ログインしてくる」
『心当たりあるのか?』
「いや、ちょっとな。まぁ、あれだ生きてたら会おうぜ親友」
『急になんだよ。まぁいいや、オレは今日用事あるし、明日は絶対遊ぼうぜ』
「了解……またなレン、お前と友達やれて良かったよ」
それだけ伝え、通話を切った俺はすぐにゆりかごから【Eternity Fantasia】を起動して、まだかまだかと思いながらログインを待ち、インした瞬間のこと。
――なんか知らないけど俺は結界に包まれていた。
それどころか六人の武士に包囲されていて、近くにはとても緊迫した空気が流れてる。
「姫様! いますぐ帰りますよ!」
「嫌です――セツラ様! 起きたのですね、逃げますよ!」
『主様、また鬼ごっこだぞ!』
「……oh my God」
姫様という言葉は流れ的に久遠に向けたのものだろう。
それに対して完全に嫌な予感が的中した事を俺は悟った……あ、これさもしかしなくてもお尋ね者って俺ですよね――と。
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