第12話:妖怪夜行は唐突に

「このまま平和に辿り着けるといいな」

 

 ……思えばこの言葉が完全にフラグだったのだろう。

 夜の闇の中、俺は禍津を背負いながら白い兎に着いて行っていた。 

 後ろから聞こえる太鼓のや鈴の音に祭り囃子、何かが転がる音に正体が分からないナニカ……それが俺達を追っている。


「夜ってこんな急に来るものだっけ!?」

「いいから逃げますよセツラ様、追いつかれたら終わりです!」

「桜雷怖ぇなまじで!」

 

 俺達は今迫る夜に襲われていた。

 急に辺りが暗くなったと思えば、さっき言った謎の音達や気配に襲われて今に至るんだが、マジで怖い。


『走れ走れ主様、火車が迫っておるぞー!』

「お前は呑気だな禍津!」

『妾は今、楽しいぞ!』

「ちくしょう、それはよかったね!」


 もうやけくそだ。

 俺の背に乗りながら楽しそうに後ろを観察する禍津童子。

 ちょっと前の小鬼戦の時のような上機嫌さに頭が痛くなるが、思えば生まれたばかりだろうこいつにとって外は新鮮だろうし、しょうがない気がするが……それはそれとしてもうちょっと緊張感を持って欲しい気がする。


 今開催されてるのは命を賭けた鬼ごっこ。

 勿論逃げる側が俺等三人であり、鬼は不明のある意味デスゲーム。

 なんで俺はエタファンをやるとこんな難易度hellの状況に遭遇し続けるんだろうな……と、ちょっと軽い現実逃避をしてしまう。


「……空飛んでくる奴いないだけましだけどさ、流石に増えないよな」

『知ってるぞ主様、それをフラグというらしい』

「いやでもさもう逃げ初めて十分経ってるが、飛行出来る敵いないし大丈夫だろ?」


 多分、そう言ったのがいけなかったのかな? その瞬間、どこからともなく鋭い羽が飛んできた。闇夜の中でも漆黒に光る何枚かの羽、それは明らかに俺を狙った物で、かなりの殺意を感じる。


「俺って喋らない方がいいか?」

『妾的には楽しいのでいいぞ?』

「……極力フラグは立てないようにするわ」


 知りたくなかったけど、俺ってフラグ回収人間なのかな?

 今まではフラグブレイカーを色んなゲームで実現してきたけど、思えばそれってフラグ立てた後にそれを打ち破ってただけのような……。


「……不味いですね囲まれました」

「今更だが、これって戦っちゃ駄目なのか?」

「打ち破れる旅人様はおりますが、夜が明けるまで戦い続けるか、夜を連れてきた妖怪を倒さないと終わらないようなんですよね……この現象」

「よし、なら倒すか」

「はい?」

「いや、だって……それなら倒すしかないだろ?」


 来た瞬間に危機感知が発動したのに加えて逃げろと言われたから逃げたのだが、退けられる現象ならやればいいだけだろう。

 俺には今の目標として銀嶺の奴を倒すという物がある。あれが最強というならつまりはそれより弱いって事。なら乗り越えなきゃ意味が無い。


「凄いですね、セツラ様は……なら私も覚悟を決めます。全力で生き残りましょう!」


 そうやって久遠が言った瞬間だった。

 ウィンドウが開かれ通知が俺の元にやってくる。


【NPCがパーティに参加します】

【久遠が一時加入しました】


 初めてNPCと共に戦うが、ステータスって見れるのだろうか?

 ……ちょっと気になったのでパーティーのステータスを確認してみれば、


――久遠

LV:100

JOB(職業):巫女

HP(体力):769

MP(魔力):600


 いや高っか。

 詳細なステータスは見れないが、久遠って俺より強くないか?

 MPも高いし、何より体力なんか俺の約八倍はあるし……これ、俺がいなくても倒せるんじゃ……。


「私は支援術しか使えないので前は任せますセツラ様」

「えっと攻撃系は?」

「一切使えません!」

「分かった……それと禍津お前って戦えるか?」


 こいつ最初に会った時に俺に向かって敵意を向けてきたし、なんなら『危機感知』が発動するような攻撃をしようとしていたし、多分だが最低限戦えるはずだろう。


『問題無いぞ、さっきの戦闘でストックも溜まっておるからな』

「ストック? いや今はいいか。じゃあ背中任せるぞ」

『あい分かった。妾のありがたさを教えてやろうではないか』


 俺が刀を構えれば、禍津はそれに合わせるようにして何処からか巨大な黒い太刀を取り出した。禍々しいさすら覚える演出と共に現れたそれには、怨念のような物が渦巻いている。


「背中から刺したりするなよ?」

『そこは信用してくれると嬉しいぞ』


 それを最後に戦闘開始。

 始まった瞬間にバフがかかったのか、かなり体が軽くなった。

 そのバフ量はかなり高いのか、体感ステータスが四倍は上昇したように感じる。その破格の性能にいけると確信した俺は闇から迫る妖怪達と対峙した。

 

 暗闇の中、迫ってくるのは荷台を押してる二足歩行の猫。

 燃えてるそいつの名前は多分火車だろう。確かどっかで見たが、死体を運ぶとされる日本の妖怪だったっけ?

 いまいち攻撃方法が予想できないが、何をしてくるのだろうか?


「って、それはバーサーカー過ぎるだろ!」

 

 やってきたのは燃えてる車での突撃、俺目掛けて一直線に迫ってくるそいつからは一切の躊躇を感じられず、何より目が血走ってて怖かった。

 避けれた物の再度突撃してくるバーサーカー猫。

 反撃の隙を見つけなければ多分ずっとやってくるだろう。


「避けて斬るしかないよな……パリィできる気がしないし」


 出が早いし燃えてるしでパリィは出来そうにない。

 だから攻撃を見極め……っし、当たった。


「これで二割か、あと五回……それか居合いで決めるか?」


 前に検証したが居合いのダメージは通常攻撃の三倍の威力を出すことが出来る。

 他の敵もいるし時短にもなるから使った方がいいのは分かるのだが、問題としてはこいつの突撃を刀を収めながら避けないといけなくなること。

 ……いや他の妖怪が残ってる以上、皆に負担をかけたくないそれで決めるか。


「というわけで居合い」


 刀を鞘に収めてのチャージ。

 必要な時間は四秒であり、敵の速度を考えると二回は避けないと駄目だろう。

 さらに反撃の際に一度は必要だろうから、計三回。ダメージがどれほどか分からないが、燃えてる敵なんて怖すぎるし当たらないようにするのが吉だ。


「一回目――二回目――ここだ!」


 横ステップ移動をしながら回避して、俺は三回目の攻撃を避けたタイミングで反撃として居合いを叩き込んだ。確かな手応えと敵がポリゴンになってるのを確認して次の敵へ……と、そう思ったんだが。

 

「……あれぇ、終わってる?」


 周りにいた妖怪が同時に斬られたようにポリゴンとなり、夜の闇が晴れたのだ。

 何が起こったカ確認する為に禍津の方を見てみれば、そこには笑みを浮かべる灰色の鬼がいた。どういう訳かしらないが、最初会った時の姿に戻っており俺を見ると手を振ってくる。


『倒したぞ主様、妾を褒めるが良い』

「凄いな禍津……どうやったんだ?」

『ストックのおかげだぞ、まぁ使い果たしてしまったがな』

 

 やっぱり後で詳しいことを聞かないとな。

 どれだけの数がいたか分からないが、短い戦闘だったし多分数は少なかったんだろう。ちょっと疲れたが、闇が晴れると見えたのは日本風の城とその眼前に広がる街。

 どうやらいつの間にか目的地の近くに辿り着いていたらしい。


「お疲れ様です二人とも、まさか生き残れるなんて思ってなかったです」

「久遠の支援のおかげだぞ? だよな禍津」

『そうだな、かなり動きやすかったぞ娘』

「……初めて褒められました。ふふ、ありがとうございます」


 こんな凄いバフ使えるのに褒められないと言うことあるのか?

 まぁ彼女の背景とか何一つ知らないから何も言えないが、久遠はめっちゃ凄かった。彼女がいればこの先もかなり安全に進むことが出来るだろう。 


「疲れましたし、少し城下町で休憩しましょう? 宿屋もある筈ですし、そこに泊まりませんか?」

「俺は桜雷のこと知らないし、久遠に任せるぞ」


 宿屋にいけると言うことはリスポーン地点の変更が出来るって事だし、いけるなら嬉しい。流れ的にも泊まる感じだし、ここは彼女に任せて少し休みながら進もうか。

 そんなわけで宿屋で一泊することになったので、俺はそのタイミングでログアウトし現実へと戻ることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る