第11話:専用装備は変態仕様

 集まっていたのは小さい鬼。

 地獄図の餓鬼のような見た目のそいつらは、迫ってきた俺に対して敵意を向けてくる。エタニティ大陸でいう所のゴブリンであろうこいつら、多分御霊の性能を試すには丁度良いだろう。


「……ぐッ!? なんだ……これ」


 戦闘を開始した直後、何故か俺の体に痛みが走った。

 なんだ? そう思い体力を見てみれば僅かにゲージが削れていた。

 すぐにその場から引き、何が起こった確認する。もしかして遠くにも敵がいて、遠距離攻撃をしてきたかと思ったからだ。

 でもマップには敵が表示されてないし、何より今のは攻撃を食受けたような感じではなく中から――ってまたかよ。

 

「……もしかして、あの狐に呪いでも付与されたか?」


 最後に戦ったモンスターは銀嶺阿久良王ぐらいだし、呪いを受けるタイミングはそれしか考えられないからだ。


「戦闘開始したら継続ダメージとかまじで害悪だな」


 ……なんか意図せず縛りプレイをする様な感じになったが、これは洒落にならない呪いだ。解除する方法を見つけないとこれから先のエタファン人生に支障が出る。

 これの戦闘が終わったら解呪の方法とか探さないといけないし、意図せず目的が増えた感じ。


「というかまじで痛すぎ」


 考えている間に既に20程のダメージを俺は受けていて、体感だがこの呪いのダメージが十秒に一回で五ダメージというもののようだ。


「あれ――なんか体軽くないか?」

 

 気のせいかもしれないが、体が軽いのだ。

 試しにこの状態で小鬼に迫り斬ってみれば、一撃で7割ほどの体力を削ることが出来た。敵のレベルは19程、最後にまともに戦ったのが銀嶺の前だから基準がバグってる気がするが、なんか火力が高い気がする。

 

「ステータスが上がってる?」

 

 避けながら詳細ステータスを確認する。

 するとそこには、見慣れぬ禍津の顔マークと↑↑というマークが表示されていた。


「……おい、禍津」

『なんだぁー主様』

 

 とてつもなく上機嫌な声音。

 ふと頭に過った予感に、ある質問をしてみることにした。


「これってお前のせいか?」

『さぁの、しかしとても美味しいぞ?』

「よしお前のせいだな、今すぐ装備解除する」

『嫌だぞ?』

「What's?」


 めっちゃネイティブに発音してしまったが、ちょっと待って欲しい。

 まさかのこの御霊装備って解除不可? ……いや、御霊には御霊の意志があるのは知ってるんだが、それはないだろう。


『せっかくの初陣、使われないなど嫌だからな。終わったら解除してやろう』

「言ったな、絶対すぐ終わらせる」

『長引かせても良いぞ? そっちの方が妾的にありなのだ』


 この装備がどこまで体力を削ってくるか分からないが、長引かせるほどに不利になるのは確定。それに多数戦とかはいつダメージを受けるか分からないしで、まじで危険すぎる装備って事が分かる。


「って危な!」


 爪を構えて迫る小鬼。

 寸の所で避ければ、少しだけまじで雀の涙ほど増えるHP。

 そういえば、俺にはHPなどを1だけ回復できる『狂鬼の回術』があった気が……待てよそれを考えれば避け続ければ俺は生き残る事が出来る?

 ……いや冷静に考えて馬鹿だろ。

 十秒間隔で五ダメージだからそれまでにそれ以上回復すれば俺は生きることが出来るんだが、控えめに言ってそんな連続攻撃してくるモンスターじゃないと出来ないし、そんなのは阿久良王ぐらいしか今の所遭遇してない。


「とりあえず倒したけど……まじで危なかった」


 ほっと一息、流石に戦闘が終われば大丈夫な筈なので俺は安心して遠くで待ってた久遠の元に向かった。


「あの禍津さん?」

『なんだ主様?』

「解除していい? ……まだダメージ受けてるんだが?」


 向かう途中の事、未だダメージを受けている事に気づいたのでそう言った。


『あぁ、忘れておった今出よう』


 体に刻まれていた紋様が消え、目の前に禍津童子が戻ってくる。

 戻ってきた禍津童子、そんな彼女は少し変わっていた。

 なんか成長しており身長が伸びているし、とてもつやつやしていたのだ。


『しかし、太刀は使わなかったのか残念だな』

「……太刀って銀嶺の時の最後の奴か?」

『そうだぞ、業を返す八十の太刀……アレを使えば一瞬だったというのに』

「…………なぁ禍津、一回お前の詳細見てもいいか?」

『恥ずかしいが構わぬぞ?』


 一応確認を取ってから俺は詳細ステータスからいつの間にか増えていた御霊の覧を選ぶ。


禍津童子まがつどうじ

 種族:おに 

 武器形態:紋様・刀

 装備時攻撃力:0

 装備耐久力:0

 ――代償には対価を、敵には報復を。

 ある願いによって生まれたこれは異常な呪いを孕んでおり、所有者の命を限界まで蝕んでいく。


『保有スキル』

《宿業――修羅》レベルEX

 これを装備時、持続ダメージを受け続ける。

 減った体力によりステータス上昇。

 持続ダメージで体力は一以下にはならないが……魔力が代わりに削られる。

 装備パッシブスキル。


《宿業解放――八十やその太刀》レベルEX

 任意のタイミングで紋様を解放する。

 解放までに減らした体力により、威力上昇。

 一度放つと効果はリセットされる。

 アクティブスキル。

 

 えぇ、なにこの変態というかやばい性能。

 使いにくすぎるというか、まじで特殊すぎないか? フレーバーテキストも不穏だし、持ってるスキルがどれもやばい。

 つまりこの装備は装備するだけでダメージを受ける呪いの装備だが、その分恩恵が凄いと……。

 見るだけで分かるが、この装備はマジで敵が一体の時専用だ。これはさっきの戦闘中に思ったが、どう考えても敵が多いときには使ってはいけない類いのものである。

 せっかくの専用装備がこの性能、あまりにも汎用性に乏しく使っても一歩間違えたらデスペナ製造機と化すだろうな。

 そんな事実を目の当たりにして軽く絶望していると、待っていた久遠が近付いてきた。


「お強いのですね、セツラ様。小鬼をあんな短時間で倒すなんて」

「今回に関しては禍津のおかげだな、いつもの俺じゃあんなに早く倒せないし」

「それでも凄いです。桜雷の侍達でもかなり苦戦するらしいんですよ。素直に受け取ってください」

「……そうか」


 褒められ慣れてないので少し恥ずかしかった。

 それにしてもかなり疲れたな、体力的にも精神的にも……まぁ、比率としたら明らかに精神の方が疲れたけど。

 

「そうだこれポーションです。看病あまりですが、よかったら使ってください」

「助かる……いや、ほんとに」

 

 見れば俺の残り体力は40程。

 あの短い戦闘で半分の体力が持っていかれてたのだ。

 多用したら絶対死ぬし、こまめな回復はまじで大事だろう。


「あれ、なんか甘くないか?」

 

 よく分からないが、このポーションは甘くかなり美味しかった。

 ちょっと前に雪に試しに飲んでみてと渡されたポーションはもっと薬品してる味だったのに、なんでだろうか?


「口に合ったならよかったです。これは私が調合した特別な物なんですよ?」

「へぇ凄いな。そんな事出来るのか」

「いつも暇なのでよく作ってるんです。甘いの美味しいですし」

「器用なんだな、久遠って」

「ふふ、ありがとうございます」


 そんなやり取りをした後、俺と禍津は彼女と一緒に野原を進んで行くことにした。

 城下町まではまだまだかかるらしいし、せっかくなので少し観光気分で桜雷を回ってみよう。

 ……現実に戻ったら多分レンの奴に怒られる気がするが、まぁ……なんかそこは上手くやれると信じておく。


「このまま平和に辿り着けるといいな」


 どうせこの先、怒られる未来が待ってるのだからせめてゲームでは平和に過ごしたいな。

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