第二章:桜雷事変――月蝕の姫君

第9話:ログインしたら、見知らぬ場所


 レンとの約束があるのでデスペナが解除された俺は早速エタファンの世界にログインした――んだが、ログインした先に待ってたのは……。


「知らない、天井だ……」


 広がる一面の岩肌にそう呟く。

 訳の分からない現状に混乱しながらも一度は言ってみたかった台詞を吐き、俺は起き上がろうとしたとこで気付いた。

 白い何かが腹の上に乗っているのだ。

 しかも、その何かは生きているのか時折動く……確認してみればそれはめっちゃもふもふのしてる生物だった。

 

「……なんだこれ?」 


 余計に分からない現状に疑問符だけが浮かんでくるが、約束もあるし早く起き上がろう。腹の上の白いもふもふは俺が起き上がるのを察してか、離れていった。


「……えっと、まじでどこ?」


 見る限りここは洞窟。

 少しが人の手が入っているのか灯りが何箇所かに設置されているものの、それ以外は自然そのままが残っているような場所だった。

 確か俺のスポーン地点はウェントスの街にしてるはず何だが、なんでこんな場所にスポーンしてるんだ俺。

 バグか? ……いやでも、このゲームはバグが一切ないって事でも有名だし、何よりスポーン地点が変わるなんて暴動もののバグ仮にあったとしたら大変だ。

 一応、最後に寝た場所がスポーン地点として記録されるようになってるが、記憶を探ってみても俺はウェントスの宿屋で寝たはずだし……。


「とりあえず出口探すか」


 約束もあるし、長居するわけにもいかないのでそう決めた。

 出口を探すためにもとりあえずでマップ機能を開いてみたんだが……。


unknownアンノウン?」


 マップには一切の情報が出てこず、それどころかそんな表示が出てきた。

 unknown……つまりはここ未知のエリアってことか? いや、なんで俺がそんな場所にいるんだよ。それになんか配信も出来ない様になってるし、まじでなんだここ?


「……ハクトの言う通り目覚めたようですね、旅人様」


 そんな時に少し上かけられる声。

 声の主を探すために視線を向ければ、そこにいたのはあまりにも顔が整いすぎてる純黒の髪をした金眼の少女。あまりに顔の良さに一瞬話しかけるのを躊躇するレベルだったが、何か返さないと不審がられるし……何より神秘的な雰囲気を纏うこの子に下手な事言えそうにないし。


「……あんたは?」


 ネームバーもないし、何より未知のエリアだろうここに来る人物。

 完全に正体不明だし、嫌にでも警戒してしまう。


「そうですね私は……あの、どう名乗ればよいのでしょう?」

「いや、そのまま自分の名前を言ってくれればいいだが」


 思わずツッコんだ。

 本当に困ったようにそう言ったから。


「あぁ、そうすればいいのですね――なら久遠くおん、ただの久遠です」


 そう名乗った途端、頭の上に久遠という名前が表示された。

 ……この人はNPCなのか? このゲームのNPCは全て現実に生きているのと変わらないレベルの思考回路を持っているのは知ってるが、この子は雰囲気が違うというか……なんて言えばいいんだ? 独特な雰囲気があるというかそんな感じ。

 でも旅人様って言ってたし……。


「あのさ、一つ聞きたいんだがここ何処なんだ?」

「私の秘密基地ですね」

「……なんでそんな場所に俺にいるんだ?」

「……久しぶりに来たらいたので知りませんよ?」

「まじでなんで?」


 じゃあ誰も分からないじゃないか。

 とにかく詳しい話を聞いて見れば、秘密基地に遊びに来た久遠がここで水に浸ってる俺を見つけたようで、助けてくれたらしい。

 見つけてから一日起きず、それまでポーションやらで看病してくれたようだ。

 その話を聞く限り、やっぱりこの子はNPCか。


「でも、本当によかったです」

「……何がだ?」

「ずっと看病しても起きなかったので目覚めないかと思いまして……」


 にこにこと笑顔を浮かべ心の底からそう言ってるように感じる。

 初対面であろう俺にそこまでしてくれるなんて、この人はよっぽどのお人好しなんだろう。せっかく助けてくれたし、何かお礼をしたいが、俺は始めたばっかりだし何か渡せるような物がない。


「そうだ旅人様、お話聞かせてくれませんか?」

「話って、なんのだ?」

「旅人様のお話です。今までどんな所に行ったとかどんな妖怪と戦ったとか」


 そう言われても、俺はまだ初めて一週間。

 戦ったのもゴブリンとかコボルトとかワイルドホークぐらいだし、あんまり話せることがない。それに銀嶺の奴には惨敗したからあんまり話したくないし。


「わいるどーほーく? 確か、別の国の妖怪ですね」 

「べつの……くに?」

「はい、確かその妖怪はえたにてぃ大陸のものですよね?」

「そうだけど、ここって違うのか?」


 いや、そんな訳ないだろう。

 エタニティ大陸以外の大陸で今解放されてるのは桜雷とカーメアートの三つ。

 どれも転移魔法を使うか、船で渡るかしかないのに……まさかそんなこと。


「あのここは桜雷ですよ?」

「なんで?」

「なんでと言われましても、桜雷だからとしか言えませんが……」


 いや、まじでなんで?

 知らぬない間にスポーン地点が別の国になってた件について……とかじゃなくて、なんで俺は桜雷に居るんだよ。桜雷のモンスターって基本強いらしいし帰れる気がしないんだが?


「もしかして、えたにてぃ大陸から来たんですか?」

「来た……というかここにいたんだが」

「それは不思議ですね、神隠しにでもあったのでしょうか?」

「……まじで分からない」


 このゲーム神隠しの概念あるんだなぁと、軽く現実逃避しながらも俺はどうやって帰るかを考えることにした。


「あのさ久遠、帰り方って分かるか?」

「船を使ったりすれば帰れると思いますが、近海で大蛸が暴れてると噂なので使えないんですよね」

「じゃあ転移魔法は?」

「転移門はここからだと三日ほどの所にはあります……でも、最近は妖怪が多くて危険らしいです」


 つまり……割と詰んでないか?

 どのぐらいのモンスターがいるのか分からないが、難易度が高いという噂の桜雷を駆け抜けなきゃいけない。 

 でもやるしかないし、まぁ答えは一つだろう。

 

「まじでありがとな久遠、とりあえず転移門に俺は向かうわ」

「場所分かりますか?」

「マップ見ればなんとか?」

「あぁ、そういえば旅人様は不思議な地図を持ってるのでしたよね……ですが、近道とかは分からないですよね」

「まぁそうだけど」


 まだ最初の大陸の道すら覚えてないし、完全に未開の桜雷なんてまともに探索できるわけがない。


「それなら案内しましょうか?」

「……いいのか? 流石に悪いというか」

「私がやりたいのでいいのですよ。で、どうしますか?」

「いや、でも……危険だし」


 さっき久遠自身が言ってたが、この国のモンスターである妖怪がいま多いらしいから危険だろう。


「分かってますよ? ですから守って貰おうかと」

「俺に?」

「貴方以外に誰がいるのですか? それに私も外が気になるのでこれを機に外に出ようかと」

 

 なんか強引だなと思うが、看病してくれた恩もあるし何より道が分かるのなら助かるので言葉に甘えることにしよう。

 

「じゃあ頼む……でも、ちょっと待っててくれ」

「分かりました。では私は外で待ってますね」


 一応俺は一回死んでるし、どんなペナルティがあるか知っておきたい。

 それにもしかしたら装備も失ってるかもしれないし、確認しておくのは大事。

 久遠が離れたのを見てから、俺は詳細ステータスを開いた。


————————————

PN:セツラ

LV:20


JOB(職業):侍

HP(体力):81+7

MP(魔力):20

SP(スタミナポイント):48+3


STM (持久力):22

STR(筋力):18

DEX(器用):17

END(耐久力):12

AGI(敏捷):30

INT(知力):8

TEC(技量):19

VIT(生命力):28

LUC(幸運):28

ステータスポイント:11

スキル:居合い――鞘に刀を収めれば発動可能

パッシブスキル:危機感知

        狂鬼の回術

御霊:禍津童子まがつどうじ

種族:おに 武器形態:紋様・刀

————————————

 

 開けば見慣れない文字が……というより御霊の覧が変わっていたのだ。

 ……俺、御霊を手に入れたのか? と思ったが心当たりは――いや、あるか。あの銀嶺との戦いで使った一本の太刀。思えばあれが俺の御霊なのか?


「……にしても禍津童子? 武器にしては変な名前だな」

『変とは酷いではないか主様? それに呼ぶのが遅いぞ』


 どこからか頭の中に少し小馬鹿にしたような声が響く。

 禍津童子と名を呼んだ途端に聞こえたその声に声の主を探してみれば、体が急激に熱くなり――視界が眩んだと思ったら体から滲むようにナニカが黒い影が現れた。


『待たせたのは減点。まぁ、魂魄を癒やす必要があっただろうから目は瞑るが、もう忘れるなよ……妾の主様?』


 現れたのは赤い紋様が体中に刻まれた灰色の髪をした角の生えた少女。

 どう見ても異形と分かる彼女からは不気味な気配しか感じない。それどころか、雰囲気があの狐と同じ強者であり、どうみても味方には見えなかった。

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