一章:銀嶺との出会い
第1話:スポーンしたら空の旅
白く染まる視界。
最初はそれが何か分からなかったが、三徹した後に外に出た時と同じ感覚にすぐにそれが陽の光である事を理解した。だけど、それは妙に近くて――数秒足らずで今居るのが上空だということを知りついでに落下してることも知ってしまった。
「うぉぉぉぉ――おち、落ちてる!?」
「空の上ですが失礼しますセツラ様、そういえばジョブを決めてなかったので今決めて下さい」
浮遊感と落下する感覚に身を任せていると空に穴が空き、さっき会ったばかりのコクマーさんが出てきた。
「この状況で!?」
「……そうですが、何か?」
何を当然のことを? と言いたげな顔で言われたが、さてはこの人アホだな?
――というか、下に付いてからで良くない? えっとアレだぜ? このままいけば俺は落下死コースだ。
この世界がどれだけリアルに寄ってるか分からないが、リアル寄りだったら高い所から落ちた際のダメージがあってもおかしくないだろう。
つまりはピンチ。この状況で百はあるとされるジョブを選べとか正気の沙汰ではない。
「というか、なんっだこれ!」
助かる術を探すために周りを見渡した途端に目に入るのは異常な光景。
何があったって? そんなの言葉にすれば単純だが、現実では決して見れないような光景だ。
空に機械で出来た島が浮かんでいるのだ。
あまりにもメカメカしい到底浮くような物ではない島――その傍を飛ぶのはドラゴンで、奥の方にはあまりにも巨大な山々がそびえ立っている。
挙げ句の果てに空を見上げれば、太陽らしきモノの中に街があった。
あまりにもあんまりなファンタジーの光景。
だけど、感動してる時間は無い。
だって時間は一刻を争うというか、落ちたら多分死ぬわけで――。
「あとでもいいか!? 生きてたら決めるから!」
「了解しました。それではしばしの空の旅をお楽しみ下さい」
それだけ言って何処かに消える鬼畜AIコクマーさん。
これさ、地面に下ろしてって言えば助かったパターンかな? ……と、そんな事を思いながら迫る地面の恐怖に俺の意識は暗転した。
土の感触、現代ではあまり嗅ぐことの出来ない草の香り。
ついでに顔にあたるざらざらとした感触に俺は目を覚ました。
「起きて下さい、セツラ様時間が押してます」
そんな中、誰かに声をかけられる。
「うっつ、生き……てる?」
呻き声を上げながら起き上がれば、何かが離れる様な気配を感じた。
そして近くで机を広げてコーヒーの様な者を飲む鬼畜AIの姿も見つけた。
「はい、生きておりますので早速ジョブの方を」
「なんとなく思ってるんだけどさ、コクマーさんって天然?」
「……?」
はて? ……とも言いたげに首を傾げる美少女鬼畜AI。
その仕草は可愛らしいが、さっき死にかけた俺からしたらたまったものではない。
「あ、どうぞお座り下さい」
「――おっけー大体分かった。約束? してたし早速ジョブ決めようか」
椅子に座れば出てくる職業欄。
とりあえずどのぐらいあるか確かめる為にスクロールしてみれば十秒ぐらいかかった。多過ぎね? とも思ったが、それだけの自由度があるって事なんだろうな。
とりあえず一通りみて俺が決めたのは戦士系職の侍というジョブ。
DPSは平均より高めらしく、刀を使えるという点と、パリィの際のカウンターに補正がかかるという文言から選んでみた。
「そういえばコクマーさん種族間にステータス補正とかあるのか?」
「ありますよ? セツラ様の人間でしたら
「了解――それだけ知れれば十分だ」
そこまで決めて知ったところで俺はステータス画面を開いてみた。
————————————
PN:セツラ
LV:1
JOB(職業):侍
HP(体力):46
MP(魔力):9
SP(スタミナポイント):20
STM (持久力):16
STR(筋力):18
DEX(器用):17
END(耐久力):12
AGI(敏捷):16
INT(魔知):8
TEC(技量):19
VIT(生命力):13
LUK(幸運):28
スキル:居合い――鞘に刀を収めれば発動可能
御霊:まだ生まれていない
————————————
視界内に映る詳細なステータスはそんな感じ。
現在のモノはそんな感じであり、見た限りこの画面からステータスが振り分けれる感じなのだろう。そういえば、見慣れないステータスに魔知というのがあったが、これどういうモノなのだろうか?
「あのコクマーさん、一つ質問してもいいですか?」
「はい大丈夫ですが」
「えっと、魔知ってどんなステなんですか?」
「魔法に関連するものです。これにステータスを振れば魔法の威力が上昇したりMPが増えたりします」
そんな事を聞きそれを覚えておくことにした俺は早速このゲームを楽しむために進もう! と思ったんだが完全に聞くのを忘れていたことがあった。
「そうだコクマーさん御霊っていつ使えるんだ?」
今思えばこのゲームの醍醐味の御霊システムについて俺は何も知らない。
せっかくのこのゲームの独自のモノなのだからと情報を遮断していたが、最低限の事は知りたい。
「それは知りません」
「え?」
「御霊が生まれる条件は個人によって変わるので、貴方の意思次第ですね。そうだセツラ様、私はそろそろ図書館に戻ります。ではまた何かありましたら、よろしくお願いしますね」
言いたいことだけ言って帰ってしまうコクマーさん。
彼女は出てきたときと同じように空間に穴を開け何処かに消えてしまった。
色々気になる事はあるが、彼女にはプレイヤーの案内という仕事があるししょうがないだろう。
「とりあえず配信開始するかリスナーも待ってるだろうし……」
チュートリアル? も終わったことだし俺はVR機械である『ゆりかご』に付いている配信機能を使って配信を開始した。
「というわけでお前等、エタファン配信始めていくぞー」
配信を開始すれば視界の端にポツポツとコメントが流れ始めた。
こんな平日に暇だなと思ったが今の時間的に夜ぐらいだし不思議がる事でもないか。
[今晩ちゃー]
[当選してたんだおめ]
[前に言ってた重大発表ってこれか]
[発表するって話は?]
あの人参縛りの前にそんな告知をしてたような気がしたが、アレがトラウマになってて完全に忘れてた。
本来の予定では利用権を買った段階で伝える予定だったが、待ちきれず始めちゃったんだよな。
「――すぅー、えっとあれだ。ほらあれサプライズ、皆に隠しておいてビックリさせるつもりだったんだよ」
苦しいかも知れないが、うちのリスナー達なら信じてくれるはずだ。
というか察してくれると嬉しいな……とかそんな期待を込めてそう言ったのだが……。
[ダウト]
[これは忘れてたやつですね]
[誤魔化すの下手過ぎん?]
[罰としてまた人参だな]
それだけは嫌なんだが?
この神ゲーで縛りプレイするつもりはないからな俺。
「まぁこれからはこのゲームの配信がメインになるが、内容としては俺がいつも通り全力で楽しむって感じだと思う。ネタバレとかは基本禁止で頼むぞ」
内容を伝えて、あとは注意事項の説明。
ずっとやりたかったゲームだし、ネタバレは極力して欲しくない。
[ネタバレ出来る奴が少ないんだよなぁ]
[マジで羨ましい]
[了解]
コメントを見てそれもそうかと思いながら俺はスポーン……というか落ちてきた森の中を進んでいたんだが、歩いていてあまりに動きやすさに驚いた。
今までやってきたフルダイブ型のゲームは慣れるまでに多少の時間がかかったが、このエタファンは一切それがなくマジで現実の体を動かしている感じなのだ。
それに少し感動していると、俺は森の中に複数動く影を見つけた。
「プレイヤーか?」
ここって多分初期スポーン地点だろうし、団体なのを考えるにプレイヤーかも知れない。それにここを狩場にしている人かも知れないし……色々聞けるかもって思ったんだが――。
[緑色のプレイヤーだね]
[それに背も低い]
[棍棒持ってるよ?]
[ジョブに野生児とかあったっけ?]
[団体様だぁ]
[どう見ても敵MOBですね対よろ]
そこにいたのはある意味ファンタジーの代名詞である緑肌の魔物、色んな所で有名なゴブリン達だった。
初エンカの魔物はスライムがよかったなとか思いながらも明らかに敵意を持ったそいつに俺は初期装備の刀を構える。
「これ以上仲間を呼ぶとかしないでくれよ?」
記憶の彼方にあるゲームでの縛りプレイでの思い出、仲間を呼び続け四方八方から俺をボコボコにしてきたゴブリンの事を思い出し、そんな事を切に願った。
「じゃあ初戦闘やってくぞ!」
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