第4曲 僕たちの日常
今回は僕たちの日常を紹介しようと思う。それでは、演奏スタート!
改めまして、僕らは世間で言えば、田舎のごく普通の中学2年生。朝起きて、朝食をいただき、登校する。僕たちの通っている中学校は女子はセーラー服、男子は学ラン着用する。ごく普通の学校だ。1時間目から4時間目まで授業を終えたら、待ちに待った給食だ。食べ盛りの中学生は米一粒も残さない。その後は昼休みがあり、掃除がある。ここ宮崎県では変わった風習がある。掃除の時に女子生徒のみ”もんぺ”という服装を着用する。スカートを中に入れ込むことでパンツスタイルになり、スカートが汚れずに清掃できるという優れものだ。昔、男子生徒が清掃中の女子生徒にいたずらすることがきっかけで戦時中に着用されていた”もんぺ”が採用されたらしい。それぞれの担当の清掃場所があり、僕は出席番号が後ろの方なので自分の教室を清掃することはない。たいてい外での掃除だ。中庭を清掃していると、聞いたことがある声が聞こえてきた。
「だからさー。そのとき先生が言ったんだけどー」
西野さんだ。そして、その隣には長町さんと益満さんがいる。そう、この3人は仲良し。長町さん、益満さんは木管パート、西野さんは僕と同じ金管パート。チームは違っても地上では仲良しなのか仲良しのように振る舞っているのか。僕にはわからない。意外な組み合わせでしょ?僕も初めそう思った。彼女たちはもんぺを着用している。僕は掃除が終わり、教室に帰る途中の廊下で
「昨日、ミュージックTV観た?」
泥谷中尉こと泥谷さんと
「観てない・・・漫画読んでた」
何でだよと突っ込まれながらも笑っている泥谷軍曹こと泥谷さん。つまり、ダブル泥谷さんと
「塾だったから観てない、上野ちゃんは観た?」
と内村さんが言うと
「観たよお」
と上野さんがほんわかと答えた。この4人も仲が良い。
廊下の反対側から来たのは双剣の2人。
「今日の数学の宿題やってきた?」
日髙さんが言うと、恵利さんが
「え?なにそれ?」
と寝耳に水状態だった。2人は地上でも仲が良い。その後ろを島埜内(しまのうち)さんと松井さんが歩いている。みんな2組か3組だから仲が良いな。僕は1組だから何だか寂しいな。
おっといけない。5時間目が始まってしまう。僕は自分のクラスに帰った。僕に友達はいるのかって?心配してくれてありがとう。安心してくれ。僕に友達はいる。堺君だ。堺君はたくましい体格(ふくよか)で少年ジャンプが大好きな男子だ。ちなみに彼女がいる。僕には彼女がいるのかって?ははは。わかるだろ、彼女はいない。しかし嘆くことはない。大半の男子は彼女がいないのだから。君も落ち込むことは無いって・・・誰に話しかけているんだ僕は。席に着くと、社会の先生が教室に入ってきた。社会の先生は50代くらいの男性で強い光を遮るために色のついた眼鏡をかけている。この先生は板書しない。難しい言葉は板書してくれる。教科書は一切見ない。
「皆さん、なんで教科書見ないのかと思っているでしょ?私の授業はね、受験用なんですよ。受験問題をベースにしているから大丈夫ですよ」
実際、この先生の話は面白いと思っている生徒とちんぷんかんぷんな生徒に分かれる。僕は前者だ。そして、テストも難しい。60点取れたら良い方、80点取れたら優秀な方だ。僕はこの先生が社会の先生で良かったと思う。話が面白いし、相性が良いと思う。
キーンコーンカーンコーン。
終了のチャイムだ。今日は5時間目まで。これから各々部活動の時間に入る。今日は西野さんに練習した音階を聴いてもらわなければならない。僕たちの部活動の時間が始まる。
ポイント:天国の島
「中原君、あんたが最初にチューバを吹いたときにイージスの盾が展開されたことは偶然なの!もともと、チューニングされていたの!」
西野少佐が自身の腰に手を当て、前のめりになって言う。
「イージスの盾?チューニング?」
ちんぷんかんぷんの僕に西野少佐が説明してくれる。
「いい?イージスの盾の説明よりも先に、チューニングの説明をするよ!チューニングとは、音の高さを合わせること。自身の楽器のチューニングもそうだけど、他の楽器と演奏する前にもチューニングするよ。その場合、コンサートマスター(楽団で一番偉い人、部長)か各パートリーダーが先に音を出して、それぞれの楽器がチューニングする音階の音を出すよ。ちなみに、低音の楽器は最後のほうに音を出すよ。そして、自身の楽器のチューニングは、このチューナーという機械を使って測定する。チューバの”ド”はB♭、音が合っていれば、チューナーのランプが緑色になる」
とチューナーという機械を渡された。
「このチューナーという機械にはメトロノーム機能もついている」
「メトロノーム?」
と僕が疑問をまた投げかける。
「メトロノームとは一定のテンポで音が鳴る、この音に合わせて演奏するの。テンポが60だった場合、一分間に60回、4分音符を・・・」
算数が苦手な僕には何が何やら・・・。でもとりあえず、チューバは低音の楽器、ベースだからクラリネットのような難しいメロディーや表現はないことがわかった。
「中原君、なんとか(チューバ)やれそう?」
と西野少佐は僕の顔を覗き込んで気にかけてくれた。
「は、はい。なんとか・・・」
たどたどしく答えた僕は彼女に目線を合わせられなかった。西野少佐、良い匂いがするし、顔も小さくて、身長も高くてプロポーションもいい。僕って実はこういうタイプの女性に弱かったりするのかな?
すると、突然、西野少佐の電話が鳴った。
「はい、今日はここまで!」
西野少佐は片付けに入った。僕は彼女に
「ありがとうございました」
といって僕たちは解散した。
ポイント:じゅげむ
パーカッション海兵隊本部があるピラミッドのそばにヘリが着陸した。砂嵐が巻き起こり辺りは砂、砂、砂。エジプトにあるような無菌状態の砂がサラサラサラとベールとなってヘリを舞台の幕が上がったように演出していた。砂埃が止むと操縦席から益満中佐が出てきた。
「相変わらず乾燥しているね。ここ」
その次に出てきたのは
「緑豊かな、うちの島とは違うのよ」
と長町大佐だ。今回、2人がここに出向いたのは他でもない。パーカッション海兵隊との同盟を結ぶ交渉をするためだ。この同盟が成立すれば、金管に圧倒的有利になる。極秘の会談の為、長町大佐と益満中佐の2人で赴いた。
「フルートの守部伍長はまだしも、サックスのあの2人が同盟に賛同するなんて思わなかった」
情報漏洩を防ぐため、前日に木管パート内で各楽器のリーダーと協議して、承諾のサインをもらっている。
「泥谷中尉の目的は、おそらく私を部長候補筆頭から引きずりおろすことだから、この同盟のことは、阻害する意味は無いって思ったんでしょ」
長町大佐は考察を述べる。
「本当の敵は身内ってこと?」
益満中佐は砂漠を歩きながら問う。
「ふふふ」
長町大佐は笑いながら答える。
「敵?あの子は敵にもならないよ。そう、あの子以外も、誰も、私の敵じゃない」
「・・・」
益満中佐は言葉が出なかった。そして横目で彼女を静かに見ていた。
「つーか、砂漠歩きづらいんだけどー!」
長町大佐、砂漠の中心で文句を叫ぶ。
ポイント:ネストリアン・モニュメント
泥谷中尉はブチギレていた。長町大佐と益満中佐がヘリに乗り込む出発前に内村大尉が長町大佐の靴につけた盗聴器でさっきの会話を全て内村大尉と泥谷中尉は聴いていたのだ。泥谷中尉は壁に八つ当たりした。壁には泥谷中尉の拳の跡がついた。
「はぁ?マジでふざけんな!バカにしやがって」
そんな泥谷中尉を少し距離を取った場所で腕組みしながら見ている内村大尉。
怒っている泥谷中尉の電話が鳴った。
「何?こんな時にっ!」
泥谷中尉が怒りの口調で電話に出た。
「はい!もう!今それどころじゃ・・・え?」
その時、泥谷中尉は内村大尉と目を合わせた。そして、ニヤリと笑った。
ポイント:天国の島、浮遊航空艦にて
「チューバのイージスの盾のシステムをこの浮遊航空艦に使う・・・。うーん」
設計図を見ながら悩んでいるのは泥谷軍曹と上野曹長だ。そして、その後ろには新入部員の小野がちょこんといる。2人はメカニック担当ではないが、このきな臭い状況下において技術開発は急務である。
「とりあえず、西野少佐に今できているものを見せよう」
と泥谷軍曹が言うと白いシフォンのスカートをひらりとなびかせた上野曹長が
「そうだねえ」
とゆるく言った。その時、中原との練習中に電話を貰った西野少佐が自動ドアから足早に現れた。表情が強張っている。
「どうしたのお?西野少佐あ?」
上野曹長が話しかけると西野少佐はガクガクブルブルしながら答えた。
「どうしよう、中原君が・・・中原君がっ・・・!死んじゃうかもしれない・・・」
上野曹長と泥谷軍曹の頭の上には?マークがついた。
その頃、地上では何も知らない中原は練習が終わったので自宅に帰っていた。両親は共働きで妹がいる。妹は小学6年生で部活動がないため、中原より早く帰っている。そして、犬を飼っている。黒い毛並みの栗色の麻呂眉がチャームポイントの犬だ。家族が帰ってくると尻尾をブンブン振り回して喜びを表現している可愛い犬だ。ちなみに、雄である。そんな犬をなでながら微笑んでいる中原にいったい何が迫っているのか。
ポイント:じゅげむ
暗いピラミッドの中で交渉が行われていた。石壁に照明の火、長方形の木製のテーブルに木管帝国陸軍とパーカッション海兵隊、両陣営のパートリーダーが座っていた。パーカッション海兵隊のリーダーの松井少尉はガクガクブルブル震えていた。その後ろで控えている島埜内一等兵と新入部員の柳田も震えていた。そんな空気の中、口を開いたのは強気な長町大佐だ。
「どうかな?パーカッション海兵隊にとって、この同盟は良いものになると思うよ?」
「あわわわわ」
言葉を出そうと思ったら、”あわわわわ”という言葉が出てきた松井少尉は勇気を振り絞って断ろうと思ったときだ。
プルルルルルル!
益満中佐の電話が鳴った。
「誰?交渉中の時に」
そう言う長町大佐の機嫌が悪くなった。益満中佐は席を外して、廊下に出る。
長町大佐の機嫌が悪くなったことで、ますます断りづらくなった松井少尉は冷や汗をかいていた。
「で?返事はもちろんオッケーだよね?」
「あはははは」
どうしよう・・・断りたいのに・・・。と松井少尉はどうやって切り抜けるか考え出した時、廊下で電話をしていた益満中佐がドアを力強く開けて入ってきた。
「益満中佐、もっと静かに入ってこれないかな?交渉中だよ?」
「ッ!それどころじゃなくなった!」
間髪入れずに益満中佐は言葉を発した。そして、長町大佐の耳に電話で受け取った情報を伝えると
「松井少尉、ごめんね。交渉の続きはまた今度」
と長町大佐は言葉を残して足早に去った。長町大佐たちが出て行ったのを確認すると
「はぁ~」
と松井少尉たちの気が抜けた声が室内に響き渡った。3人はしばらく静寂に包まれた後、島埜内一等兵が口を開いた。
「でも・・・何があったんだろう・・・」
ピラミッドから出た長町大佐と益満中佐はヘリに向かっていた。
「まさか、卒業から2ヶ月しか経っていないのに・・・このタイミングで元将軍が来るなんて・・・」
次回、第5曲 「元将軍襲来」
僕たちの演奏は続く。次回もお楽しみに!
※この物語はフィクションです。
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