第2曲 ようこそ!金管航空宇宙作戦隊へ!

 ポイント:天国の島、浮遊航空艦内ブリッジにて

 僕はその後、泥谷さんとトランペットの恵利さんと日髙さんに回収され、空にある天国の島と呼ばれているところへ連れて行かれた。

 いや、連行されたと言って良い。僕は浮遊航空艦のブリッジにいる背の高い(170㎝はある)少女の前に引きずり出された。

 自分よりも背が高く、司令官の席に座る少女はただ者ではないとわかる。

 顔は小さく、細身で、色白である。

 その少女は口を開いた。

「馬鹿じゃないの!?」

 僕は咄嗟に

「え」

 と間抜けの顔をしていた。

「え?じゃないでしょ!あんた死んじゃうかもしれなかったのよ!」

 まさか心配されるとは思ってもなかった。怒られるとは思っていたけど。

 少女は

「あんたの名前は?」

「中原です」

「学年は?」

「2年です」

「はぁ?!タメ!?」

 言いたいことはわかる。同じ学年に見えないんだろう。僕の顔が童顔過ぎて。

「私は西野少佐」

 西野少佐、中学2年生。金管楽器パートのリーダーであり、金管パート唯一の将校クラスである。身長は170㎝、細身で色白の小顔の女の子。肋骨服(ろっこつふく。軍服の様式の一つ。胴体前面に横向きの飾紐が複数本付くデザインのもの)は真っ白い生地に金色の縄がついている。長めのタイトスカートで大人っぽい。二つのお下げをして、少し縦長の帽子をかぶっている。担当楽器はユーフォニアム。少佐専用楽器。中距離戦を得意とする。銀色のボディの楽器である。チューバを元にして作られているが、ユーフォニアムはチューバよりも小型で音域はテナーである。ピストンバルブというボタンのようなもの押すと空気の流れを変える装置で音を変える。この仕組みはトランペットやチューバにも採用されている。

 西野少佐のそばにいた少女が

「わたしは上野曹長、よろしくねえ」

 上野曹長、中学2年生。西野少佐の補佐ポジにいる女の子。身長は西野少佐より遙かに小さい。色白で色素の薄いブロンドのような髪と瞳は生まれたときからである。学校には地毛の申請をするレベル。ほんわかしているが芯の強い子。白の軍服に差し色で水色が入っている。白のシフォンの長めのスカートを合わせている。担当楽器はホルン。曹長専用楽器。近接、中距離戦を得意とする。金色でカタツムリのような丸みを強調したフォルムの楽器。マウスピースは金管楽器の中では一番小さい。ロータリーバルブというボタンのようなもの押すと空気の流れを変える装置で音を変える。中音域で音色は柔らかい楽器である。

 西野少佐の紹介が入る。

「君の後ろにいるのが左から恵利上等兵、日髙上等兵、泥谷軍曹だよ」

 恵利上等兵、中学2年生。担当楽器は金管楽器の花形トランペット、1stのポジションの女の子。トランペット双剣のひとり。近接戦を得意とする。彼女の母親はピアノ教室の先生である。中原は小学1年生の時に短い期間であったが、そのピアノ教室に通っていた。明るい感じの女の子。白の軍服に差し色で水色、スカートはひらひらのミニスカートである。少し長いお下げをしている。

 日髙上等兵、中学2年生。担当楽器はトランペット、2ndのポジションの女の子。トランペット双剣のひとり。近接戦を得意とする。この地域では珍しいマンション暮らし。恵利上等兵と同じような明るいテンション。陽キャと陰キャの中間にいるどちらともうまく立ち回れるタイプ。軍服は恵利上等兵とお揃い。短めのお下げをしている。

 泥谷軍曹、中学2年生。担当楽器はトロンボーン。長い伸縮管をスライドさせて、そのポジションで音階を変化させる。勘の良さと訓練したことで得られる慣れが必要な楽器である。中距離戦を得意とする。狙撃の技術もある。中原とは小学校が同じで小学2年生の時に沖縄県の学校に転校し、中学校入学と同時に中原と同じ中学に通うことになった。健康的な肌と生命力溢れる黒い髪の毛、赤い四角い縁の眼鏡に白の軍服に、スカートはひらひらのミニスカートで水色のチェック柄が入っている。オカルトが好き。木管に泥谷中尉がいるが同じ苗字で年齢が同じだけである。

 西野少佐が中原に問う。

「中原君、あんたは何者?」

「僕はさっき名乗ったとおり、ただの中学2年生。その質問から察するに、なぜか僕は疑いをかけられているみたいだ」

 西野少佐は司令席に座り、足を組んで話し始める。

「中原君。ここがどういう世界かわかっていないようだから説明してあげる。ここは現実の世界じゃないけど現実の世界と似たような世界。聞いたことない?地球には地底世界があるって話。小説やSF作品の話に出てくるような世界が今、私たちがいるこの世界。地上では私たちの通っている学校がある日常の世界。私たちは放課後になると部活と称しながら、この世界で覇権争いをしている。空を支配する私たちのいる金管航空宇宙作戦隊。大陸を支配する木管帝国陸軍。海を支配するパーカッション(打楽器)海兵隊。この三つ巴の戦争を勝ち抜かないといけない」

上野曹長が言う。

「格好良く言ってるけど、要は吹奏楽部の部長を決めるってことお。階級が上になるほど部長の座に近いってことお。」

恵利上等兵が補足する。

「そして、現時点での最有力候補は長町大佐ってこと」

 中原が問う。

「部長になって、覇権を手にした人が得られることって何があるの?」

「うーん、簡単に言うと人生がイージーゲームになる。どんな願いでも叶う。出世は約束されているし、女一人でも生きていけるし、この時代だと結婚できるかわからない。男性一人に家庭を支える力がなくなっているみたいだし、共働きも増えているからね」

 彼女たちは先々のことまで考えていたのだ。まだ中学2年生なのに。覚悟を持って己の未来をつかむために、この戦いに挑んでいるんだ。

「あたしが何者?って質問したのは、中原君は木管や打楽器から送り込まれたスパイじゃないか?ってことを言いたかったの。戦闘状況に介入した以上、中原君も無関係ではなくなった。あたしは中原君に金管の仲間に・・・チューバを担当してほしいと思っている」

 西野少佐の言葉に中原が応える。

「僕は木管や打楽器のスパイじゃない!これだけは本当だ。僕は皆さんの役に立ちたい。だから、チューバをやらせてください!」

 その言葉を西野少佐は歓迎した。

「よかったー!実は、チューバをやる人がいなくて探していたの。見つからなかったら、あたしがすることになっていたから助かったわー」

「え」

 ぽかんとしている中原に駆け寄り、ニコニコした西野少佐が中原の肩をたたく

「ってなわけで、よろしくねー!新入りっ!」

「・・・・はい」

 実は大きいくて重いチューバは人気のない楽器でたいていの吹奏楽部の場合、男子に押しつけられる楽器だと中原はこの時初めて知ったが、自分から志願したので不思議と嫌な気分にならなかった。

 中原(階級は民間人)。中学2年生。あだ名は中原君。本編の主人公。小学1年生の時にピアノを習っていたが全く弾けない。楽譜の読み方もまだ知らない。泥谷軍曹を追って吹奏楽部に入部した。金管のほとんどのメンバーとは顔見知りだが、西野少佐は初めましてだった。SFのアニメや映画が好き。チューバを担当する。チューバの特徴は黄金の輝きと大きなラッパ口の見た目、そして柔らかい低音である。チューバはユーフォニアムの兄弟機である。他の楽器にはないパワーと最高峰の防御を得意とする。元大将専用楽器を使用する。

「みんな、ご苦労だった、チューバとその奏者、両方手に入った!これは我が部隊の大きな収穫となった!チューバ回収作戦は成功だ!」

 西野少佐はニカッと笑ってご機嫌だった。



 ポイント:ネストリアン・モニュメント

 木管帝国陸軍の本部である西洋の城がある。まだ謎が多い場所である。今日は天気が良いから城のテラスで木管楽器の奏者全員集まって優雅にお茶会をしていた。円卓の上には英国式アフタヌーンティーが並べられていてスコーン用のジャムが色とりどりあり、花も咲き誇り、春の陽気に小鳥たちが歌っていた。奏者は各々雑談を交わしていた。

「このいちごジャムおいしー!」

 長町大佐、中学2年生。吹奏楽部の現時点のトップ。ちなみに階級は個人の資質と成績によって決められる。物怖じしない性格でリーダーとしての資質を持っていることから一目置かれている。担当楽器はクラリネット。大佐専用楽器を使用する。漆黒の塗装に銀色の金具がついており、そのクラッシックなデザイン性から女子に人気の楽器である。マウスピースにはリードと呼ばれる暖竹を挟み使用する。リードは奏者の好みによってヤスリなどで削られたり、湿気や天候による調整も必要な道具であるため奏者が最も神経を使う部分である。独特の音色を奏でる。長町大佐の外見は真っ直ぐの黒髪おかっぱ、はっきりとした大きな瞳、林檎のように染められた暖かな頬、将校の肋骨服の色は全体的に黒で銀色の糸が使われている。ミニスカートが彼女の活発さを表わしている。

「そう言えば、聞いた?この間見学に来ていた中原君入部したらしいよ」

 益満中佐、中学2年生。クラリネット担当。中佐専用楽器を使用する。芯の強い女子。黒の肋骨服に銀色の糸がまるでクラリネットの金具のようだ。ミニスカートは長町大佐と同じもの、2人は仲が良い。長いお下げをしていて、顔はバンビのように小さい。その上、目鼻立ちがはっきりしているため、なおバンビ感が半端ない。

「私たちと同学年だけど後輩ってことになるのかなー?複雑だよねぇ」

 内村大尉、中学2年生。アルトサックス、テナーサックスなどを自在に使いこなす。サックスもクラリネット同様、マウスピースにはリードを使う楽器。外見は黄金色の華やかな見た目のボディ。吹奏楽以外にもジャズで使われるオシャレな楽器で人気も高い。高い音階(ソプラノ)から低い音階(バス)まで個別の楽器が存在する。内村大尉は狙撃が得意で学業でトップの成績のため一目置かれている。くせっ毛のボブヘアで髪型とかオシャレに興味がないように見える。黒の肋骨服に黒のフード付ポンチョを重ねている。黒の長いスカートのコーディネート。物腰柔らかで穏やかだけどさばさばした性格の少女。

「中原君ねー。一応知ってはいるけど」

 泥谷中尉、中学2年生。アルトサックスを担当。黒の肋骨服に短すぎる黒のスカートを合わせているため度々注意される。恋愛系の携帯小説の愛好家。同じ名字の泥谷軍曹とは姉妹でも親戚でもない、ただ名字が同じなだけ。

「・・・・・」

 守部伍長、中学2年生。無言でスコーンと紅茶を味わう。必要以上に語らない孤高の眼鏡姫。フルート、ピッコロ担当。フルートは演奏の飾りの役割を担う。銀色の横笛を持てば、誰もがお姫様になれる。ピッコロはフルートより高い音が出る楽器。そのためフルートよりボディが小さい。眼鏡の奥の大きな瞳と長いまつげが儚さを醸し出す。髪は真ん中分けのお下げがふたつ。黒の軍服にドレスのクリノリン(鯨の髭を使って籠状に組んだスカートを広げるためのもの)を用いたスカートを着ている。

「ところで、泥谷中尉、内村大尉。チューバの件についてどう弁解するつもり?折角、あなた達がつかんだ情報(チャンス)だったのに。これじゃあ、私を出し抜くなんて夢のまた夢ね」

 長町大佐の皮肉が効いている。泥谷中尉は冷静に答える。

「その件については弁解しようがない、イレギュラーを想定していなかった私のミスです。まさか中原君がこの件に絡むなんて誰も思わなかったでしょう。西野少尉と中原君は初対面のはず、西野少尉が仕掛けたとは考えにくいです」

「まあね。あたしたちは西野少佐と仲良いけど、とてもそんなこと考えられる子じゃない。パーカッション海兵隊はあたしたちと戦う余力は無いから介入したとは考えられない」

 内村大尉が口を開く。

「まさか・・・」

 そこに割り込むように泥谷中尉が

「では、我々はパート練習がありますので」

 そう言って内村大尉の手を引いて泥谷中尉たちは退席した。

 アフタヌーンティーと花と陽気な空とは似合わないほど、木管帝国陸軍は厳かな心持ちであった。



 そんな中、2つの勢力に挟まれた多国籍(個性がバラバラな人たちが集まるという意)のチームがいた。

 ポイント:じゅげむ

 パーカッション海兵隊の本部。建物はピラミッド。多国籍なので様々な文化が集まった地である。砂浜の砂が周辺を囲い海が支配する。

「金管と木管・・・どちらと同盟を組もうか・・・それか中立を選ぶか・・・」

 松井少尉、中学2年生。パーカッション(打楽器)をまとめる。くせっ毛のベリーショートで笑うとかわいい。運動は得意じゃない。のほほんとしているが、秀才。あまり前に出るタイプではない。そのため、金管と木管の板挟みに悩んでいる。パーカッション海兵隊は海兵らしくセーラー服を着用する。素材はカスタムできる。松井少尉は麻の素材を使った南国らしいセーラー服だ。

「・・・・どっちについてもどっちかを敵に回す。中立に1票」

 島埜内(しまのうち)一等兵、中学2年生。お茶目なゴースト少女。色白の肌と大きな黒い瞳。セーラー服をゴシックに改造している。

「・・・・・・・」

 2人しかいない空間に静寂が漂う。

「・・・・・・・・・・・早く、新入生入ってこないかなあ」

 松井少尉は光の差し込む天井を見ながらぼやいた。



 ポイント:ネストリアン・モニュメントの敷地内の物陰

 内村大尉が食ってかかる

「泥谷中尉、あの時どうしてっ!」

「シーーーーーーーッ」

 泥谷中尉は全身を鳴らすような音を出した。

 お互いの目を見る。

 泥谷中尉は不敵に笑って

「頭の良い内村大尉は気づいたんでしょ。私たちだけじゃないって」

 内村大尉が

「まさか中尉!」

 胸ぐらをつかまれた泥谷中尉が発言する。

「大人しい内村大尉が暴力とは珍しい。協力して下さいよ。私たちが組めば最強になる。有力候補の長町から部長の座を奪うのです」

 突然、気持ち悪い丁寧なしゃべり方をする泥谷中尉に内村大尉が

「長町大佐は仲間だろう!」

「だから?」

 その発言に内村大尉は目を見開いた。

 泥谷中尉の目は据わっていた。

「木管帝国陸軍の現時点での主戦力は内村大尉、あなたです。長町大佐の圧力はあなただって嫌ですよね?」

「政権交代が目的か?」

「違います。目的は部長の座を勝ち取ったその先にある。我々はそこを目指している」

「我々?」



 ポイント:天国の島

 僕、中原は今、西野少佐に音階と指番号を教わっていた。ピストンバルブが採用されているチューバやユーフォニアム、トランペットは指番号が同じであるため、一度覚えてしまえば3つの楽器が弾けるようになるのだ。

「これを覚えて、正しい音程を出して、この教本の短い練習曲がスラスラとテンポを守って弾けたらひとまずオッケーかな。その後に課題曲をやらないとね。コンクールには間に合わせないと」

「コンクール?」

 僕が問うと西野少佐が

「また今度教えてあげる。それよりまずは指番号覚えて」

「はい」

 西野少佐の通信機に着信が入る。

「ちょっとごめんね」

 と僕に断りを入れて電話に出る。

「はい、私です。・・・・はい・・・・・本当ですか?わかりました」

 電話を切ると

「ごめん、用事が入ったから。1人で練習してくれる?」

「はい・・」

「本当にごめんね!」

 と言って西野少佐は出て行こうとして、扉が閉まる直前にひょこっと顔を出し

「中原君!ようこそ!金管航空宇宙作戦隊へ!」

 そう言って笑った西野少佐はツインテールをクルンと揺らしながら出て行った。

 正直・・・・・・・かわいいなと思った。


 真っ暗な部屋の中で鳴り響く音。

 プルルルルルルルるぅ、プルルルルルルルるぅ、ガチャリ。

「はい、中原です。・・・・・はい、はい。潜入完了、今のところ順調です。セカンドフェーズに移行します」






 次回、第3曲 ドラフト会議。

 僕たちの演奏は続く。次回もお楽しみに!


 ※この物語はフィクションです。




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