SF吹奏楽部!

中原立案

第1曲 チューバ回収作戦

 春休み明けの中学校には桜吹雪が空を舞って砂利道が見えなくなるほど降り積もっていた。休み明けの中学生たちが楽しそうにそれまで会ってなかった友達に声をかけていたり、先生たちにワクワクした声で挨拶していた。外からでもわかるくらい教室は生徒の活気があふれていたり、靴箱には人が混雑していた。

 僕は中原と呼ばれている。この春から中学2年生だ。そして部活は帰宅部だ。中学1年生の時に一緒のクラスの女の子を好きになった。その女の子とまた同じクラスになったら良いなと思っていた・・・がっ・・・・・。

「別々のクラス・・・?」

自分のクラス表にあの子の名前は載っていなかった。

「何でだあああああああああああああああああああああああああああああああ」


-SF吹奏楽部-

開幕


 そこには冷たく重い空気が漂っていた。

倉庫には開発者たちがいた主任らしき男が極秘回線をつなげていた。

「西野少佐、例の物の受け渡しはどうしますか?」

サウンドオンリーの画面から西野少佐の表情はわからない。少し間があった後に息を吸い込んで話し始めた。

「将軍の引退後、後継者がいないから受け取ってもなぁ」

表情はわからなくともため息の大きさや長さでよほど扱いづらい代物だとわかる。

主任の男が

「それは将軍が・・いえ、チューバが人気がないということでしょうか?」

「人気もそうだが、自ら進んでやりたいという子はいないでしょ」

通信中に突然鳴り響く警報音で主任の男はビクッと体を震わせた。

ビービー!

西野少佐が

「まさか奴らに見つかったの!?」

部下からの詳細を聞いた主任の男が

「そのまさかです!しかも特殊部隊だそうです。少佐、例の物は緊急用のロケットを使用して小型空輸機を発射し、天国の島に届けます!」

「頼んだよ、あれだけはなんとしても奴らに渡しちゃだめ!」

主任の男は通信を切り、部下たちに

「緊急用のロケットを使用する。例のものを装填、空気の圧力を地上と同じに設定しろ、西野少佐がいる天国の島まで行けば奴らは手出しできないはずだ!」

バタバタと研究員が研究資料を破棄したりデータを持ち出していた。

「西野少佐の想定した通りになったな」

「主任、研究員の待避、ロケットの発射完了しました」

「うむ、我々も少佐の元へ行こう」

その頃の特殊部隊は通信をしていた。

「中尉、やられました。もぬけの殻です。研究者たちの姿もありません。例のものもありません」

サウンドオンリーの画面から

「そうか、流石は西野少佐だ。対策をしていたか。例のものは打ち上げられたとしても、中身は無事ではないでしょ。長町大佐にはそれでも問題ないと伝えてある。案ずるな、今頃例の物は上空にある天国の島まで行っていないだろう」

その頃、実験中の浮遊航空艦の艦内。絹糸のような茶髪で明るい茶色の瞳の上野曹長がふわふわとブリッジにいるクルクルのお下げをしている長身の西野少佐に告げる。

「大変んん!」

「どうした?上野曹長」

上野は息を整えて

「それが、例の物がこの島まで届いていないのお。エンジンを狙撃され空中を漂っていますう!」

西野少佐は驚いて

「何!?」

と言った。



 僕、中原は今、喪失感でいっぱいだ。

好きな女の子とクラスが離れてしまったからだ。

僕は2年1組で、あの子は2年3組だっ。

隣のクラスならまだしも、1組と2,3組は廊下を隔てた先にある。

距離が遠い。遠すぎる・・・・・せめて2組だったら良かったのに。

そう言えば、あの子は部活に入っているって聞いたな。

何っていう部活だっけ?すいそう・・・。<すいそうがくぶ>とか言ってたな・・。

すいそう・・水槽?魚とか、水槽の部活かな・・・?

C校舎で活動しているって・・・放課後に行ってみよう!もしかしたら会えるかもしれない。

そう考えている間に始業式は終わった。始業式の日は午前中で終了なので、お昼を過ぎると部活動をしている生徒が練習を始めたり、部室に向かっていた。僕は職員室にいるふんわりとしたショートカットで老眼鏡をかけている顧問の岩永先生に午後から練習があるから見学するといいと言われて見学の許可を得た。そして、僕は体育館の近くにあるC校舎の扉を開けた。カラカラ~っとガラスの扉を開けた。1階は生徒会が時々集会で使う広々とした空間になっていた。黒板があり、反対側にはパイプ椅子が雑多に置かれていた。ここには誰もいないようだ。僕は2階に行くことにした。2階には二つ部屋が合った。階段のそばにある部屋は小さい。そして扉が開いている。僕はその小さい部屋の扉を開けた。

 そこは異次元みたいな空間だった。まるでSF映画に出てきそうな空間でコンピュータや管やらいろんなものが積み重ねられてる。

僕が圧倒されているとボロボロのロボットのようなものが近づいてきた。ロボットは僕に言った

「ようこそ。見学者の中原君ですね。よろしくお願いします」

「あ・・どうも、よろしくお願いします」

「ちなみに、中原君は入部希望ですか?」

とロボットに聞かれた。うーん。入りたいけど、入る動機が好きな子を追いかけたいからって不純かな?でも・・・

「はい!入部希望です」

ロボットはニコッとした表情をして

「わかりました。では、まず楽器を選びましょう。まずはモッカンの見学に行ってください」

僕はロボットの言葉に首をかしげた。

「モッカン・・・?モッカンって・・?」

ロボットは僕を無視し

「それでは行ってらっしゃいませー」

と言って僕を異次元?に雑に放り込んだ。

「ア、パラシュートとかってつけた方が良かったんだっけ?」

とロボットは僕を放り込んだ後にテヘッとして言った。

「うそだろ!ってか!モッカンってぇぇぇぇぇなにーーーーーーーーっっっ」

叫びながら空中を秒で駆け抜ける。

ばさばさばさばさばさーっ。森の木々に突っ込んだ。僕はムッとした。あのロボットめ・・・。覚えてろよ!枝に引っかかってた僕はゆっくり木から降りた、体にまとわりついていた葉っぱも取った。どうやらここは丘の上らしい。丘の下には町がある。町の方角へ行ってみることにした。


「中世ヨーロッパの街並みみたいなところだ」

ただ、建設中の建物ばかりで人の気配もない。

「ちょっとそこのあんた、見学者よね?」

バッと振り返るとまっすぐなおかっぱでおめめが大きくて黒の軍服を着用している女の子と同じような軍服を着ている顔の小さいお下げをしたバンビみたいな女の子が気配を消して近づいてきた。

「はい!そうです」

びっくりして声が詰まった。

まっすぐなおかっぱの女の子が

「あたしは長町、階級は大佐。この子は益満(ますみつ)中佐。よろしくね」

軍の階級?って何だと疑問に思ったけど僕は聞かず

「はい。僕は中原です。中学2年生です」

長町大佐が

「へー同じ学年だね」

益満中佐が興味なさそうに

「あんた、希望の楽器とかあんの?」

と聞いてきたので僕は

「楽器って何ですか?ピアノなら少しだけやってたことがあります」

益満中佐が

「はぁ?ピアノ?あんた吹奏楽がどんな部活か知っているの?」

僕は焦りを感じた

「っえ?水槽で楽器でぇ・・・?えんそう?するんですよね?」

その場で思いついたヘンテコな答えをした。

それを聞いた益満中佐がはぁー。とため息をついて頭を抱えた。

それを見かねた長町大佐が

「じゃあ、中原君。これ吹いてみて」

と手渡されたのが木を挟んだ黒色の物体。

益満中佐が新しいリードを使うのもったいないんじゃない?と長町大佐に小声で言う。長町大佐がしょうがないじゃん今あたしが使っているのは貸したくないし。と話していた。

「これを吹いて音が出たら、クラリネットの適性があるよー」

と長町大佐。どうやら、これはくらりねっと?という楽器の先端部分らしい。クラリネットはリコーダーみたいな形状をしていた。リコーダーには良い思い出がない。小学生の頃、僕はリコーダーが下手で何度リコーダーの補習を受けたことやら。僕は教えてもらったとおりにリードという木の部分を下にしておそるおそる吹いてみる。

「しゅこーしゅこーしゅこー」

音が・・出ない・・・・空気が通るだけの音がする。

長町大佐が自分のクラリネットの一部分を引っこ抜いてならして見せた

ビービービーッ!

「こんな音が出るはずだよ」

そうは言いますけどね!

何度吹いても空気が通るだけの音しかしないっ!

もっと強く吹けば良いのか?

「ぷーしゅこーふふふふふぷーしゅこー」

いや、鳴らない。益満中佐がリードを湿らせた?とか聞いてきたけど耳に入らなかった。僕はゼーゼーハーハーの息になっていた。しかし僕は頭で考えているよりも先に言葉に出ていた。

「お願いがあります!これをクラリネット本体につけて吹いてみてもいいでしょうか?」

良いこと思いついた!みたいなキラキラした顔で言うと、仕方ないなーと長町大佐がクラリネットの本体とくっつけてくれた。長町大佐があれで鳴らなかったのだから音が出るはずがないじゃないと言う顔をしていた。案の定・・・

「ふしゅううううううう」

楽器の胴部分の穴をふさいでも音は出なかった。

長町大佐が

「クラは難しいかもねー。じゃあ、中原君。そのリードとクラリネットの中ちゃーんとお掃除して返してね」

僕は少し悔しくて悲しくて「ふぇーん」と言いながら水道でリードを洗った。

その後サックスという楽器や、おっとりした文系眼鏡少女から渡されたフルートという楽器を吹かせてもらったが全く音が出なかった。

僕は大佐たちにお礼を言って連絡船に乗り海を渡って砂漠の大地を歩いていた。

周囲は夜みたいに真っ暗で砂漠の真ん中に四角錐の建物(ピラミッドみたいな)があった。室内に入るとドーム状になっていて天井いっぱいに星座の絵画が描かれていたり、たくさんの国の言葉・・・?が描かれていた。そこで松井少尉という民族衣装みたいなラフな感じの天然パーマの女の子に会ったが君は打楽器(パーカッション)に向いていないということで追い出された。

最後の行き先は金管楽器を扱っている人たちに会いに行かなければならない。ここで吹くことができる楽器に巡り会わなければ入部できない。入部できなければ・・・。僕は天国の島というところに行くために高軌道エレベーター(通称宇宙エレベーター)に乗り込み空を目指した。って・・・・・

「空ーっっっっ!に登っていく!」

ぐんぐん上へ上がっていく。まるで井戸からくみ上げられている水の入ったバケツが上がって行くみたいに。コップに入っている水をストローで飲むみたいに・・・・例えられているかな?地上がどんどん遠くなる。おそらく成層圏迄来ているんじゃないかな?と思うほど。機内から降りるとアナウンスで気圧の注意報が流れた。地上の気圧と合わせているのかな。でもちょっとふわふわ浮いている。重力が地上よりも軽いのかな。

そしてステーションにたどり着くとなんだか慌ただしい雰囲気を感じた。

「あれ?中原君?どうしてここに?」

と声をかけてくれたのは白い軍服に身を包んで近未来的なヘッドホン?マイクもついている耳当てを装着している泥谷さんだった。

「泥谷さん!えっと、僕・・この部に入部したくて・・・。でも変わった部活だね。まるで別の世界に来たみたいだ。アハハ」

いきなり泥谷さんに会ったから動揺が隠しきれない。大きな窓には空が広がっている。泥谷さんの赤い眼鏡に青い空が反射している。

「そうなんだ!嬉しい!・・変わった部活でだよね!いずれ中原君もわかるよ。この世界のことが」

そう言って微笑む泥谷さんの癖のある生命力があふれて一つにくくっている髪の毛が揺らめいて白いスカートがふわりと舞っている。

「ついてきて!」

と泥谷さんは言って大きなホールへと通された。その場所ではフロアに足がついた。

「窓際とここでは気圧が違うの。慣れてないと思うけど頑張ってよ」

説明してくれるのやさしい。

 すると奥から2人組の女の子たちが会話をしながら出てきた。その2人は僕のことを知っていたし僕も2人を知っていた。どちらも中学生らしいお下げをしていて、長いお下げが恵利さん、短いお下げが日髙さん。どちらも泥谷さんと同じようなコスチュームをしている。僕は2人とも小学生の時から知っている。昔、恵利さんのお母さんが開いていたピアノ教室に通っていたことがある。その知り合いだ。

仲良しな双子みたいにキャッキャッしながら恵利さんが

「えー中原君。吹部(吹奏楽部の略)に入るのー?」

 と2人ともにやにやしながら聞いてきた。

「うん・・・。まだ楽器決まっていないけど…。」

と戸惑いながら答えると日髙さんが

「はい、これ」

とクラリネットの時みたいにラッパのようなラッパより大きな楽器から口をつけるところの一部分を外して僕に渡した。

「この楽器はなんて言うんですか?」

と僕が尋ねると

「それはトランペットっていうの。ラッパの仲間みたいなものかな」

僕の予想はあながち間違ってなかった。

「なるほど。吹いてみます・・・」

大丈夫だ。クラリネットより簡易的な構造だし。これなら・・・。

息を入れると空気さえ通らなかった。息が詰まる感覚だ。

うっ!となった僕はトランペットは断念した。

泥谷さんが恵利さんと日髙さんに

「上野曹長は?ホルンを・・・」

すると通信が入ったのか。泥谷さんたちはヘッドフォンに手を当て、3人で何やらごにょごにょし始めた。すると、恵利さんと日髙さんは奥の方に走っていき、泥谷さんは

「ごめんねっ。中原君。緊急の招集がかかった。悪いけど楽器選びはまた後日に」

「泥谷さん。何があったの?」

泥谷さんはもう走り出していて

「本当にごめんっ!じゃあ!」

と言って奥の方に行った。ちょっと待ってのポーズをした僕はホールに残された。



 浮遊航空艦のブリッジに集められた精鋭たち。

司令官の席に西野少佐がいた。

「地上のヤマハ研究所でチューバを乗せた小型空輸機のエンジンが奴らに狙撃された。ここに届けられるはずだったが、その手前で足止めを食らった。これよりチューバ回収作戦を開始する。恵利上等兵、日髙上等兵は対空戦闘用意してチューバの回収、泥谷軍曹は2人の援護をしてくれ」

「はいっ」

と3人は同時に返事をして持ち場に向かった。

上野曹長が西野少佐に話しかける

「この精密狙撃って・・・」

「うん、内村大尉でしょ。相変わらず良い腕している。狙いは打ち落として強奪か破壊か」

西野少佐は少し長めの軍帽をかぶった。

「でも、うちの双剣も強い!」

うんうんと頷く恵利、日髙上等兵。

上野曹長からの通信が入った

「今日はあたしがオペレーターだよお。よろしくねえ」

恵利上等兵がちょっとあきれて言う。

「ちゃんとよろしくね」

上野曹長はにこやかに

「任せてよお。2人のために特別なトランペット用意したよお」

?の顔をする2人。

「ヤマハとの試作共同楽器、フロートシステム装着の第5世代トランペットだよお」

感動する2人は言葉を発する。

「これが!」

上野曹長が続ける

「初期起動に入るよお。プロミネンスエナジー装着、リミッター解除、奏者セットアップ、トランペット1st、2ndのエントリーを確認、個体識別情報を登録するよう」

2人はトランペットの口をつける部分マウスピースを取り出して息を吹き込んだ。

「個体識別情報登録完了、共鳴確認、チューニング(調律)完了、拒絶反応なし、奏者ストレス反応微弱、心拍数の上昇、すべて許容範囲以内、奏者スキルオールグリーンですう」

上野曹長は西野少佐を見る。うなずく西野少佐。

仲良し2人は手をつなぎ、お互いに顔を見合わせうなずく。

「トランペット1st、2nd、発艦!」

と上野曹長のアナウンスの後

「「トランペット!発艦!」」

と言って2人は空に足を踏み入れた。

「トロンボーンの発進の許可を出す」

西野少佐が上野曹長に命令する。上野曹長はモニターに向かう

「トロンボーン発進準備、プロミネンスエナジー装着、リミッター解除、奏者と楽器の共鳴確認、チューニング完了、各項目すべて許容範囲以内、フロートシステム、防御システムの展開確認、発進のタイミングは全て奏者に譲渡しますう」

アナウンス後、泥谷軍曹が

「I have control.トロンボーン、任務を遂行する」

そう言うと天空に浮かぶ島(天国の島)の端に腰を下ろす。

顔が見える構造のヘルメットから赤い眼鏡が見えた。

マイクをミュート(無音)にする。

「やっと実戦だよ。後戻りはできない。そうでしょ?内村大尉」

その言葉は空に飛んでいった。遙か彼方に。

「それじゃ、仕事を始めますかっ」

トロンボーンの長い管の先にはターゲットがいた。


 地上では

「天国の島からトランペット1st、2ndの発艦を確認。ターゲットを回収すると見られるけど・・どうする?長町大佐」

益満中佐がレーダーからの報告をそのまま読み上げる。

紅茶を優雅に飲む長町大佐。

「そのことなら、内村大尉と泥谷大尉に一任している。問題ないでしょ。それよりも私が関わっているとわかれば、戦争になる」

「もう片足突っ込んでいるようなものだけど」

と益満中佐の苦言を

「ふふふ。まぁーこれは西野少佐の采配を調査する機会だと思うの。あの子なら必ずチューバを回収する・・・いや、しなければならない理由があるからね」

そう返した長町大佐は紅茶に角砂糖を入れてティースプーンで紅茶の中の角砂糖をザクザクと真顔で潰す。

くれぐれもミスらないと良いんだけど・・と益満中佐は思った。

 ここは地上、ポイント:シャコンヌにて

コントラバスサックスが配備されていた。この楽器は日本に3本しかないと言われている。激レアの楽器である。吹奏楽をやっていてもお目にかかれない代物だ。そんな楽器がなぜかここにある。長距離周波数ビーム砲(試作機)を装備。風向や天候次第では少しではあるが天国の島に届く。その手前にあるチューバを乗せた小型空輸機が浮かんでいるところまでなら有効範囲以内だ。奏者は内村大尉。狙撃の名手だ。冷静沈着で学力もトップクラスだ。ショートカットが風で揺れる。黒の軍服の上に迷彩柄の羽織を着用している。耳にはゴシックな金属の耳当てをしていた。

そして、すでに楽器はチューニング済みだった。

「泥谷中尉、よくこんなもの拝借できたよね。まぁ、いいけど。でも、せっかくエンジンだけ破壊して中身は無事なのに破壊するなんて・・・こっちで回収できないからかな?それとも渡したくないのか・・・」

少女だが、少し少年寄りの声に聞こえる。

眼鏡をかけ、照準をターゲットに合わせる。

「ターゲット、ロックオン。破壊する」

音を出す。重低音の周波数がビームになり真上に向かって突き抜ける。竜が天空に上るように。

ビームの命中率は風向や天候、重力を考えても8割。当たれば破壊できる。

その時、眼鏡に映っていたのは天空から地上に伸びる光。その光の方が速かった。

光はターゲットのすれすれを通り過ぎる。光の通った風力でターゲットの座標が大幅にずれた。内村大尉の放ったビームは到達時間が間に合わず、そのまま横を通り過ぎた。内村大尉はハッとした。眼鏡で狙撃手の位置を特定する。そこには泥谷軍曹の姿を捉えた。その時、冷静沈着な内村大尉は嬉しそうに笑った。ワクワクしているようにも見える。

「あえて中距離戦の得意なトロンボーンを使って軌道を変えたか。あの気流?風圧・・もしかしてレールガンの試作機?・・いや、それはないか。コントラバスサックスの試作機ビーム砲の充電に結構時間がかかるな・・・。あとは泥谷中尉に任せよっか?いや、待機しておくか」

と瞳にはまだ闘争心が燃えていた。そして空を睨んだ。


 天国の島、ポイント:大ホールににて

僕はやることがないので、大の字になって寝そべっていた。

学ランにゴミがつくことがわかっていても、こんなに広いんじゃ手足手足をスライドさせてわしゃわしゃせずにはいられない。僕しかいないドーム状の大ホール・・・室内の構造は打楽器の建物と似ている。僕は起き上がって廊下に出てみた。空が綺麗だ。こんな空に島が浮いているなんて・・・。不思議だな。そう言えば飛行機もどうして飛んでいられるか説明がつかないらしい。窓際まで近づいて空を見た。ふわふわとした感覚が心地良い。まるで体に羽がついたみたいな自由さだ。僕は空を見ていて気づいた。なんと端っこのほうに泥谷さんが見えるではないか。白い軍服の上に白い防寒着を着ていて顔がはっきりみえるヘルメットをかぶっている。上が暗く下が明るいから、下からの光に照らされて輝いて見えて表情は何かを決心したような感じだ。手には金色の長い管の楽器を持っている。何をしているんだろう。なにかしゃべっている?・・・・僕も外に出たい!でも、出口がどこかわからないし、ヘルメットもない、あれがないと酸欠になるかも。円形状に沿った廊下を歩いていると、緊急時用と書かれたセット見つけた。学校の廊下にある消火栓のように。僕はヘルメットだけを取り出しかぶった。あとは出口だ。

「出口どこかなあ」

と言って窓を触るとガラスがドアの形を作り始めた。おー!と感動していると僕はドアノブを引いて外に出た。外は寒すぎた。緊急時用のセットに確か防寒着が入っていいたはずだ。僕は取りに帰ろうと後ろを振り返るとあったはずのドアはそこにはなかった。

「うそだろ・・・・・」

手がかじかんでくる。僕は泥谷さんのところへ向かった。泥谷さんなら中へ戻る方法がわかるかもしれない。急いで泥谷さんのところへ、端っこの方へ駆け寄ると僕の右側から微かなビームみたいなものが飛んできてびっくりした僕は足を踏み外した。

「えっ」

それに気がついた泥谷さんが咄嗟に手を差し伸べてくれたけど数センチで届かずに僕は放り出された。

「中原君!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

僕はまた空に放り込まれた


 泥谷軍曹は空へ駆け出し中原を追ったと同時に西野少佐に通信を入れる。

「少佐、大変!中原君がフロートシステムもつけていないのに空に!」

空を駆ける泥谷軍曹の姿がモニターに映し出される。

「え?中原?」

とぽかんとした顔でいる西野少佐に上野曹長が泥谷軍曹の言葉に補足をする。

「たしか、1人見学に来るって岩永先生から通信が入っていたようなあ」

それを聞いた西野少佐がはーっとため息をついた引きつった顔で頬杖をつき

「寝耳に水なんですけど」

と言うと上野曹長はクスクスと笑い

「よくそんな、ことわざ知っているね」

と言うと西野少佐が

「やかましい!」

と突っ込みを入れた。

そんな会話を聞かされた泥谷軍曹はそれどころじゃないよと焦っており

「泥谷軍曹、中原君を助けてあげて。チューバは双剣に任せて大丈夫だから」

と西野少佐は指令を出し

「了解」

と泥谷軍曹の言葉と共に通信は切れた。

その直後、双剣から通信が入った。

どうやら小型空輸機の外郭を外してチューバの箱を取り出したと言うことだ。

これで一安心と西野少佐は思った。

恵利上等兵から

「これより帰還します。」

「「ってえええええええ!」」

と双剣が叫んだタイミングで黒い物体が飛んできた。

西野少佐はびっくりしたの反応になっているとモニターに移っている恵利上等兵が

「チューバがない!あの黒い物体が持っていったあっ!」

日髙上等兵が

「追うしかないでしょ!」

と言っている間にビュンと泥谷軍曹が駆け抜ける。

「泥谷軍曹・・・?」

双剣は顔を見合わせて前傾姿勢になり猛スピードで追いかける。

追っていた泥谷軍曹は

「くっ!どうして追いつけないんだ!」

そしてひらめく、一か八か中原のヘルメットに通信を入れる。

「・・・なかはらくん!・・・・中原君!聞こえる!?」

その声に反応した僕は箱に抱きついたまま落下していた。

「聞こえるよ!っっ聞こえるよ!泥谷さん!」

僕は泣きそうな声で応答した。

「中原君!一か八だけど、その楽器を・・チューバを起動させてほしい!」

泥谷さんの言葉に

「どうすればいいの?」

と僕は投げかける

「箱を開けて中身を取り出してマウスピースに息を入れてならして!」

僕は泥谷さんの言われたとおりにする。マウスピースを取り出して息を入れる。

「ビューオおおお」

鳴った!初めて鳴った!

上野曹長が西野少佐に報告する。

「チューバが生体認証を開始、起動しますう!」

西野少佐は立ち上がり

「まじか!?」

チューバの起動した反応は内村大尉にもレーダーで伝わった

「チューバの反応を観測。起動したってこと?なら、なおさら破壊しないと。」

空中では

「マウスピースを本体に装着して!楽器を鳴らして!はやく!」

泥谷さんの声で焦る僕、手が滑ってうまく装着できない。

上野曹長が

「チューバ墜落まであと30秒ですう」

「間に合ってっ!」

泥谷軍曹にできるのは祈ることだった。

「チューバ頼む!僕を助けて!」

マウスピースが本体と一体化した。

海水面がもう間近だ!頼む!僕は息を吹き入れて大きく鳴らした。

「ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

野太い低音が鳴り響く。するとチューバが反応して海面すれすれを飛行していく。

「やったー!」

泥谷軍曹が

「良かったぁ!」

と安堵したのもつかの間。

「安心したところ悪いけど破壊させてもらうよ」

草むらからきらりと光るコントラバスサックス。ビームの放物線、ターゲットの移動速度、距離、着弾予測地点を割り出した内村大尉が待ち受けていた。

それに気がついた泥谷軍曹は

「危ないっ!」

と咄嗟に言うことしかできなかった。

僕の耳に入る頃にはビームは放物線を描き迫っていた。

「うわぁぁぁぁぁぁ」

僕はチューバをビームが迫ってくる方向へ向けた。

まるで盾にするように。

すると、防御システムが展開されビームを防いだ。

それを目撃した内村大尉は

「将軍の無敵の盾・・・・・」

泥谷軍曹が驚いた顔で

「イージスの盾・・・」

とつぶやいた。

 爽やかな風と水しぶき。そして太陽と共にチューバと中原は勇者のように光り輝いていた。



 ポイント:不明

「報告します」

 泥谷中尉が真っ暗な部屋にぬるりと現れる。

「先ほどチューバの起動を確認しました」

 そして暗闇に向かって泥谷中尉は話し出した。



 

 次回、第2曲 「ようこそ!金管航空宇宙作戦隊へ!」

 僕たちの演奏は続く。次回もお楽しみに!


 ※この物語はフィクションです。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る