第70話


「ありがとう……!」

「危なっかしいお姫様ですね」

「……!」

「そんな所が堪らなく愛おしいんですけどね」

「もうッ! 離して」

「離しません」

「~~~っ!」

「こんなに可愛らしい表情をしてくれるようになるなんて、今まで頑張った甲斐がありました」

「……ッ、可愛くない! 近いっ! 近いってば……!」


先程からダリルの顔を見ると心臓がうるさく感じた。

それを分かっていて、嬉しそうに顔を近づけてくる。


「俺はコイツを医務室へと運ぶ」

「ロ、ローラをお願いね」

「……そうだな」


デュランは眉を寄せて、ローラを複雑そうな表情で見つめていた。


先程のマーベルの言葉を思い出すと、デュランに掛ける言葉が見つからなかった。

デュランがローラを医務室へ運ぼうとした時だった。

いつまで経っても教室に戻ってこないローラやダリルを探して、コンラッドが慌てた様子でやってきた。


「姉上ッ!? これは……何があったんですか? ローラも……何故ここに?」

「コンラッド……!」

「一体何があったの!?」

「……マロリーが、悪魔に取り憑かれていたみたいなの」

「まさか……! 悪魔だって?」

「ローラとダリル殿下がマロリーについた悪魔を祓ってくれたのよ」

「なるほど……エールラン子爵家の噂は僕も聞いたことがある」


コンラッドが納得したように呟いた。

心配そうに此方を見つめているコンラッドの頭に手を伸ばして髪を撫でていた。

ローラとデュランの側にいる女神メーティスが力を貸してくれなければ、どうなっていたか分からない。

今更になって襲う恐怖。小さく震える体をダリルは優しく抱きしめてくれたのだった。


ーーーあの後、どうなったのか。

まず悪魔マーベルに取り憑かれていたマロリーは、あの事件からずっと目を覚ますことなく眠り続けていた。

精神と体への負担がかなり大きく、専門的な治療がなければ、一生目を覚ますことがないかもしれないといわれ、エールラン子爵家に預けられた。


ローラは悪魔祓いの力がとても強く、その噂を聞きつけたエールラン子爵家に養子として引き取られた実力者だったようだ。

けれど、まだ半人前で覚えることは沢山あるのだという。

逞しいヒロインに感謝である。

悪魔マーベルは魔王の側近クラスの相当高位な悪魔だったらしく、天使の力が籠った十字架とダリルの力とデュランに憑いている女神の力がなければ押し切られていたかもしれないとローラは言っていた。


マーベルはマロリーを使ってダリルと仲を深め、デュランの側にいる女神メーティスを始末しようとしていたそうだ。

女神メーティスによると、ダリルに憑いていた時は、マロリーと同じようにダリルの心の隙間に入り込んで操り、デュランを悪魔側に引き摺り込もうとしていた。

しかしトリニティとの出会いがキッカケで、ダリルの気持ちが上向きになったことによって、マーベルの計画は阻止された。


次にマーベルは、使い易そうなマロリーを見つけてズルズルと侵食していった。

そしてどういうわけか、再びマロリーの前に立ちはだかったトリニティ……。

トリニティがマロリーの心に荒波を立て続けたせいで、上手くマロリーのコントロールが効かなくなってしまったようだ。

故にマーベルは邪魔なトリニティを処理してから女神を消し、デュランを引き込むためにマロリーの精神を一気に追い詰めて、体を乗っ取った。

周囲に居た令嬢達や、ケールとサイモンも以前のトリニティのように、何らかの被害を受けていたのだろう。

以前のように、行き過ぎた過剰な行動を取ることはなくなった。


その事を知ったダリルは、ケールとサイモンに対しての態度を改めて考え直しているようだが、相変わらず表情は硬いままだ。

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