第69話


「ローラ……!?」

「今度は、私がトリニティ様を守りますからっ!」


イケメン過ぎるローラの言葉にキュンとしながらも、邪魔にならないようにと立ち上がる。

足がもつれて倒れそうになると、デュランが後ろから支えてくれた。


「……デュラン!」

「大丈夫か?」

「ありがとう……! もしかしてローラって何か特別な力があるの?」


ローラはこのゲームのヒロインだ。

何か特別な力があってもおかしくはない。


「そういえば、エールラン子爵家は、裏で悪魔祓いをしていると聞いたことがあったな」

「……悪魔祓い!?」

「確か以前、平民で能力が高い子供を養子に貰ったと……」


悪魔と戦えているということは、ローラは強い悪魔祓いの力を持っていエールラン子爵家に引き取られたのだろう。

ローラには、トリニティのように天使が側に居る訳でも、デュランのように女神に愛されている訳でもない。

悪魔と戦える理由は、悪魔祓いの力があったからのようだ。

ヒロインのネタバレ要素を知れたのは良かったが、このタイミングでは素直に喜べない。

ローラは悪魔マーベルと激しく戦っている。


『ーー邪魔をするな!』

「絶対に皆を守ってみせるッ!」

『ハハッ!お前如きが俺様に敵うとでも思うのか!?』


祈るような気持ちでマーベルとローラの戦いを見守っていた。

残念ながら自分にはローラのような特別な力を持っていない。

(何か、何か出来ることはないの!?)

そんな時だった。


「トリニティ様……!」

「…………!」


名前を呼ばれて振り返ると、そこにはダリルの姿があった。

どうやらローラが戻らなかったことや、焦った様子で教室に戻って来た令嬢達を問い詰めてここの場所を聞き出したようだ。


「兄上、これは一体……!」

「お前の元にいた悪魔がマロリーの側に居たらしい……。そして体を乗っ取り、トリニティに手を掛けようとした。それは俺を魔王の元に連れて行く為だそうだ」

「ーーー!!」


その言葉を聞いたダリルの額に青筋が浮かぶ。

そのまま内ポケットから十字架のようなモノを取り出す。


「それは……まさか! ダリル、お前は……」

「リュートに詳しく聞きました……僕に悪魔がついていたことも、その悪魔のせいで兄上を孤立させて追い込もうとしていたことも」

「……!」

「もし僕の側に悪魔が居続けていたら、きっとトリニティ様にも害が及んで、兄上を悲しませていたでしょう。そんな事、二度とごめんだ」

「よせ、ダリル……!」

「もう守られているばかりの僕ではありません! 悪魔の事、沢山勉強したんだ。兄上とトリニティ様は僕が守るッ!」

「……ダリル殿下」

「ダリル……」


ダリルはそう言って、ローラの元へと向かった。


「ローラ、僕も手伝う……!」

「ダリル殿下! ありがとうございますッ」

『このっ……次から次へと、小賢しいッ』


ダリルの隠れた努力に感動しているとデュランが小さな溜息を吐く。

そして、今まで見たことのないような優しい顔で「夜な夜なリュートと何をしているかと思いきや……全く」と、言いつつも嬉しそうにしている。


そして、デュランが覚悟を決めたように「メーティス、頼む」と呟いた。

どうやら女神と共に何か話しているようだ。

二人の側へと歩いていく背中を引き留めようとしたが、伸ばした腕をそっと下ろした。

ダリルとローラはデュランの姿を見て、焦った様子で口を開く。


「……っ、危ない! 兄上は下がっていて下さい」

「デュラン殿下、来ちゃ駄目ですッ!」

『デュラン様……! どうか我々の元に』


恍惚とした表情を浮かべるマーベルはデュランに向かって手を伸ばしている。


『さっさと消えろッ! クズ共が』

「くっ……!」

「……きゃっ」


気持ちが昂ったマーベルに力で押されているのか苦しそうに二人の顔が歪んでいる。

そんな中、デュランは二人の肩にてを触れた。


「マーベルは恐らく高位な悪魔だ。頑張ってくれ」

『……ま、まさか!』

「女神メーティスが力を貸す……受け取れ」


デュランの碧眼が淡く光った瞬間、キラキラと金色の光がダリルとローラを包み込む。


「力が……!」

「ありがとうございますっ!」

『小賢しい女神がぁ……クソォォ』


二人が力を込めると、眩い光が辺りを照らす。

一瞬にしてマロリーを金色の光が包み込んだ。


『ーーーーギャアアアアアァッ!』


耳を塞ぎたくなるようなマーベルの断末魔と共に、マロリーがその場に倒れ込んだ。

そして紫黒色の煙が空へと昇っていく。

消えた圧迫感にホッと息を吐き出した。

ダリルとローラは荒く息を吐き出している。

(わたくし、生きてた……!)

地面に横たわるマロリーを横目で確認した後、荒く息を吐き出して汗だくになっているダリルの額をハンカチで押さえた。


「ダリル殿下、大丈夫……?」

「大好きなトリニティ様と兄上の為ですから……!」

「~~~っ」


ふにゃりと笑ったダリルの優しい表情に顔が真っ赤になった。

その顔を見られたくなくて、ダリルに思いきり抱きつくと「トリニティ様こそ、大丈夫ですか……?」と優しく抱き締め返されて、ますます心臓がバクバクと音を立てた。

それと同時に「無事で良かった」「怖かった」「ありがとう」と色々な感情が込み上げてきて、涙が出そうになった。

ダリルはそんな心情を知ってか知らずか「トリニティ様が無事でよかった」と呟いた。


「……ありがとう、ダリル」

「兄上も、力を貸してくれてありがとうございます!」

「頼もしい弟だな」

「はい……! また悪魔につけ込まれたら嫌なので自分で祓えるようにリュートに色々と教えてもらいました。それに……兄上を守れるようになりたくて」

「……そうか」


益々嬉しそうなデュランを見ていると、ローラが今にも倒れそうにフラリとよろめいた。

ダリルから離れて座り込んでいるローラに手を伸ばす。


「すみません。緊張が解けたら力が入らなくなってしまって……」

「ローラ、本当にありがとう」

「トリニティ様、怪我はありませんか?」

「えぇ……貴女が居なければ、わたくしはどうなっていたか」


ローラとダリル、デュランが居なければ、恐らく跡形もなく消えていたに違いない。

マーベルが放った黒い雷が当たった地面や壁は、溶けて抉れている。

それを見てゾッとした。


「トリニティ、様……デュラン殿下も、無事でよか、っ……」

「ローラ!?」


ローラが倒れそうになり反射的に手を伸ばす。

間に合ったのは良かったが、ローラの重さに耐えきれずに一緒に倒れ込みそうになるが、間一髪でデュランがローラを抱え上げた。

重力に逆らえずに、そのまま倒れ込むと思いきや、ダリルが腕を掴んで、再び抱き締められるようにダリルの腕の中へ。

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