第49話

そんな回想をしつつ、ルンルン気分で入学式を終えるとニヒルな笑みを浮かべて現れたデュラン。

相変わらずデュランの顔だけは眼福である。

推しが現実世界で動いて喋ってくれるのは、やはり尊い。

トリニティの貴重な心のエネルギー源である。

本来『デュラン』は一作目の乙女ゲームのメインキャラではない。

勿論、トリニティとの絡みもヒロインとの接点も殆どない。


『お前の側にいると面白い事が起こるから』という意味のわからない理由で共に学園に通い始めたのである。

デュランは全ての学習過程を遥か昔に終えているそうで本来は学園に通う予定はなかったのだそうだ。

そしてまさかの同じクラスである。

乙女ゲームでは一番下のFクラスであったがクラスが変わって一番上のAクラス。

デュランの足元には及ばないが、勉強は難なくクリアした。

貴族の学園ではあるが身分は関係なく、成績順で分けられている。

そんな学園の方針もデュランの助言が関わっているのだというのだから驚きである。


「女神様も見る目無いわよね」

「……あ?」

「どう見たって『魔王』って言葉の方が似合うじゃない?」


反論するかと思いきや、デュランは納得するように頷いた。


「ああ、そうだな。まぁ実際はメーティスはそうならないように天界から送られた見張りのようなもんだからな」

「見張り……?」

「俺が悪魔と手を組まないように見張ってるんだと」

「どうして?」

「……この世界が滅びるから、って言ったらどうする?」


デュランの表情をじっと見つめた。

冗談半分、半分本気といったところだろうか。

(これは次のステージに対する伏線か……?)

乙女ゲーム歴とゲーム脳を舐めないで頂きたい。

やはりデュランは次回作でのラスボスなのだろうか。

確かに初めから盛り込まれている人間離れした『天才』という設定。

それに加えて、リュート曰く人間ではあり得ない女神の加護持ち。

アール君に似た王道のやんちゃ系イケメンは魔王というイメージにピッタリである。


それに『退屈』『面白そう』という言葉……。

そして大抵の場合、天才は何かを壊したがるという、よくある展開。

一作目で何らかの力を得たヒロインが魔王となったデュランを協力して戻す、または倒すのか。

二作目の内容は知らないがそんな展開なのではないだろうかと想像しつつ、デュランの言葉の意図を読み取っていく。

それにダリルの側にいた悪魔マーベルの存在も気になるところだ。

もしかしてヒロインの愛によって追い払われた悪魔マーベルがダリルを襲って、守ろうとしたデュランが庇って……とかだろうか。

仲の悪かった兄弟の感動的な場面を組み込もうとする製作者側の意図がヒシヒシと伝わってくるではないか。


「おい、トリニティ……?」


捗る妄想にデヘデヘしていると名前を呼ばれてハッとする。

咳払いすると声を張る。


「勿論、世界は滅びて欲しくないわ!」

「…………」

「それに誰にも、わたくしの素晴らしい人生を邪魔する権利はなくってよ!」


折角、この世界で第二の人生を過ごしているのだ。

世界が滅びてしまったら悲しいではないか。


「ハハッ……! そんな事を言われたのは初めてだ」


デュランはその言葉に何を思ったのか爆笑している。

決して笑わせるつもりはなかったのだが、後にも先にもデュランが自分の事を語ったのはこの時だけだった。

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