第50話

相変わらずデュランは何を考えているかは分からないが、良い友人関係を築いている。

ケリーとリュートも順調に仲は深まっているのだが、いつまで経ってもケリーの記憶が戻らないことにとても落ち込んでいる。

ケリーもケリーで思い出す気はないようで、以前と変わらない生活は続いている。

そしてダリルは……。


「トリニティ様、今日も可愛らしいですね」

「こうして一緒にいられる時間が幸せです」

「貴女が好きという気持ちがどんどん増していくんです。ありがとうございます」 


と、ピュアで可愛らしい事を言ったかと思いきや……。


「僕以外、誰にも見せたくないなぁ」

「どうしたら僕しか見えないようになるんだろう」

「さっき仲良さそうに話していた令息って、誰ですか?」


と、偶にヤンデレを爆発させている。

少しトリニティに執着し過ぎるような気もするが、引き続き理想に近づく為に死ぬほど努力しているようで、デュラン並みの恐ろしいハイスペック王子様が誕生した。

しかも周囲からの信頼度も高く、立派な国王になるだろうと期待されている。

令嬢や国民からの人気もアイドル並みである。

コンラッドも何故か日に日に男らしくなっていて、体まで鍛え始めてしまった。

可愛い美少年は爽やかで凛々しい美少年へと変わってしまった。


(これからどうなるのかしら……)

結果的にはトリニティが介入したせいで攻略対象者のうち二人のキャラ設定が崩壊してしまったのである。

けれど、以前より幸せそうなので良しとしよう。

そして二年間は平和に過ごせると思っていると、まさかの出来事が起きた。


「ーーー貴女、トリニティ・フローレスよね?」

「……えぇ、そうだけど」


突如、Aクラスに現れた派手で騒がしい男女が入り混じった軍団。

クラスは成績優秀な者達が多いから本を読んだり勉強したりと静かな時間を楽しむ人たちが多い。

デュランと共に教科書をペラペラと開いて内容を確認していた自分の元にやって来たのは同じ悪役令嬢であるマロリー・ニリーナである。

そんなマロリーを冷めた目で見ていた。

何故なら、とても嫌な予感がするからである。


「トリニティ、知り合いか?」

「さぁ……どうだったかしら」


正確に言うならば間接的に知っていると言うべきだろうか。


「まぁ……お前に令嬢の知り合いなんて居る訳ないか」

「…………誰かさんのせいでね」

「ああ、俺の可愛くて自慢な出来が良い弟の話か?」

「違うわよッ! 可愛くて自慢が出来て素晴らしいって言ったらウチのコンラッドに勝る男がいる訳ないじゃない! 確かにダリル殿下もなかなかに……可愛いけれども」

「はっ……分かっているじゃねぇか」

「くっ……!」


デュランと話していると、マロリーがわざとらしく咳払いをする。

チラッとデュランを見てから、ほんのりと頬を赤らめたマロリーだったが、デュランは興味がないのか完全に居ないものとして無視している。

ハッと気付いたマロリーは此方に向かって信じられないような言葉を吐き出した。


「はじめまして! 私はマロリー・ニリーナです。突然だけど『悪役令嬢』と『転生者』っていう言葉に聞き覚えありますか?」

「…………」

「もし知っているなら、二人きりでお話しませんか?」


マロリーの言葉を聞いて、僅かに目を見開いた。

そしてこれ以上、デュランの前で色々と喋らないで頂きたい。

知識欲が刺激されているのか先程とは一転、デュランは興味深そうに此方の様子を伺っている。


「マロリー様、場所を変えましょうか」

「ウフフ、そうしましょう」


マロリーは無表情美人系なのだが、雰囲気が少し……いや明らかに違っている。

無表情とは一転して、可愛らしく表情豊かである。

それが作り物だということは、同性の自分には分かってしまうのが切ないところだ。

背後には取り巻きの令嬢達がマロリーを称えている。

令嬢達はマロリーに声を掛けながらも此方を値踏みするように見てコソコソと笑っていた。

そしてインテリ眼鏡君とクール系無口君が護衛のようにマロリーの側にいて、警戒するように此方を見ていた。

どうやらマロリーを心配しているようだ。


(なんだこの状況は……)

ひくつく頬を押さえながらも席を立つ。

どう見ても自分が知っている乙女ゲームのマロリーとは程遠い。

マロリーが笑顔で「教室で待っててね、すぐ戻るから」と上擦った声で言っている。

あざといを通り越した堂々のぶりっ子である。

その異常な様子を見ながら、マロリーの後に続いて教室を出たのだった。


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