第41話
むくれているダリルの頭を撫でた。
可愛い弟には幸せになって欲しい……その思いだけだった。
部屋に戻ってから手紙を書いてすぐにフローレス邸に届けるように従者に渡す。
次の日には返事が返ってきた。
久しぶりに外に出る為に重い腰を上げた。
お忍びの為、軽装に着替えてからダリルに見つからないように素早く馬車に乗り込もうとすると、後ろからリュートに声を掛けられた。
なにかと思えば「一緒に連れていって欲しい」と懇願されて、共にフローレス邸に向かう事となった。
馬車から降りて屋敷の中を案内されると、部屋の中で待っていた令嬢と令息は丁寧に腰を折る。
声を掛けると、ゆっくりと顔が上がった。
その視線は鋭く、明らかに不満を訴えかけているように思えた。
暫く談笑しながら頃合いを見計らって侍女達を下げる為に片手で指示を出す。
そして此方を睨みつけながら言葉を待っているトリニティに向かって口を開いた。
「要は、さっさと婚約しちまえ」
「デュラン殿下、その顔……ムカつくんですけど」
「俺が認める人間なんて滅多にないぞ?」
「そんな事知りませんわ! そもそも何年も好意がある事を黙っていることがいけないのよ!」
「そうか?」
「ーーーわたくしは散々っ」
トリニティは凄い勢いで不満を吐き出している。
少し収まるまで待つかと思ったものの、なかなか終わる事はにい。
そんな時、良いことを思い出す。
「聞いてますの!?」
「あぁ……なら俺の顔に免じて許せ」
トリニティが自分を初恋の人に似ていると言っていた事を思い出して、にっこりと笑みを作る。
流石にこれでは駄目かと思っていると、トリニティはまたもやデュランの予想外の反応を示した。
「くっ……! それは卑怯だわ」
「ブッ! はは……っ」
「…………でも、許してしまう」
「いや、許すなよ……」
今にも「馬鹿なのか?」と問いかけてきそうな眉を顰めるデュランを見ながらトリニティは彼の顔の良さに唇を噛んだ。
(クソ……! この顔面と性格、反則だわ……!)
トリニティが毎日の日課であるコンラッドを愛でていた時のことだった。
以前の推しで初恋のキャラクターに激似であるアール君こと第一王子であるデュランが訪ねて来たのだ。
デュランが手土産を持って現れたことでフローレス家の侍女達は、これ以上ない程にざわめいていた。
滅多に人前に現れることのない王家の宝。
天才デュラン……現れるのは必要最低限のパーティーかダリルの誕生日パーティーのみ。
そんな謎が多いデュランは堅苦しい格好ではなく、王族らしからぬラフなパンツとシャツで現れた。
彼のそんな姿も只々、尊くて唇を噛み締めていた。
そして何の用事かと思いきや、以前の話の続きをする為にやってきたのだ。
しかも、いつもはダリルの側にいるリュートを連れていることに気づく。
馬車の時同様、限りなく影を薄くしているが、キョロキョロと辺りを見回している。
不思議そうにリュートを見ていると「どうしてもフローレス邸に行きたい」と譲らなかった為、ここに連れてきたのだそうだ。
「抵抗しても無駄だ。ダリルと結婚したらお前は幸せになれるぞ」
「はぁ……!?」
「俺の弟は素晴らしいぞ? 文句のつけようがない。お前が落ちるのも時間の問題だと思うけどな」
「……このブラコン野郎がッ!」
「それはお前だろう? ブラコン女」
「天才だか何だか知らないけど、前と言ってる事が違うんじゃないの!?」
「俺がいなきゃ不毛な約束をして、結局ダリルの思惑通りだっただろう? そして間違いなく昨日のうちに婚約していた。大方、金の約束でも取り付けて捨てられてもいいようにってところか?」
「なっ……!」
「それを俺がフェアにしてやったんだ。感謝しろよ?」
「一体、どっちの味方なのよ!」
「勿論、ダリルの味方に決まっている。お前が余りにも不憫だったから助けたんだ……王家にも非があるからな」
「随分と可愛くない兄弟よねぇ……この国の未来が心配だわ」
「安心の間違いだろう?」
ニタリと笑ったデュランに目を見開いた。眼福である。
そしてデュランとの争いは、いつの間にか弟自慢に変わっていく。
コンラッドを抱きしめたまま、デュランと会話をしていた。
「わたくしの弟、コンラッドの方が絶対に可愛いッ!」
「いや、ウチのダリルだな」
「あんな腹黒くて末恐ろしい男の何処が可愛いのよ!? 頭が良すぎて、どっかのネジ吹っ飛んでんじゃないの!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます