第42話
「お前が身長が高くてイケメンで包容力があって、家族を大切にして、思いやりがあって、いつも明るくて笑顔が爽やかで、スポーツ万能で、頭が良くて、お金持ちで、海のように広い心で優しく見守ってくれる一途な男らしい素敵な男性がいいと非現実的な理想を言ったせいだろうが!」
「ふんっ、理想を語るのは自由だもの! 何がいけないのよ」
「そんなお前のくっだらない理想に添えるように必死に努力していたんだよ。ダリルは」
「わたくしは別に求めてはいないわ! 勝手にそうしただけでしょう!?」
「これからはお前の意志を尊重しようと反省したダリルの優しさに少しは感謝しろ。それにダリルを理由なく拒否し続けるその態度にも原因はあるだろう?」
「…………!」
「しかもトリニティが自分を嫌っているという事を理解していたからこそ、そうするしかなかった。無理強いをしなかったんだ。本当はもっとゆっくりと距離を詰めるつもりが、お前が俺に強く興味を示した事に焦ってしまっただけだ」
「たっ確かに、わたくしの態度にも問題はあったかもしれないけど、でも納得できないわ! わたくしの硝子のハートはバキバキですわ!」
「嘘だな。お前の鉄のハートは絶対に割れない」
「何ですって!?」
「貴族に生まれて、こうして王太子と結婚する事に抵抗する方も珍しいけどな。だからダリルも気になったんだろうが……前向きにダリルとの関係を考えた方が身の為だぞ?」
「はぁ……!? わたくしのせいだって言いたいの!?」
「あぁ……だが大人しくて気弱だったダリルがトリニティに出会ってからは前向きになったのは事実だ」
そんな気弱なはずのダリルは、以前のトリニティが婚約者だったときには幼い頃と性格は殆ど変わっていなかった。
(はっ、まさかッ……!)
以前トリニティはダリルを異常なほど愛して尽くしていた。
それでは彼の成長を促せなかったということなのだろうか。
今回はトリニティが高い壁を設定したせいで、ねちっこくて頭が回る性格に変化したとしたならば、この展開も有り得るのではないだろうか。
(悪役令嬢ってヒロインと対決するだけじゃなくて、王太子を育てる役目も担っていたのか……? 正式な婚約者ではないのにそんな設定あるわけないと思いたいけど……いや、気付かないだけで(仮)婚約者だったってことは、その可能性も無きにしも非ず……)
頭を抱えて悶々と考え込んでいると、ずっと黙っていたコンラッドが口を開く。
「つまり姉上は、ダリル殿下と婚約するまで付き纏われるってことですか?」
「「…………」」
二人の視線がコンラッドに集まる。
「単純に解釈するとそうなるな」
「……え!?」
衝撃的な事実に声を上げた。
「なら、どうして姉上をさっさと手籠にしないのですか? やっていることが中途半端で聞いていると苛々します」
「コンラッド!?」
「トリニティに好きになって欲しいんじゃないか? 自分の意思で」
「へ……?」
「それに好きな人が出来たら諦めると言いながら、ダリル殿下に姉上の周りをウロウロされていたら他の令息が近付きにくいです。それは遠回しに姉上の選択の自由を奪っている事になりませんか?」
「コ、コンラッド……?」
「鋭いところをつくじゃないか」
「その時点でフェアではありませんよね?」
あのデュラン相手に怯む事もなく、次々と言葉を吐き出すコンラッドは随分と頼もしい弟である。
「大丈夫ですよ、姉上。僕もシスコンなので姉上の事を守る為にいっぱい勉強したんです」
「そ……そうなんだ、知らなかったわ」
そして珍しくデレたコンラッドは冷めた視線でデュランを見ている。
「フェアとするならば、姉上と殿下の(仮)婚約者状態をまず解消するべきでは?」
「それはあまりオススメしない」
「何故です?」
「この間の誕生日パーティーで周囲に知らしめたからな。トリニティの為にも解消しない方が無難だな」
「ほら、逃げ道なんて初めからないじゃないですか。汚ったない手を使ってばかりいないで、少しは姉上の幸せの事も考えてくださいよ」
コンラッドは淡々とデュランに言い放つ。
「どうにかして下さい、デュラン殿下。今まで頑張って婚約者を探していた姉上が報われません。可哀想です」
「…………まぁ、確かにな」
「ちょっとッ!!何でコンラッドには素直なのよ!」
「お前の弟……なかなかいいな」
「ウチの可愛い可愛いコンラッドはあげないわよ!?」
「いや、そういう意味じゃない」
「ハッ、まさか禁断の恋を……? まぁ……それはそれで応援しなくもないけど……」
「「違う」」
コンラッドとデュランの声が揃う。
二人の顔を交互に見ていた。
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