第29話
確かに詰まらない話だったかもと、空気を読んで話題を変えなければと考えていると、ダリルが用意してくれたドレスが目に入る。
そういえばドレスと靴をプレゼントしてもらった御礼を言っていないことに気付いて直ぐさま頭を下げた。
「ダリル殿下、素敵なドレスをありがとうございました。似合ってますか? それとも想像とは違いましたか?」
「とても似合ってます。本当に天使様かと思うくらい素敵ですよ…………閉じ込めてしまいたいくらいです」
少し冗談っぽく言ったつもりだったが、予想の斜め上をいく反応を返されて戸惑っていた。
そして『閉じ込める』という言葉がどうもリアルだ。
「閉じ、込める……?」
「はい」
「……えっと、わたくしを」
「はい!」
爽やかに笑いながら返事をするダリルに危機感を感じて、どうにかこの場を凌ごうと思考を巡らせていた。
(そうだわ! ダリルをコンラッドのように可愛がってみましょう……!)
作戦を変更してダリルの頭を撫でようと手を伸ばす。
パーティーでもダリルは王太子として堂々と対応していて同い年のコンラッドと比べるとかなり大人っぽく見えるが、敢えて子供扱いしようと思ったのだ。
「トリニティ様……?」
ダリルは不思議そうに此方を見つめている。
サラサラとした金色の毛を撫でながら、引くに引けなくなってしまい手を離すタイミングを伺っていた。
「お、弟のコンラッドにも、よくこうしているんですよ?」
「弟……」
「殿下が可愛く見えてしまって、つい……オホホホ~」
すると手首を掴んだダリルは、手を取り口元へと運んだ。
そして指先に柔らかい唇の感触がして目を見開いた。
ダリルの視線は一転して色気の含んだものへと変わる。
流れるような仕草に固まっていたが、直ぐに反射的に手を引いた。
(……な、何が起こっているの!?)
ダリルのサファイアブルーの瞳は真っ直ぐトリニティを映している。
「トリニティ様……」
「は、へ……?」
「弟君と同じ扱いをされては困ります。僕を男として意識してくださいませんか?」
その言葉に耳を疑った。
リュートに助けてもらおうと視線を送るが、助けるどころか嬉しそうに頷きながら此方を見ている。
狭い馬車の中で、熱意のこもった言葉が響く。
相手は子供だと言い聞かせてもドキドキと心臓は激しく音を立てていた。
ダリルの視線を振り払うように、そっと瞼を閉じて考えを巡らせていた。
(相手は子供なのッ! トリニティ……こんな時こそ冷静になるのよ!)
今は『トクン』も『ドキン』も要らないのだ。
ここで流されてしまえば今までの努力は水の泡である。
婚約者は出来なくても、最短ルートを諦めた訳では無い。
(ネバーギブアップ! ここは流されたら負けよ!)
自分の幸せは自分で掴まなければならない。
そして不安要素は……。
(ーーー今すぐ握り潰すッ!)
そして大きく息を吸い込んだ後、カッと目を見開いて言い放つ。
「嫌ですわ……!」
「…………そうですか」
ダリルはショックを受けるどころか、柔かな笑みを崩さない。
(こ、怖ッ……! ダリルが何を考えているか全然分からないッ)
良心がチクチクと痛むが、奥底に押し込めてから頭をフル稼働させながら言葉を続けた。
「ダッ、ダリル殿下を異性として意識するのは無理ですわ! えぇ、無理なんですッ!」
「……どうしてですか?」
「ど、どうしてと言われましてもダリル殿下を意識する程、わたくし達は顔を合わせておりませんし」
「…………」
「仮に異性として意識したと致しましょう。今のダリル殿下の様子を見るに、まだまだ未熟ですし……それに、わたくしの理想には全然届いていませんものッ」
「…………ふむ、それも一理ありますね」
顎に手を当てたダリルを見ながら、めちゃくちゃ焦っていた。
まさか三年越しにこんな事になるとは思わずに、完全に油断していたのもあるが、冷静に切り返してくるダリルにどうすることもできない。
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