第64話 書籍8巻発売記念SS『迎賓館』


 迎賓館はその役柄から、普段は使われることがない。


 使われることはないが高価な家具などが置いてあるため、念のためにと犬人族の警備が配置されている。


 まだまだ若く、大人の仲間入りをしたばかりの新兵を仕事に慣れさせるためにと配置して……決められた時間、しっかりと警備が出来るのかを見極め、出来ないようなら他の仕事に回すか鍛え直すかして……迎賓館はそうやって領兵になるための試金石の場としても活用されていた。

 

 そんな迎賓館に入ることが許されているのはディアスとアルナー、エリーとベンといった一部の者達だけとなっていて……メーアの六つ子を連れながら楽しげに、迎賓館に向かって軽快に歩いているセナイとアイハンも、ディアスとアルナーの家族であるからと入館を許されていた。


「どうぞ、お入りください!」


 セナイ達が迎賓館に近付くと、そのことを知っている警備の一人がそう声を上げて、セナイとアイハンと六つ子達は堂々とした足取りで迎賓館の中へと入っていく。


 入ったなら戸をしっかり閉めて、中に誰もいないことを確認して……それから満面の笑みを浮かべたセナイ達は、最近迎賓館で繰り返し行っている遊びの準備を始める。


 まずは椅子を引いてその上に六つ子達を座らせていく。


 六つ子達の役目はお客さんの貴族達だ、座らせたならしっかりとテーブルに寄せて……そして自分達は最奥の、ディアスが使っていた椅子へと腰をかける。


 と、言っても二人同時に座る事はできないのでまずはセナイから座り……そこから始まるのはおままごとの一種、領主と貴族ごっこだ。


「ようこそ、いらっしゃいましたー!」


 椅子に座ったセナイがそう声を上げると、六つ子達がメァメァミァミァと声を上げてそれに応える。


 それが合図でそこからが本番で……給仕の真似をするアイハンから、棚にしまってあった空のコップや皿を受け取り、食事の真似や挨拶の真似、交流……外交の真似なんかをしていく。


 基本的には自分達の家と同じ作りの、ユルトとなっている迎賓館だが、そこに置かれた家具は王国風の高級品、飾りも綺羅びやかで、自分達が知るユルトではないみたいで……別世界での非日常的な遊びは、セナイ達や六つ子達にとってたまらない娯楽となっていたのだ。


 セナイが存分に領主役を堪能したら今度は交代してアイハンが領主役となり……六つ子達もまた別の貴族を、先程とは性格が全く違う空想上の貴族を演じて、それに応えていく。


 そうして存分に迎賓館での遊びを堪能したなら、慣れない椅子から降りて、六つ子達も下ろしてあげて……そうしてふかふかの絨毯の上に皆で一塊になって寝転び、すやすやと寝息を立ててのお昼寝タイムへと突入する。


 するとそれを待っていたかのように迎賓館の戸が開かれ、ディアスとアルナーが顔を出し……眠ってしまった子供達のことをそっと抱き上げ、起こさないように気をつけながら自分達のユルトへと運んでいく。


 そうして日が暮れ始めた折、空腹のあまりに目を覚ましたセナイとアイハンと六つ子達は……自分達がいつの間にか、我が家へと戻ってきていることに気付きもせずに、大きく音を鳴らす腹を撫でながら、ごはんだごはんだ、夕飯の時間だと、そんな声を上げながら香ばしい匂いが漂ってくるユルトの外へと駆け出ていくのだった。

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