第62話 コミカライズ36話 公開予告SS
今日のユンボは広場の脇にあるエリーのユルトへとやってきていた。
天井からは作りかけの服なのかいくつもの布が垂れ下がり、壁には商売に関するあれこれが記された紙が所狭しと張られていて……いくつもの本棚があり、作業机があり、様々な品が置かれていて、寝るための場以外は足の踏み場もないといった有様だ。
ユルトはいざという時には解体し、荷物ごと運び、安全な場所に建て替えるという、そういう意図のたてものなのだが、これだけ荷物が多いと、移動なんかはまず不可能で……アルナー辺りが見たら怒られるのではないかなぁと、そんなことを考えながらユンボは、一番奥にある紙束まみれの机へと向かう。
そこにはユンボのためにと用意されていた複数の革袋があり、それらを開いてみると中には何枚もの金貨が入っていて……その金貨を数枚取り出したユンボは、手に取りじっくりと見てから、そのデザインなどを持ってきた紙に書き写していく。
エリー曰く、
『金貨と言っても発行している国や地域、時期なんかで意匠が重さが違うから、全てが同価値という訳でもないのよ。
金の含有量によっても価値が変わるし、ひどいものだと表面にだけ金を貼り付けただけ、なんてものもあるし。
だから私達商人はそこら辺の見極めが出来ないとお話にならないのよねぇ』
とのことで……エリーがメーアバダル公御用商人として管理している金貨はその価値ごとに分けて管理されているらしい。
発行地域、あるいは時期、金の含有量などで別のものとして扱い、相手によってどの金貨で支払いするかを使い分け……今後、国への納税をすることになった時のために納税に相応しい金貨を溜め込んでおく。
国への納税とはつまり忠誠心の証であり、義務でもあり……それを質の悪い金貨でやったとなると、問題になることもあるらしい。
そのため納税の時期になると特定の金貨だけが品薄となり、値段が高騰するなんてこともあるそうで……エリーは今からその時のための準備をしているということらしい。
そこら辺の情報と一緒に、それぞれの金貨の意匠を書き込んでいって……書き込んだならその紙を小さく畳み込み、紛失したり誰かにとられたりしないよう、大きく垂れた耳の中へと押し込み、隠す。
そうして満足げなため息を吐き出したユンボは、エリーのユルトを後にしながら内心で……、
『まぁ、コミック作りに活かすかは別問題なんだけどね、ただ気になったからメモしにきただけなんだけどね』
なんてことを考える。
ちょっと気になったからと、ただそれだけの理由でその旨をエリーに伝えてみたら、大げさに喜ばれてあれこれ話をしてもらえて、大事にしている貯金用の金貨まで見せてもらえて……。
個人的には面白かったけども、これだけの種類がある金貨を都度書き分けるなんてのも大変で、本当にただただ己の好奇心を満たしただけのユンボはそのまま自分のユルトへと帰っていき……メモ書きを耳の中にしまったまま、いつものようにコミックを描いていく。
そうしてユンボは後日公開されたコミックを見たエリーに、折角あれこれ教えたのにと物凄い目で見られることになるのだが……全く気にすることなくいつものように日々を過ごしていくのだった。
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