第60話 コミカライズ35話 公開予告SS
ユンボの下には隣領から定期的に、何通もの手紙が届いていた。
そのほとんどが領主であるエルダンが書いた感想の手紙だったのだが……時折ジュウハやカマロッツがコミックの資料になるだろうと思って書いたらしい手紙が紛れ込んでいることがあり……それらの中にはかなり重要な、ディアス達が知らないであろう情報までが書かれていることがあった。
これらの情報はコミックにしても大丈夫なんだろうか?
手紙を読む度ユンボはそんなことを考えた訳だが……自分より頭が良いであろうあのジュウハが手ずから書いて送ってきているのだから、きっと大丈夫なんだろうとそう考えて……そうしてユンボはそれらの情報を利用してコミックを描いていた。
コミックが隣領で流通する前にエルダン達がチェックしているらしいし、何か問題があればその時点で修正が入るはずだし……なんてこと考えながら手紙の束をチェックしていると……その中から何枚かの絵が出てくる。
隣領の絵描きに描かせたらしいそれは、隣領の人々の似顔絵で……以前隣領に住んでいたユンボからすると、わざわざこんなものを用意しなくてもと思ってしまう訳だが、ユンボが隣領を離れてから隣領に来たであろう人物の似顔絵もあって……そちらは参考に出来るなと、より分けて作業用のテーブルの上に乗せていく。
誰だか分からない髭面男の似顔絵、去年生まれたばかりらしい子供の似顔絵、新しく仕えたらしい文官の似顔絵……そしてジュウハの似顔絵と、横を向いたジュウハの似顔絵と、下を向いたジュウハの似顔絵と、よくもまぁこんなものを描かせたと驚くジュウハの後頭部と。
他の絵はインクのみで描かれているのに、ジュウハの似顔絵だけは絵の具を使って色彩豊かに描かれていて……それを見てユンボは、人の似顔絵でここまで色彩豊かにされてもなぁと、苦い顔をする。
絵描きに絵を依頼するだけでも結構な金がかかるはずなのに、ここまでの絵の具を使って……紙それ自体もそれなりに価値があるのも手伝って、これらの似顔絵は結構な高級品となっているはずで……。
それが一枚、二枚……全部で十枚もあって、これだけでジュウハの給料何ヶ月分かが飛んでいるのではないか? と、戦慄したユンボが毛皮の中でじっとり冷や汗をかいていると……そんなユンボのユルトの扉がコンコンと誰かにノックされる。
はて、誰だろうか? イルク村の皆はこの時間、外で働いていたり作業をしているユンボに遠慮したりで、ここにはやってこないのだが……?
と、そんなことを考えながらユンボがどうぞと返事をすると……ドアを勢いよく開けて一人の男がユルトの中へとずかずかと入り込んでくる。
「似顔絵だけでは足りないかと思ってな、来てやったぞ!!」
そう声を上げたのはユンボが手にした似顔絵に描かれた人物、ジュウハで……忙しい立場であるはずのジュウハが、わざわざやってきたことにユンボは一際戦慄し……あまりのことに何も言えなくなってしまう。
「はっはっは、あまりの色男ぶりに驚いたか? よしよし、今日は夜までこの俺様の武勇伝を語り聞かせてやろうじゃないか!!」
そんなユンボを見てジュウハは何を勘違いしたのかそんな言葉を口にし……そして夜を迎え、深夜になっても語り続け、翌日の朝になるまでユンボのユルトに居座り続けるのだった。
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