第58話 コミカライズ33話 公開予告SS


 いつもの如く自分のユルトでコミックを描いていたユンボは、ふと気になったことがあって声をあげる。


 それはエイマのジェリーボアという家名についての疑問で……手伝いをしていたエイマが、作業机の上から言葉を返す。


「ああ、ボクの家名はボクが勝手に名乗っているものなので、貴族とか、そういうのじゃないですよ。

 故郷で名乗っていたとかでもなくて、こちらに来てから家名のことについて学んで、箔付けに勝手に名乗っているんです。

 商人さんとか大地主さんとか、平民さんでも家名を名乗っている人は割と多いんですよ。

 貴族さんの家名と平民さんの家名は、同じようで全く違う、別種のものと考えてもらって構わないと思います」


 たとえば商人であれば店の名前を家名のように名乗ることがあるし、勝手に名乗っている家名から店の名前を付けることもあるし……そうこうしているうちに自然と広まり、定着するものだ。


 だがそれは公的に認められた家名ではなく、王城が発行している貴族名鑑に載ることはなく、公的書類にも記録されることもなく……本当にただ本人が名乗っているだけ、のものである。


「―――と、そんな感じなんですけど、まぁ実際は王城もお役人さんも、平民にも家名があるものと思って政務や書類作成をしているようですね。

 どこどこの街のどんな生業のなんとかさん、なんて毎回書くのは面倒ですし、貴重な紙の無駄ですし、家名で済むならそちらの方が良いですからね」


 そんな説明を受けて、なるほどなぁと相槌を打ったユンボは……手元の紙束を見て、隣領から毎週のように送られてくるコミック用の紙束を見て、これが貴重なのか? と首を傾げる。


「はい、とっても貴重なものです。

 貴重なものなんですけど、エルダンさんのとこは毎年山のように積み上がる砂糖葦の絞りカスから紙を作っていて……そのおかげで他の地域よりも紙が大量にあって、手に入りやすいんですよね。

 羊皮紙と違って管理が楽で、材料さえあれば量産も可能で……紙がたくさんあるからこそ、文字をたくさん書くことが出来る訳で……本とか詩集とか、それこそコミックとか、そういったものを作る余裕がある、という訳です。

 紙と文字は文化の基本でもありますから、これって結構大事なことだったりするんですよ」


 更にそんな説明を受けてユンボは、またもなるほどなぁと頷き……目の前の紙束をじぃっと見つめる。


 砂糖作りの副産物で貴重なもので、ここらでは売れないかもしれないが、遠方なら売れるもので……。


 そうしてユンボはもしかしたらこれも砂糖のように甘いのかもしれないなぁとか、どっかで売っぱらってしまうのも良いかも? なんてことを考えるが……そんな考えを読んだらしいエイマからの冷たい視線が突き刺さってきて……それを受けてユンボはエイマにぎこちない笑みを返してごまかそうとし……それから目の前の仕事へと向き直り、懸命にペンを走らせていくのだった。

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